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パスワードが間違っています

『パスワードが間違っています』

○登場人物
黒川 サキ(26)…インスタ大好きOL。タピオカはそんなに好きじゃない。元人気No.1コスプレイヤーだったが、婚約者にはオタクであった黒歴史を隠しておきたい。

高崎 勇太(26)…会社の同期。インターネットオタク。

佐々木 仁(30)…サキの婚約者。大企業である佐々木製薬の御曹司。誠実で真面目。

なめこ@C131南a(女、年齢不詳)…ネットの住人。神絵師。

スーザン田中(女、年齢不詳)…コミケでサキと仲が良くなった女性。ともに人気コスプレイヤーだった。普段はネットカフェに勤めている。

†骸†(男、年齢不詳)…ネットの住人。厨二病を煩う、自宅警備員。

新谷誠一@『隣の殺人館』発売中(性別、年齢不詳)…ネットの住人。自称小説家。

※注意※
「」は実際に話しているときに使用
『』はSNSやパソコンに文字が表示されているときに使用

○サキの部屋

サキ「あぁ~、もうっ!」

サキ、両手に拳を作り、机に叩きつける。

サキ「市役所に書類を提出したし、新居に荷物は送った。住所も変更したし、引っ越し祝いも向こう三軒両隣分用意した。生命保険の契約も変更したし、地震保険、火災保険にも新しく加入した。水道や電気も今月で解約して……元カレのプレゼントは処分したし、同人誌もすべて燃やした! これで完璧っ」

