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【フライト・コースってどんな感じ?】

航空学生入隊後、2年間の地上座学と体力練成が始まります。航空学生の2年間は非常に重要な期間だと思いますので、記事にもすべきだと思いましたが、YouTubeで1日の流れをUPされていますのでこちらの方が理解しやすいと思います。興味のある方は見てください。

ということで、本日は航空学生の2年間の記事はぶっ飛ばしてフライト・コースについて書いていこうと思います。ただ、注意していただきたいのは、私は戦闘機コースに進みましたので、救難機や輸送機のコースについては詳細は不明です。ここでは私が経験したことを中心に書きますので、最新情報は防衛省の航空学生HP等を参考にしてください。
(2020.4.21 Twitterフォロワー様よりフライトコースのクラス分けについて最新情報を追記しました。)

1 ウイング・マーク取得までの流れ

航空学生を卒業すると、フライトコースに入る前にクラス分け(便宜上、ここではクラスといいます。)が行われます。
練習機の機数が限られていますので、クラス分けを行って以下の図のフローへ順番に投入されていきます。
クラスは、アルファベットでAからG(人数によって変化)の7つのグループに分けられます。それぞれグループは7〜10名前後の学生で構成されます。航空学生は概ねC,E,F,Gのグループ(人数によって変化)、A,Bは防衛大学校出身学生、Dは一般大学卒の学生で編成されます。(年度によって変化します。2020年度現在においては、A,B:防衛大、C,D:一般大(ただしDには一部航空学生、E〜G:航空学生となっているようです。)
それぞれのクラスにリーダーが任命(コース長)され、そのクラスの団結に大きく関わってきます。
では、フローを見ていきましょう。

スクリーンショット 2020-04-20 17.43.57

上記のフローの中で、一番左側のフローが戦闘機パイロットになるためのフローです。私が経験したフライト・コースは、初級操縦課程を終了後、芦屋基地でT-1という初等ジェット練習機による課程があったので、その課程を終了後に「戦闘機」と「輸送機・救難機」のコースへの振り分けが行われました。今は、初等操縦課程(静浜・防府)の課程終了後に適性や希望を踏まえて振り分けされているようです。私の同期も希望は戦闘機だったのですが、この振り分けにより希望と異なる輸送機コースへ振り分けとなった者もいます。

今はT4の基本操縦課程が芦屋と浜松で実施されています。ここでは自衛隊の操縦者の証であるウイング・マークを取得するための学科や実技の試験を乗り越えなければなりません。この試験は「事業用操縦士技能証明」と「計器飛行証明(自衛隊内に限る。)」の取得のために行われます。上記の資格をセットで取得できた者が晴れて「ウイング・マーク」を胸につけることができるのです。

戦闘機コースの者は、ウイングマーク取得後にさらに戦闘に関する機動について実地に訓練を受けます。私の場合は、松島でT2練習機による基礎戦闘機課程を履修し、そこでF15、F4、F1の3機種に振り分けられました。現在は、浜松の課程終了後F15(新田原)、F2(松島)に振り分けられるようです。

それぞれの振り分けに関しては、その年度の部隊の練成状況や学生個々人の能力により一概には言えません。それぞれの課程でトップの成績でも状況によっては自分の希望する機種への選別をされない可能性もあります。そこは「運」でしかありません。

2 課程の内容は?

ウイングマークを取得するまでの課程(「初級操縦課程」及び「基本操縦課程」)では、大きな流れは変わりません。
1)新機種の座学
(2)SIM訓練(通常手順、緊急手順)
(3)飛行訓練(飛行機特性の理解、離着陸訓練、編隊飛行、航法(VFR))

上記に加えて、基本操縦課程では、
(4)飛行訓練(計器飛行、航法(IFR))
(5)最終チェック、卒業

おおまかに上記の流れで訓練を行います。

それぞれ時間的な制約があるので、日々イメージトレーニングや勉強が大変です。なぜなら、1フライトごとに同乗の教官から評価(グレードと言います。)を受けます。
そのグレードは点数によって色分けされており、高得点から黒、青、緑、黄色、赤(ピンク)と4段階に分けれています。
特に赤(ピンク)のグレードを頂いた場合、学生は非常にシビアな状況に立たされます。この評価をもらう理由は、
1)飛行に関して不安全な要素があった。
(2)自衛隊の操縦士として不適性な箇所がある。

