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黒い雨と白骨の御文章

茸型の雲は、茸よりもクラゲに似た形であった。しかし、クラゲよりもまだ動物的な活力があるかのように脚を振るわせて、赤、紫、藍、緑と、クラゲの頭の色を変えながら、東南に向けて蔓延っていく。ぐらぐらと煮えくり返る湯のように、中から中から湧きだしながら、猛り狂って今にも襲いかぶさって来るようである。蒙古高句麗の雲とはよく云い得たものだ。
中略
「おおいムクリコクリの雲、もう往んでくれえ、わしら非戦闘員じゃあ、おおい、もう往んでくれえ」と繰り返して金切り声を上げる女がいた。


キノコ雲を検索するとAIでカラー化した画像というのが出てくるが、本書、黒い雨の記述を見る限り、それが大いなる誤りだということが分かる。いや、当事者にとってそれはそう見えるものではなくこの世のあらゆる災厄の塊のような色や形をしているようであったのではないか。

日本の夏は暑い。今年もひどく暑く、恐らく今日もそういう日だったのだと日本人として何か実感するものがある。毎日暑く不快で辛い。毎日不幸の総合デパートのような日々だが、水道から水が出なくなるわけでもなくそこら中の家が燃えているわけではない。

生きているのが素晴らしい、とは言い難いが、やはりそれはそうなのだろう、そう考えないといけない気がする。とても難しい事だが。


われや先、人や先、今日ともしらず、明日ともしらず、おくれさきだつ人はもとのしづくすゑの露よりもしげしといへり。




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