それでもあなたは偉大だ
麻雀プロの使命とは何だろうか?
Mリーグが発足して以降、麻雀は知的競技、頭脳スポーツとして取り扱われ、「観る雀」と呼ばれる人達が飛躍的に増加した。しかし、どれだけ言葉で装飾しようとも麻雀は所詮ゲームに過ぎない。麻雀を打っても怪我や病気で苦しむ人を助ける事は出来ない。お腹を空かせた人を満腹にする事も出来ない。人々の暮らしを便利に快適にする事も出来ない。麻雀を打つという行為そのものは決して世の為人の為になるような事では無い。
ならば、麻雀プロの使命とは?
高い技術、豊富な知識を備え、研究し、発展させ、この競技の専門家として世の中の愛好者達に感動や感銘を与え、まだ見ぬ人達に麻雀の魅力を伝える事。15年余り前、小島武夫の麻雀に魅せられプロ麻雀ファンとなった時分、私はそう信じていた。
ただ、現実は違っていた。到底プロフェッショナルとは思えない選択の数々とまるでアイドル・タレントのように振る舞うSNS。ファンからの施しを受ける事に慣れ、研鑽を忘れた女性選手達。私は麻雀プロという存在に絶望しかけていた。
あなたを見つけるまでは。
高い志を持ち、プロフェッショナルとしてのあるべき姿を追求するデビューしたての新人プロ。あの日からあなたは何も変わっていない。変わったのは背負う荷物が増えた事だけだ。期待と責任は年々大きくなり、ストレスやプレッシャーと戦う日々。Mリーガーになってからそれはより顕著になった。
打牌批判を受け、結果論で叩かれ、SNSが下手だと言われ、一体どれだけの眠れぬ夜を過ごしただろう。Mリーガーであるという事は、麻雀プロにとってとてもとても大きな価値だ。その座から離れる事は様々なダメージがあると考えているかもしれない。
それでも──、
良いじゃないか。Mリーガーじゃなくなったって。
Mリーガーだから、タイトルを沢山獲っている選手だから、私はあなたを好きになった訳じゃない。15年前、あなたは何も勝ち取ったことの無い新人プロだった。あの日から今日に至るまで、麻雀に真摯で、ファンに誠実であり続けた。だからあなたを好きになった。だからずっと好きなままでいられた。Mリーガーじゃなくなっても、私の中の麻雀プロ魚谷侑未の価値は少しも損なわれたりはしない。もしかしたらより若く美しい女性が空いた椅子に座るかもしれない。それがどうした?あなたは女流プロの歴史を塗り替え続けて来た。あなたより女流桜花を多く獲った選手は居ない。あなた以外に日本オープンを、日本シリーズを、十段位を獲った選手は居ない。あなたに並び立つ結果を出した女流プロは1人として存在しない。
多井隆晴は言った。魚谷がこれだけタイトルを獲っているのは実力だと。仲林圭は言った。魚谷よりも強い男子プロを探す方が難しいと。堀慎吾は言った。魚谷は他の女流とは麻雀に対する心構えが違うと。皆あなたを認めている。
2年と少し前、あなたの次に応援し始めた梶田琴理のゲスト先に行った時、目標とする選手を尋ねると、彼女は間髪入れずに「魚谷さん」と答えた。この時私はまだゆーみんファンである事を明かしていなかった。だからこれは忖度では無く、彼女の本心から出た言葉だった。私はとても嬉しく、誇らしかった。あなたが多くの後輩達から憧れられ、目標とされる選手になってくれた事が。
そしてファンの数も昔とは比較にならないほど増えた。対局の日、沢山の応援の声が届いているのを見た時、あなたが麻雀プロとして成功した事を実感する。競技者としての成功と麻雀プロとしての成功は似て非なる別の物だ。どれだけ勝っても、麻雀ファンに愛されなければそれはプロとしての成功とは言えない。あなたはただ結果を出すだけでは無く沢山の人に愛されている。きっと私だけじゃない。麻雀プロ魚谷侑未を愛する人達が、リスペクトする人達がこう思っているはずだ。
「ゆーみんなら必ず立ち上がってくれる」
傍から見れば順風満帆なプロ人生だが、これまでにも困難はあった。勝ち残っていた麻雀グランプリMAXを理由も発表されぬまま欠場した時、長いものに巻かれなければならなかった。寸前でMリーグ優勝を逃した後、あなたは抜け殻のようだった。そして20代の頃あなたは本当によく風邪をひいて体調が整わなかった。いつも心配だった。それでもいつだってその体に目一杯の勇気を詰めて乗り越えて来たじゃないか。
以前これまでの麻雀プロ人生を描いた記事を書いた後、あなたは私にこんなメッセージをくれた。
この言葉に今応えようと思う。
私は結果だけでプロを判断したりはしない。肩書きで応援したりもしない。忘れないで欲しい。あなたの麻雀に取り組む真摯な姿勢に、ファンに対する誠実さに、類稀なプロ意識の高さに惹かれている人間が居る事を。私は知っている。あなたがこれからも変わらずに前進し続けてくれる事を。
だから何も心配は要らない。
どれだけ勝利から遠ざかっても、どんな非難に晒されても、あなたは私を失望させる事など出来ない。
誰か私に教えてはくれないか?魚谷侑未のファンである事は、何故こんなにも誇り高いのかを。
ゆーみん、約束守ったよ
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