サキ「っの、はずなのに!」

サキ、パソコンを指さして睨む。
『パスワードが間違っています』の文字アップ。

サキ「パスワードを忘れたせいで、mixiの中の『ゴミ』を消し去れないなんて~~っ!」
サキ、もう一度、拳を机に叩きつける。

サキ「完璧が笑って転がるわ!」

サキ、やれやれと首を振り、イスをくるりと回してパソコンに背を向ける。
イスをくるりと回すと、コスプレ姿に変身したサキがいる。

サキ「魔法少女テンプテーション☆ この世の悪をお仕置きよ☆」

サキ、それっぽいポーズ。
カメラ小僧たちが周りを取り囲んで「こっちに目線お願いしま~す」と言っている。
サキ、カメラ小僧を手で払いのける。

サキ「こんな過去は、私にはいらないの!」
サキ「私は、インスタが大好きなキラキラ女子なの!」

サキ、現実世界に戻る。(服装も元に戻る)
サキ、再びパスワードを考え始める。

サキ「昔、実家で飼ってたうさぎの名前……」

『パスワードが間違っています』の文字アップ。

サキ「元カレの交際記念日、誕生日……」

『パスワードが間違っています』の文字アップ。

サキ「好きだったアニメのOP曲のバンド名……」

『パスワードが間違っています』の文字アップ。

サキ「もう! わから~~んっ!」

突然イスから立ちあがり、怒りが収まらない様子のサキ。
スマホを手に持って、パソコンを撮影。

サキ「『パスワード、誰か教えて』……っと!」

サキ、インスタに記事を投稿し、スマホをベッドに放り投げる。
サキ、お風呂に入ろうと、脱衣所に向かう。

サキ「ぷはぁ~生き返ったぁ~」

お風呂から上がり、ビールを一口飲んで伸びをするサキ。
サキ、ベッドに放り投げたスマホを手に持つ。
スマホの画面に切り替わる。
ダイレクトメールが届いている。

サキ「『ジュリアン』? 誰だろう?」

スマホ画面アップ。

ジュリアン『mixiのパスワードは、写真に写っている』
サキ「嘘!?」

慌ててスマホを確認するサキ。

サキ「どこ!? 写ってないじゃん!」

DMが届き、開く。

ジュリアン『パキラの下』
サキ「えっ、あっ」

観葉植物の鉢がアップになる。
白い鉢に走り書きでパスワードが書かれている。

サキ「そうだ、そうだ。どこにもメモをする場所がなくて、鉢に書いたんだっけ」
サキ「写真、急いで消さなきゃ」

インスタの記事を削除するサキ。
続けて、DMが届く。
画面アップ。

ジュリアン『無駄だよ』
サキ「無駄? どうして?」

パスワードを入力する。
『パスワードが間違っています』の文字アップ。

サキ「間違ってる……!?」

DMが届く。

ジュリアン『パスワードは変更させてもらった』
サキ「何? 何なの!?」
サキ「そうだ……勇太。勇太はネットのことに強いはず。助けてもらおう」

友人の勇太に助けを求めようとスマホに指を伸ばす。
その瞬間DMが届く。

ジュリアン『誰かに言ったら、mixiの写真を一枚ずつUPする』
サキ「うっそ、無理無理っ! 私の人生終わっちゃう!」

サキ、指を離し、スマホから離れる。

サキ「一体、何が目的なの?」

DMが届く。

ジュリアン『いつも見てるよ』
サキ「まさか、ストーカー!?」

DMが届く。
サキ、画面を見ずに怯える。

サキ「嫌っ、気持ち悪い!」

スマホの通知に【スーザン田中】という名前が見える。
サキ、慌ててスマホを開く。

スーザン田中『サキ? 記事削除した?』
サキ「スーザン! 助けて!」
スーザン田中『どうしたの?』
サキ「ストーカーに脅されてて……誰かに言ったら写真を……あっ」

そこまで言って、誰かに言ってしまったことにハッ気付くサキ。
慌ててスマホを確認する。
DMは届いてない。
ほっと息をつく、サキ。

スーザン田中『ストーカー? それマジな話なの?』
サキ「うん……mixiのパスワードを盗まれちゃって……それで」
スーザン田中『パスワードを盗まれたァ!?』
サキ「誰かに言ったら、mixiに載せてたコスプレ写真をばらまくって……」
スーザン田中『はぁ~っ? サキの昔の彼氏とかなんじゃないの? ソレ』
サキ「わかんない……わかんないよ、でも、仁さんに幻滅されたくない」
スーザン田中『あぁ、あの佐々木製薬の御曹司ね。お堅い人だもんね』
サキ「ちがう、真面目な人なの!」
スーザン田中『ハイハイ……じゃあ、私の友達にも頼んで、パスワードが取り返せないか考えてみるよ』
サキ「うん……スーザン、ありがと」
スーザン田中『いいよ。昔、No1コスプレイヤーになろうと競い合った仲じゃないの。ま、私は結局あんたには勝てなかったけどね。もういい思い出だよ』
サキ「そうだね。色々あったね」
スーザン田中『しつこいカメラ小僧に追いかけられて、会場を逃げ回ったたこととか』
サキ「アハハ。そんなこともあったね」
スーザン田中『芸能人に興味ありませんか、って近づいてきたヤツがAVのスカウトマンだったこととか』
サキ「あったねぇ~つい騙されそうになったところをスーザンが助けてくれたんだよね」
スーザン田中『あんたって、ほんっと騙されやすいんだから』
サキ「アハハ、ゴメンて。ありがとう」
スーザン田中『でもね』
スーザン田中『私はそんなあんたと出会えたことが、一番嬉しかったよ』
サキ「スーザン……」
スーザン田中『やだな~何言ってるんだろうね。恥ずかしい。ともかく、私に任せておいてよ!』
サキ「ありがとう!」

○この先の展開(あらすじ)
と言ってるスーザン田中が実は黒幕。
サキの喋っている言葉は、その場でサキが喋っているだけで、DMを送っているわけではない。ここの会話はその場でしゃべっているだけのサキ、テンポよくDMを返してきたスーザンという謎の構図になっている。後々ようやくサキがスーザンにDMを送っていないことに気付く。(サキはかなりの天然である)
この部屋のどこかに盗聴器が仕掛けられている。

○人物紹介の修正
なめこ@C131南a…協力者1。しかし実は、スーザンの別ID。イラストは拾いもの。
新谷誠一@『隣の殺人館』発売中…協力者2。実はスーザンの別ID。『隣の殺人館』なんて書籍はない。
†骸†(男、年齢不詳)…協力者3。滅多にDMを送ってこないが、実はサキの婚約者の【佐々木 仁】である。こっちが本性。家は大企業だが、彼はニートである。

