高校生の頃の話

俺は高校生の頃に友達をバイクの事故で亡くした。時刻は7月5日に変わった直後だったか、深夜やったと記憶している。Mという奴やったけど、どうやら彼女の家からの帰りに、閉まっている踏切にバイクで突っ込み、そのまま動けず電車に轢かれて亡くなったらしい。2年生の夏の話。

俺がその報せを聞いたのはその昼過ぎで、仲が良かったTからの電話だった。Mがバイクで事故って死んだらしいと、落ち着いた声で言われた。なんかこう感じたことのない気持ちがぐるぐるして、よくわからないままチャリで家を出てTと合流して、冗談ではない事を確認した。というのも、16歳とはいえまだまだ子供で、死というのは年功序列にやってくるもんやと当たり前に思っていたから。死んだと言われても、全く頭で理解が追い付かなかったのを覚えている。告別式と言うのかな、に参加してその包帯でぐるぐる巻きになったMの顔を見て、初めてあんなに泣いたかな。けどもその会場で一人過呼吸になるくらいに泣いていた女の子が居た。Mの彼女よりも泣いてた。Mの元カノのAちゃん。それがめちゃくちゃ辛かった。

俺はその当時、Aちゃんに人生最大の片想いをしてた。1年生の頃に存在を知ったときはすでにMと別れており、どうやらまだMへの気持ちを引きずっているらしかった。結構一方的な振られ方をしたらしい。Mは本当に漫画みたいだけど身長が高く男前で、運動ができた。勉強はそこまでだったと思う。そんなMなんで、その頃にはもう別の彼女が出来てたし、もっと言えばクールでかつバイクを乗り回し、その歳で煙草も吸っているらしく、周りを見ても少し浮いていたと思う。ずっとTと一緒にいたし、あいつらはなんか違うなって思ってた。俺はというと、好きですアピールが多すぎたのかAちゃんにはかなり敬遠されており、メアドの変更連絡が来なくてめちゃくちゃ病んだのを覚えている。

それが1年生の秋くらいだったんだけど、そこで俺が取った行動と言うのはMと仲良くなるという事だった。MとAちゃん、それにTは1組、俺は3組でそのクラスの唯一の接点と言えば、芸術科目と体育の授業だった。幸い、俺はその頃にバンドを初めてベース担当になった。1組のTはその頃からベースが上手く、マキシマムザホルモンのコピーバンドで県内ではそこそこ有名だった。そんなこんなで俺はよくTにベースを教えてもらっていたので、Mと仲良くなるのに時間はあまりかからなかった。体育のときにはTとMと3人で剣道の先生の掛け声を真似したり、マラソンの時期には一緒にサボったりしてた。

バカだと言われれば返す言葉もないけど、あるとき、Tは彼女をバイクの後ろに乗せて事故してしまい、放り出された彼女が頭を打って意識を失い、数日入院するということがあった。もちろんTはしばらく謹慎を喰らい、体育の時はMと俺の2人だけになっちゃったりした。2年生の始めくらいか。Tが学校に戻って来た時には、みんなまじで事故は気を付けて、ヘルメット被りやー、とかいう事を言ってた。Mも俺もわかったという風な返事をした。Tは彼女に一生癒えない傷を負わせた事を負い目に感じていて、そのあたりから結婚だのを話してた、一生面倒を見るだの、ませた高校生になっていった。

その頃にはMともかなり仲良くなっていたけど、Aちゃんの事は言い出せずにいた。今の彼女と仲良さそうだし、俺がAちゃんの事を好きだと言ったところでどうこうなる話でもなかったし。まあ、夏休みにバイクで田舎の川行ってみんなで遊ぼうよって言ってたんで、その時に勢いで言ってみるのもありかなと思ったりしてた。

そんな矢先にMが死んだ。本当に何が何だか理解が出来なかった。死ぬという事はわかるけど、まだ17歳やぞ?いや、遊びは?体育とかどうするん?もう全てがわけわからんかったけど、めちゃくちゃ泣いてたAちゃんをみてもっとわけわからんくなった。ああ、ほんまにまだ好きやったんやなって思った。死んでもMには敵わんなあと思った。それが辛かった。

いま、俺はもう27歳になった。10年も前のことやけど、7月はどうしてもそういう事を思い出してしまう。

その後の高校生の俺たちがどうなったかと言うと、あれだけ結婚すると言っていたTはその彼女と別れ、彼女の方は別の人と結婚して、お子さんに恵まれたみたい。めでたい。しかしあれだけ息巻いてた学生時代の2人はどこへって感じだけど。

俺は、結局そのあともずっとAちゃんの事を好きでいた。あの日の事がずっと引っかかっていたし、忘れられなくなっていた。卒業するまでに5回は告白したし、途中でもうAちゃんの周りから、もう近寄らんといたって、と釘を刺されるほどにはしつこかった。けど3年生の秋になるころには、一緒に映画、ソラニンの話で盛り上がれる程に仲良くはなっていた。バイクの事故で亡くなった種田と、その彼女の話。何がキッカケで俺に心を開いてくれたのか、わからん。けども努力が実ったのか、3年生の中盤からは、こうなんていうか好きな人が自分に対して好意を向けてくれている、一番楽しいと言われる片想い期間がずっと続いた。結局、俺は卒業式の日に、それも本当に漫画見たいやけど朝早く、2人以外誰も居ない教室で告白した。(俺はめちゃくちゃ早く登校する人やったし、Aちゃんもまた然りだった。)もしかしたら、他の人たちは気を遣って席を外してくれたのかもしれない。それから3週間後、よろしくお願いします。という返事をもらい、はれて俺とAちゃんは彼氏彼女になった。Mのお墓にも一緒に顔を出しに行ったし、この人と結婚したいなとかも思ってた。

しかし現実はそんなロマンチックでもなく、Aちゃんとは半年で別れた。自分の小ささにもあきれたし、人間ってこんなもんかって、やさぐれた大学生活に拍車をかけた。

あれから10年。みんな、それなりに生きてると思う。俺は地元を離れて何度か転職もしたし、いっちょまえな家で一人暮らしなんかしたりしている。今は幸い、雨がやんでいる。手元に半分くらい残ったレモンサワーがあるんで、ロックアイスを入れて、玄関先でスピッツの胸に咲いた黄色い花でも聴きながら、まーさんのことを考えることにする。おまえ、今度一緒に煙草吸おなって言ったやんけ。なんで死んでんねん。早すぎるわ。あと50年くらいはそっちで待っといてくれ、みんなで行くから。

梅雨も7月もきらいやけど、この季節はどうしてもあの頃を思い出してしまう。美化するつもりも全くないから、出来たら戻ってきてくれ、たのむ。なかなかまとまった休みは無いんで、お盆辺りにどうかたのむ。

じゃあな

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