薬価制度、ほんとにそれでいいの?

今回は製薬会社で働く人間としての悲痛な叫びです。
製薬産業の関係者以外はそもそも薬価制度ってなんやねん、って感じな方もおられると思いますが、少しでも共感していただければ幸いです。

・薬の値段ってどうやって決まる?

みなさん、薬の値段ってどうやって決まるかご存知でしょうか。
そんなの、製薬会社が勝手に決めてんでしょ、って思われるのが当然だと思うのですが、薬の値段って薬を作った会社で設定することができないんです。

え、そんなアホなこと言っても騙されんよ、と思いますよね、いや、我々もそう思いたい。むしろ。

じゃあ誰が決めるんだよ、っていうと、厚生労働省が決めるんです。まずこの時点で???、ですよね。
作った会社で値段を決めれない、こんなモノ他にあるんでしょうかね。

じゃあ厚生労働省はどうやって価格設定をするのか。
それがいわゆる薬価制度なんですね。

https://answers.ten-navi.comより引用

わたしがいつも勉強させていただいているアンサーズさんのサイトにはこう書いてあります。

まずはみなさんに薬の値段は国が決めている、ということをもっと広く認知してほしいなー、と思います。

そもそもなんでそんなことになってるの?、と思われる方も多いと思います。もちろんアメリカでは薬を作った会社が薬の値段を決めています。
(アメリカ以外の国では、日本と同じような制度をとっている国もあります)

ほぅ、つまりその変な制度は日本特有なのね、と勘の言い方はお気付きだと思います。

日本って社会保障がとっても充実した国でして、病院に行っても個人負担は3割だし、お年寄りは1割負担だったりしますよね。なので残りの7割は国が負担してるんですね。
(厳密には社会保険料を払っている現役世代ですが)

なので、国としては薬の値段が高額になると税収が圧迫されます。なので高額な薬をなるべく減らしたい。
…なら薬の値段、こっちで決めるわ!
っていうジャイアン的なやつ。個人的にはそう思っています。

世のため人のために作った薬を、ほな、こっちで価格設定するねー、ってあんまりじゃない?、と思いますがどうでしょう。

・薬の値段と特許

みなさんの中にも聞いたことがある人もいると思いますが、新薬には特許期間というものがあり、特許期間内はジェネリック医薬品が製造されず、薬を販売することができます。

よくパテントクリフみたいな言葉を耳にしますが、パテント(=特許)、クリフ(=崖)、つまり特許が切れて新薬の売上が崖から転げ落ちるように下がってしまう、ということを意味しています。

https://www.daiichisankyo.co.jp/investors/individual/pharmaceutical/

つまり新薬を作る会社は特許期間内にどれだけ収益を上げられるか、ということが大きな命題になるのです。

新薬の開発には膨大な資金がかかっており、一つの新薬にを世の中に送り出すまでの開発費用は、平均すると500億円程かかっていると言われています。

https://www.daiichisankyo.co.jp/investors/individual/pharmaceutical/

ですので、製薬会社としては、開発にかけた500億円はパテントクリフまでの8〜10年の間に回収しないと会社として成り立たないわけですね。

・薬の値段は変動する

医薬品は特許期間内にどれだけ開発費用を回収できるか、が重要といいましたが、その特許期間内にもさらに追い討ちをかけられています。

特許期間内の新薬であっても、新薬創出加算という制度の対象外の新薬は基本的に毎年薬価を下げられます。消費財の値段は毎年のように上昇する一方で、薬の値段は毎年下落しています。

新薬創出加算とは以下の要件を満たす薬剤です。
・希少疾病用医薬品
・厚生労働省の公募に応じて開発された医薬品
・薬価算定時に画期性加算や有用性加算がついた医薬
 品
・新規作用機序の医薬品
・新規作用機序医薬品と同じ作用機序を持つ医薬品  
 で、最初の品目が薬価収載されてから3年以内・3番
 手以内に薬価収載された医薬品

これら以外の薬剤であっても市場拡大再算定や特例拡大再算定など、当初の予想よりも大幅に売上が伸びた薬剤や一定額以上の売上を出した薬剤の価格が下げられる、という制度があります。

こうやってみると製薬会社がこれだけ多くの制約の中で収益をあげることの難しさもおわかりいただるかと思います。

・日本の薬価制度が引き起こすコワイ将来


これまで製薬会社の立場からみた薬価制度の問題点をあげてきましたが、一般の皆さんにとってこうした制度がどのように影響してくるのかについて、最後にお話ししようと思います。

みなさんにとって薬の値段が下がることはいいことのように思えるかもしれないです。たしかに一時的に考えると薬局で支払うお金が安くなり、嬉しいこともあるかもしれません。

ただ、日本で流通する医薬品のうち多くの医薬品は海外の製薬会社の製品に頼っている現状です。みなさんが耳にしたことのあるファイザーやジョンソンエンドジョンソン、そのほかにも多くの会社が日本で医薬品を販売しています。

しかしながら、日本の薬価制度は海外メーカーにとって嬉しいものではありません。アメリカのように薬価を自由に設定できる国のほうが収益を上げやすい。

そうなるとどうでしょう。海外の会社は日本はは収益性が悪いからといって薬を日本で開発、販売しなくなっていくわけです。

実際問題として既に日本での国際共同治験の数は2020年を境に減少をたどっています。要は世界規模で臨床試験をしている新薬の日本での臨床試験を組み入れない、つまり日本では新薬を売らない、ということです。

くしくも2021年はこれまで2年に1回だった薬価改定が毎年に変更された年。こんな国で薬を売ってられない、という海外製薬会社の声が聞こえてくるような気もします。

現にそうした新薬が出てきているわけです。
つまり5年後に海外で受けられる薬剤治療が日本では受けられない可能性があること(ドラッグ・ロス)を意味しています。

現時点で多くの新薬で日本が国際共同治験から外されているわけでないですが、減少トレンドにあることは間違いないでしょう。

日本はアメリカ、中国に次ぐ、世界3位の医薬品の市場規模を維持していますが、IQVIAのレポートによると2026年にはドイツに抜かれて4位に転落するという予想も立っています。

毎年薬価改定は日本の医薬品産業の衰退の始まりだったと後になって嘆かないうちに、アメリカで受けられる治療を日本で受けられなくなる前に、薬価制度についてもう一度ちゃんと見直していくべきだと、製薬会社の現場で働くものとして強く感じています。

もっと多くの人に薬価制度について知ってもらい、日本でドラッグ・ロスが招くコワイ将来にならないように政府にもちゃんと考えてもらいたいな、と思います。

今回はこのあたりで。ではまた。

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