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タンクアメリカン
私が長年愛用している時計のひとつがこれ。
ゴールドの長方形のフェースで、私は購入当初からずっと黒のレザーベルトをつけている。
それまで愛用していたのは同じくカルティエのタンクフランセーズのボーイズサイズ。知り合いの手元を見て、こっそりまねっこさせてもらった。当時よく仕事をしていたカメラマンから、「その時計をつけている人多いけど、お前似合ってるなー」と言われたこともあり、たいそう気に入っていた。
だけど、もうちょっと背伸びしたくなった30歳(だったと記憶しているけれどあやふや)、ふと目にしたまま恋に落ち、悩んだ末に手に入れたのがタンクアメリカン。
購入して1週間ほどしたころのこと。夜中に帰宅し、洗顔するために外したその時計をポケットに入れ、着替えてそのまま爆睡。翌日起きると時計が、ない!
窓の外に目をやると、昨日着ていた服が窓の外で風に靡いていた。母が時計の入った服をそのまま洗濯してしまったということ…。怒るのは筋違いだけど、きっと私は当たり散らしたことだろう。なんてことしてくれたの!と。
ポケットに入ったままだったタンクアメリカンは、チクタクちゃんと動いてくれていた。悲しかったりほっとしたり。だけどこの洗礼を経たことで、気負いなく普段使いできるようになったのだから、結果的にはよかったと思っている。
程よくまじめで程よく華やか。これ見よがしなところがないし、知的で、どんな服にも合う逸品。タンクアメリカンの持ち味は、私がこんな女性になりたいなーと思う姿とよく似てる。人が身につけているのを見ると、意外にも存在感があることに気付くことも。自分の手元に収まっている姿とは違う表情を、よその家では見せるのね…と、驚くこともしばしば。
基本的には、この時計で事足りる。だからネクストに目がいかないのが玉に瑕。クオーツだし、真夏でも遠慮なしに腕にはめてしまうから、電池にベルトにオーバーホールにとランニングコストがかかるところもややネック。だけど、どれか一本だけ手元に置いておくとしたならば…ダイヤモンドの時計でもなく、ブレスレットウォッチでもなく、間違いなく、この時計を選ぶだろう。
ロレックスが流行っているようで、メンズたちは現場でよくロレックス談義をしている。それ以外は、時計の話、全然聞かないな…。
一般的には、時計なんてあってもなくてもいいもの。スマホがあるし、仕事中はPCで時間を確認するのも簡単。だけど、私にとって時計って、仕事スイッチを入れてくれる大事な存在。外出するときには必ず腕時計をしないと落ち着かない。だけど帰宅するといつのまにか外している。それは本当に無意識のうちに。だから、冒頭の時計洗濯事件が起きたりもする。いつもカジュアルな服しか着ない私にとっての、大人要素でもある。時計に悩む人もそうそういないご時世。相談にのることも、今やすっかりなくなったけれど、予算さえ見合えば、全力でおすすめしたい時計がこの、タンクアメリカンだと思う。