ということが考えられます。
そして、この赤(ピンク)を2回連続で評価された場合、飛行班長による「プログレス・チェック」が実施されます。そこでも赤(ピンク)の評価をとると飛行隊長による「エリミネート・チェック」を受けることになります。そこでも不合格となった場合、それ以降の飛行訓練は中止です。つまり、もう自衛隊ではパイロットとして就業できません。自衛隊を辞めるか、自衛隊に残って別の職種に職転するしかありません。

そこが、お金を払って免許を取得する民間のフライトスクールと異なるところです。自衛隊のフライトコースは、かなり強烈なモチベーションを持っていないと乗り切れないと思います。

私のtwitterやこのnoteの記事を読んでいただき、「民間のパイロットを目指してますが、航空学生経由で免許取りたいのですが?」というご質問を受けることが多いです。私がその道を辿ってきたのため、上記の質問をされる方の気持ちも分かります。

ですが、はっきり言って、考えが甘いと思います。

操縦技量がとてつもなく上手くて、人付き合いも全く問題なし、学問も優秀、体力も強靭、柔軟に物事に対応できる、かつめちゃくちゃ強運な人であれば最初から民間への転職ありきで航空学生から免許取得して速攻で民間転職も可能かもしれません。
私は以前の記事でも書きましたが、民間機パイロットは全くなろうと思ってませんでした。民間機のパイロットに一ミリの願望もありませんでした。私の同期全員そうだと思います。それでも、全員がパイロットになることは厳しい。何度も言いますが、最初から民間のパイロットになりたかったら別の適切な進路に舵を切ってください。

さて、話が脱線しましてすみません。
次に戦闘機課程です。
ここでは上記の課程での内容も当該機種(F15,F2)で実施します。その上で
(1)要撃戦闘
(2)格闘戦闘

の基礎を訓練することになります。
この課程を履修すると、全国に所在する各機種の戦闘機部隊へ配置されそこでさらに部隊での練成訓練をしていくことになります。

3 課程を履修するために必要なこと

エリミネートは誰もしたくないですし、教える教官も同じ気持ちです。
でも、教官が学生をエリミネートさせなければならない理由があるのです。

それは

「誰も死なせたくない。」

という一途な想いです。
特に戦闘機に限ったことになりますが、戦闘機は一人で操縦します。
飛行機に何かあったら、基本は全てそのパイロットが一人で安全な判断・操作をし、着陸(もしくは脱出)させなければなりません。

一人でも不適格者が搭乗した場合、地上の国民、一緒に飛んでいる仲間を巻き添えにする可能性は十分にあります。ですから安全を守れないと判断された場合はエリミネートせざるを得ないのです。

でも、そのような不適格をなるべく低減させることができるのが「同期の絆」と感じております。

フライトコースで最も大切な要素は何か?と聞かれたら、私は「同期との団結・絆」と答えるでしょう。
なぜか?
フライトの準備や自分のフライトに関する乗り越えるべき課題は個々人で異なるものなのですが、学生のうちは間違える箇所やつまづく箇所は似ているものなのです。それでも、自分がわからない箇所をいとも簡単に乗り越える同期がいたり、別の視点からのアドバイスで物事を別の角度で捉えることで自分が抱える壁を軽やかに乗り越えることも可能なのです。そこには同期の絆が必要で、私たち同期も毎回夕方ミーテイングを開いて、クラス全員の失敗談や教官から受けた指摘事項など共有してました。そうすることで、安全に対して偏った考えを減らすことができますし、自分が経験した以上の経験値を得ることができ、操縦の上達も早かったと思います。
それでも、残念ながら、身体的な不適合や耐G性、恐怖心などで絆だけではどうしようもできない事態が発生し、フライトを離脱せざるをえない場合がありますが、フライトコース中はチームでの団結が大きな鍵となるのは間違いありません。

ですから、フライトコースに入る前の2年間、兄弟のように裸の付き合いのある同期を作ることのできる航空学生に期間は、非常に貴重な時間なのです。

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