婚約者である佐々木仁の正体は、佐々木製薬の御曹司であり、対面恐怖症で厨二病のニートである。
その彼が、昔mixiでサキの写真を見て一目惚れをした。
ずっとカメラ小僧として追いかけていたが(スーザンの言っているしつこいカメラ小僧とは仁のことである)引退するという話を聞いて、一生会えなくなるのは嫌だと、不本意ではあったが家の名前を出して自分と繋いだ。
サキは自分ではなく、家を見て婚約を承諾してくれたと思っているので、仁は極力会うのを避けていた。
しかし、偶然SNSで彼女を見つけ、自分が昔葬ったアカウントを復活させてサキを守ろうと動いた。

実際に合うとぎこちなく会話も弾まなかったが、不思議なことに、SNSを通してだと、彼女と素の自分で話をすることができた。
時間を忘れて話すのが楽しい。
サキもまた、†骸†に惹かれていくのを感じた。
そのたびに仁と婚約していることに罪悪感を感じていた。
(DMを通して喋っているので、スーザンには聞かれていない)

思いを隠せなくなったサキがスーザン田中にそのことを打ち明ける。
スーザンは笑って話した。
「聞いたことがある名前だと思ったら、それ昔いたしつこいカメラ小僧の名前じゃん」
さらにスーザンは「その男がストーカーの正体なのでは?」とサキに伝える。
サキは動揺する。

考えるサキ。
このまま大企業の御曹司である仁と結婚するのがいいのか。
ストーカーかもしれない、しかし自分を本当に愛してくれていると分かる骸と一緒にいるのがいいのか。

翌朝、サキは決意する。
「仁とは別れて、骸と一緒にいる」と。
電話でその決心を聞いたスーザン田中は呆れる。

スーザン田中「絶対苦労するのが目に見えているじゃん。それでもいいの?」
サキ「いいの、もう決めたの。本当はキラキラしているものなんて好きじゃない。タピオカだってどうでもいい。私は、漫画やアニメのことを考えている時間が一番好きなの」
スーザン田中「あ~あ、私、何に嫉妬してたんだかわかんなくなっちゃった」
サキ「?」
スーザン田中「あんたのパソコンの電源に発信機が付いてる。ソレ、ぶっ壊しといて?」
スーザン田中「あとね、SNSの【ジュリアン】も【なめこ】も【新谷誠一】も全部、私。全部フォロー外しておいてね?」
サキ「は? ちょっと待ってよ? どういうことよ!?」
スーザン田中「実は私ね、昔からあんたのことが大っ嫌いだったんだぁ」
スーザン田中「ちょっと可愛いからって男にチヤホヤされて、それでいて真っすぐでちょっとドジで……」
スーザン田中「そんな子を誰も放っておかないよね? それがまた悔しくって」
スーザン田中「大金持ちの御曹司と結婚するって聞いて、ちょっと困らせてやりたかったんだよね」
スーザン田中「これ以上嫌な奴になりたくないから、私、あんたの前から消えるわ」
スーザン田中「バイバイ」

最後に電話越しに小さく呟くスーザン。

スーザン田中「……ごめん」

スーザンは盗んだサキのパスワードを伝えて姿を消す。
その後、サキは仁と会い、別れを切り出す。

仁「……やっぱり振られた」
サキ「ごめんなさい」
仁「わかってたよね。俺があの時のカメラ小僧だって」
サキ「ん?」
仁「サキが好きで好きで諦められなかった」
サキ「あの、どちらさまで……?」
仁「え? わかってないの?」
サキ「佐々木製薬の御曹司……」
仁「名前だけはね」
仁「でも、もう縁は切られたから家は関係ない」
仁「ただの自宅警備員でニートの骸です。だましてごめんなさい」
サキ「アハハ……」
仁「サキ?」
サキ「私、何を必死に隠そうとしてたんだろ……パスワードなんてどうでも良かったんじゃん」

サキ「本当に、私と、SNSでつながってたあの骸くん?」
仁「はい」

一瞬の沈黙。

サキ「あなたのことが気になって、夜も眠れませんでした」
サキ「結婚を前提に、お付き合いしてください」

縁は巡り巡ってやってくる。
くれぐれもパスワードは大事に保護し、盗難にはご注意ください。

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ちなみに、写真右手に持っているのはハイボール。


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