高円寺スーパー芸術論

高円寺。この町へ越してきてもっとも驚いたのがスーパーの多彩とその豊穣さである。
おそらく高円寺に生まれ、長く暮らしているひとにとっては、それらの環境が当たり前のように思えるかもしれないが、全然当たり前ではない。歩いてゆける場所に一店きり、とくに覇気も個性も工夫もなく、その周辺にそこしかないのでなんとなく生き残っている系スーパーしかなかった、スーパー干ばつ地帯に長らく住んでいた私からしてみると。なんだこれ!マジか!この!!おぅふ…(挙動不審)。仕事帰りなどにただ夕飯の材料を買いにスーパーをいくつかブラブラしてるだけなのに、目はきらきら、鼓動は高まり、今日の特売は?…など、超絶一大エンターテインメントなのである。家のひともけっこう満喫しているようで、日々、お互いが買ってきた「本日の目玉」的戦利品や、「ユータカラヤにウツボがいたよ!」など謎の絶景を子どものように報告しあうのも楽しい。

ここへ暮らして五ヶ月。
気に入って頻用しているスーパーを三つ、挙げてみる。

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1,業務スーパー

業務用(御家庭でももちろん使用出来る)の商品が充実。汎用性の高いものはたいてい大袋、500g~2Kgとかで格安販売されている(例:輸入パスタ500g/100円程度)、各種粉物類も豊富。そしてここの白眉は巨大な冷凍食品ゾーン。たとえば唐揚げ、揚げナス、ピザ、ポテト、ベーグル、うどん、枝豆、いちご、マンゴーetc、そのへんの中の上クラスの居酒屋とか、カラオケスナック?などでそのまま出したり、料理の材料として使ってそうなものはほぼ網羅されているといっても過言ではない。調味料、割り箸、ナプキン、など消耗品も充実。全体的にいちいち、のけぞる安さでいくたび新鮮に驚愕してしまう。

【弱点】野菜の種類、鮮魚類。
★個人的によく買う物★ :パスタ、うどん(乾麺)、アラビアータなどのイタリアンソース、トマト関連、冷凍フルーツ、春雨、珈琲、豚肉、調味料……

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2,オーケーストア

普通のスーパーであるが、野菜、肉、乳製品、加工食品、缶詰、輸入食材など品揃えや、種類が豊富であり、安い。有機野菜コーナーなどもあり親切値段で売られているのも嬉しい。そして全体として品質的になぜだかもっとも安心感を覚える。これは人間としての直感で根拠はないのだが、確信がある。

ここのたとえば夕方ころの混みようは毎日凄いのだけれど、ふしぎと殺伐したものをまったく感じない。よく循環しているお店特有の活気、期待、安堵。今夜の食卓への、明日への希望。それらひっくるめたキラキラがスーパー全体を覆っているせいであろうか。ここは高円寺民の主戦場、および心のお花畑であるとみて間違いないと思う。

そして、この店の白眉は、油。普通の油たちなのであるが、サラダ油、オリーブ油、ごま油などなど、が定価の4~6割引きで売られており、圧倒的に安い!その販売現場を目にしたときの感動といったら、もう。
そう、われら今こそ思い出す ――「油はオーケーで買え」。庶民の心に深くしみこんだ、あの高円寺生活のプロ・荻原魚雷氏の格言である。2014年流行語大賞は惜しくも逃したが、二度と忘れないと思う。
(詳細は、岡崎武志著『貧乏は幸せのはじまり』の巻末対談を参照あれ)。

【弱点】鮮魚・野菜の種類(といっても、あくまでユータカラヤとの比較の上での話しで、ふつうの町にあったら充分満足出来る内容だと思われ)
★個人的によく買うもの★  野菜、肉、油、缶詰類、梅干、牛乳、卵、キャンベルスープ(コーン)。

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3,ユータカラヤ

こちらも普通の一般的なスーパーであり、たいていのものはひととおりある。そして、もちろんだが安い。とくに異彩を放っているのが、野菜売り場と、鮮魚コーナーである。ここの野菜の店頭展開のダイナミックスさといったら!まさに、突如眼前に現出した「野菜畑」だ。トマト、たまねぎ、じゃがいも、ブロッコリー、長ネギ、野菜の黄金レギュラー陣がこれでもかと三つ指ついて、「いらっしゃいませ、ご主人様」状態で迎えてくれる。そして、たとえばトマトなら幾種類もあったりして、店内を泳いでると、違う種類のがふいに安くポツンと置かれてて「えっ!? あれ?」と意味不明な驚きと喜びに包まれるのも味わい深い。そして、そう!大好きなパクチーの大入り袋が安く売られているのも、とびきり嬉しい。

鮮魚コーナーは、奥で今!まさに仕入れた鯛や、カンパチや、ブリや、さまざまな魚を捌いているお兄さんがいて、おお~今日は、なにをさばいているんだろう?と、いつも見入ってしまう(ここの捌き場のひそかなファンは結構いると思う)。おそらく市場直結的な仕組みを持っているのだと思われる。脂ののったピチピチの鮮魚たちが、とても安く売られていて、幸福度がハンパ無い。高円寺に、ひょん、とこんなスーパーがあるとは。誰が予想したであろうか。

【弱点】ううむ、なんだろう。オーケーとかよりは、一般食材の種類が少ないような気もしなくはない
★個人的によく買うもの★  野菜・アボカド(熟れころのが安い!)鮮魚・乳製品……

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この三店があれば、日々に必要なものがほぼなんでも安く買える。必要でなくとも、その日特売のおいしそうなものをゲットして、夕飯の献立を考えるときもある。むしろ、そのほうが多いかもしれぬ。
おお、なんたる利便性と、豊かさ。

ふと、この町に暮らす多くの人人のことを思う。
このスーパー三店をじょうずに、むだなく利用して、日々の食卓をすてきに創出している、人人のことを。かれら、彼女らはもしかしたら、すでにして芸術家なのではないか。芸術作品は、美術館やアトリエに、またそれらしい場所にしかないわけではない。
「オーケーで○○を買って、業務スーパーで○○!ユータカラヤで~~完成!」
あわただしい日々の、たとえば制限時間のなかで、自分なりのルートを考え、それら買い集めてきた食材をつかって、朝食を、また昼食を夕食をつくる。

なぜ、こんなことを思ったかと云うと。
わたしもよく利用している、高円寺の屋根裏酒場「ペリカン時代」(お酒や、創作料理・ツマミの類がなんでもほんとに安くておいしい!)
のマスター・増岡さんとたまにする、スーパー談義のなかで。

「オーケーを軸に、ユータカラヤで野菜などチェックして、業務スーパーで○○を買うよ。もう超楽しいよねえ、高円寺のスーパー!」
という言葉を聴いたからだと思う。
たぶん、この作業を増岡さんは、夕刻、お店の始まる前、毎日15分から20分の短時間内にやってのけているのだ。
先日もオーケーの乳製品売り場でたまたま会い、わたしがもたもた愚考してる間に、風のように買いものすませ、「次業務スーパーゆくよ~」と去っていった。

それを目の当たりにしたとき、これって、芸術なのではないかと感じていた。
その一連の動作は、とても自然でうつくしく、朗らかに理にかなっていて。だからこそ、ペリカン時代のカウンターには、毎日あんなにもおいしいもの達が並ぶのだと。

「高円寺のスーパー(巡り)は芸術だ」

もちろん根拠はないのだけど、なぜだかすごく。そう思った。

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