one word「さかな」

今日もまた湖畔出張。いつも私ばかり。そもそも何故湖なんかに事務所をつくったのか。いまさらの疑問を懲りずに抱えながらも足取りは軽い。私はこの事務所が好きだ。実家のような安心感とはこういうことをいうのかもしれない。
「お元気そうですね?淡水には慣れました?」
これは所長へのお約束のご挨拶。所長はエラをパクパクさせながらにこやかに出迎えてくれる。
「海が恋しいね。でも随分環境にも慣れたよ、相変わらず経営的には息苦しいけどね。」
「陸だからでしょ。」
他愛のないやりとりが楽しい。
「君こそここへ来るときはいつもいい顔をしているよね、君の方がここの環境に合ってるのかもね。」
「水を得た魚だって言いたいんですか?」
「実際もうかなり魚だよ。」
トビウオの血がそうさせるのか、所長はウィットにもトんでいる。私が魚に寄ってきてるだなんて、まさかな。

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