見出し画像

バチカンの金融スキャンダル

もうすぐローマ教皇が来日しますね。そんなタイミングではありますが、エコノミストのバチカンに関する記事を読むと、その聖なるイメージとは裏腹に、こんなにも真っ黒な世界だったとは、と驚いてしまいます。

エコノミスト 2019年10月12日号
The Vatican's finances: Divine speculation
(バチカンの財政:聖なる投資)
10月1日、バチカン警察は、検察官(訳注: バチカン政府が任命した)の命令で、バチカンの金融監視局である金融情報管理局(AIF)と国務省(バチカンの政権において首相府と外務局の役割を兼ねる)の事務所の強制捜査を行った。

バチカンがロンドンのスローン・アベニューの高級不動産を購入したのですが、そのお金の出所が限りなく怪しい、という話です。スローン・アベニューとは、イギリスの老舗百貨店ハロッズの倉庫群があった場所だそうで、今はオフィスや店舗が立ち並び、日本でいえば銀座や青山みたいなところかな。そんな場所に不動産を買って店舗を貸したりしたら、そりゃもう大儲けでしょう。しかしその投資をしたお金は、どこから出たの? 信者からの献金を横流し? はたまたマフィアなどが絡んだ黒いお金なのか?

バチカンは2011年に、マネーロンダリングとテロリストへの資金供与を防止する欧州の監視機関であるマネーバル(Moneyval)が、バチカンの金融部門を調査することに合意した。

バチカンがマネーロンダリングの温床になっているという、お金に関する黒い噂は昔からありました。宗教団体は税金を納めなくてよいし、財政監査システムもないので、悪い人たちにとって格好の環境になってしまうのです。

しかし、バチカンの金を扱っているのはIOR(宗教事業協会、すなわちバチカン銀行)の人間だけではない。聖座財産管理局(APSA)は、カトリック教会の中枢である聖座(Holy See、すなわち教皇庁)の政府系ファンドの役割を果たしている。バチカン市国の政府は、儲けの大きいバチカン博物館から歳入を得ている。そしてローマ教皇庁の「部署(dicastery)」と呼ばれるいくつかの官庁は、金融情報管理局(AIF)の監査を受けることなく大金を管理している。

バチカン市国は宗教国家として、他の国とは違う独特の財政制度になっていますね。それゆえにお金の流れが不透明になっていました。

2014年にフランシスコ教皇は、聖座とバチカン市国のあらゆる金融活動を監視するために財務事務局を設立した。初の局長となったジョージ・ペル枢機卿は、オーストラリアで児童に対する性的虐待の罪で有罪判決を受けて控訴中の人物だが、その言によると、この役職についてから、資産表に載っていない「大量のユーロの山」を発見したという。

バチカンでは、金融スキャンダルだけでなく児童に対する性的虐待スキャンダルもありましたねえ。ジョージ・ペル枢機卿は性的虐待の罪で現在刑務所の中ですが、一説によると彼はスケープゴートで、「大量のユーロの山」について調査をしようとしたから、それを恐れた他の神父たちが彼を告発して刑務所に入れたんじゃないかと、まことしやかにささやかれているということです。

この部分の英文が、あやうく読み間違えそうになる仮定法過去完了で書かれていたので、ちょっと引用してみます。

Some in the Vatican, where conspiracy theories flourish, believe he would not be in jail had he not tried to seize control of those funds.
(陰謀論渦巻くバチカンに住む人々の中には、あのお金について詮索しようとさえしなかったら、刑務所に入ることはなかったのではないかと信じている人もいる。)

英文2行目の had he の部分が倒置の仮定法になっています。仮定法過去完了なので「~しなければよかったのに」というニュアンスになりますね。

イタリアのニュース週刊誌「レスプレッソ」によると、ベネディクト16世が教皇だった2011年、バチカン国務省はルクセンブルクに預けてある基金から約2億ユーロを引き出して投資に回した。その投資額は、ロンドンの不動産の45%を持ち分として所有するためのものだった。

ルクセンブルクはヨーロッパの金融国家で、タックスヘイブンとして利用されます。バチカン国務省が大金をルクセンブルクに預けて、そこから高級不動産にババーンと投資。って、投資自体は悪くないとはいえ、宗教国家特権で税金払わないでいい人が派手な投資をしているのは、経済活動としてフェアじゃない感じがしますよね。

ロンドンの高級不動産を45%だけ所持したというのは、100%所持してしまうと、所有者として表に出てしまうからでしょうね。しかし正規ルートであれば宗教国家特権で税金を払わずに不動産が買える立場なのに、なんでそんな隠れ蓑に隠れてこそこそ物件を買うことにしたのやら。表に出せないお金で買ったことはもう自明ですね。

バチカンの現教皇は、2014年に財務事務局その他金融を管理監督する部局を新たに設立するなどして、いろいろ黒い噂のあるバチカン財政を透明化しようと努力はしてきましたが、その努力はまだまったく実を結んでいない、という記事でした。

宗教家といえども人間ですから、権威欲も金銭欲も当然ありますね。そういった団体に特権を与えてしまうと、水は濁ってその中でやりたい放題になってしまいます。聖なる人々だから悪いことはしないはず、なんてのは幻想にすぎません。それに、宗教団体だって投資などの経済活動をしてお金が儲かったならば、当然税金を支払うべきでは? 

私たち人間は誰かを崇拝するのが大好きです。神様か何かにすがらないと、なんだか不安になってしまう生き物なんですよね。神様を崇拝して献金するのはいいけど、そのお金が欲にまみれた悪い宗教家を潤すだけだったら馬鹿らしいですよね。神様を崇拝するなんてことより、自分の押しを崇拝してグッズ買って貢ぐぐらいで十分なような気がします。本日の結論。「押しが神」でよい。あれ、なんでこうなった?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?