幸福は数値で表せるのか

ベンサムの【総和主義】
人の快楽を量的に数値化できるという立場から
【量的快楽主義】と呼ばれることも

これに反論したのがイギリスの政治哲学者
ジョン・スチュアート・ミル
「快/苦には量には還元できない質的差異がある」

「満足した豚であるより、不満足な人間である方がよく
 満足した馬鹿であるより不満足なソクラテスである方がよい」

【質的快楽主義】
単純な欲を満たすよりも
知的な好奇心や想像力を満たす快楽の方が質的に優れている

(彼は『満足な馬鹿』を見下していたわけではなく
知的な好奇心に興味が向かないほど劣悪な生活を強いられる社会を
是正すべきと考えていた)

【快楽主義型功利主義】
快/苦を数値化できるとする立場
(ミルも快/苦は質的な違いがあるとしながらも数値化は可能だと考えていた)

【選好功利主義】
外からは判断しづらい快/苦ではなく、
客観的な評価が可能な『個人の好み』に基づいた計算で
正義を判断する立場
リチャード・マーヴィン・ヘア
ピーター・シンガー(『動物解放論』

『利益をもたらす源泉』をどこに置くかについても
功利主義者内で意見が分かれる

【行為功利主義】
利益をもたらす基準を行為に求める
【規則功利主義】
利益をもたらす基準を規則に求める

『貧しい人が子供のために食べ物を盗む』という判断に対し
行為功利主義は子供が助かり、その効用が盗まれた人のコストを上回るなら是であると判断
その行為をすることでコストを上回る利益があるのかが基準

規則功利主義においては、その行動を容認すると治安が悪くなり
治安を維持するためにより多くのコストがかかると考える
幸福が最大化されるような規則に従うべきであるという姿勢

さらに功利主義内では、効用を数値化できるとした際に
その数値をどのように扱うかによっても思想が分類できる

【総量功利主義】
社会全体の総効用が大きければ大きいほど正義
出生に大きな価値が置かれる
一人でも多くの生を生み出すことが道徳的に善とされる傾向も

【平均功利主義】
個人の実質的な『一定以上の効用』を目指す
大きな格差があったとしても
一定以上の効用を生み出しているケースも考えられる
不平等性を放置しているという点で、直観とは反する結果にもなりえる

功利主義の長所

①『整合的であること』
 理論がシンプルな原理で構成されているので
 様々な人間の行為について整合的に説明することが可能
 多くの人に対して広く共有が可能

②『実証可能であること』
 功利計算により、数値で幸福の総量を測ることができると仮定すると
 規則や政策の是非を客観的に検証することも可能

功利主義に対する反論

①人間が快楽だけを善として生きているわけではない
 ロバート・ノージック(米)
 思考実験『経験機械』
 仮に脳と機械を繋いで、人間に快楽を与えることが出来た場合、
 功利主義的な考え方によるとその機械を使って延々と快楽を
 享受し続ける人生が最良だということに
 人間は快楽以外にも社会との接点を求めているのではないか

②幸福を数値として表すのには無理があるのではないか
 様々な個性を持つ人間がいる中で、それを単一的な指標に
 まとめ上げることは不可能?

③個人の自由が制限される可能性がある
 数ある反論の中でも最大のもの
 仮にその行為が社会における幸福の総量を増やす場合
 その行為によって損を被る人がいても功利主義はこの行為を支持する
 これに異を唱えるのが自由至上主義、リバタリアニズム


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