お留守番

おまえもついにお留守番デビューだな、マックス。


うん、そうだね兄さん。
まさるだけどね。ぼく。


おまえもとうとうお留守を任されるようになるとはな。
まあ、わからないことがあればなんでもおれに聞くんだぞ、マックス。


うん、ありがとう兄さん。
まさるなんだけど。ぼく。


ほら、遠慮するなよ。
わからないことがあればすぐに聞けよ、マックス。


マックスっ!兄さん!それだよ!そのマックスだよ!ぼくはまさるだって言ってるじゃないか!わからないことがあれば聞けって!?急にわからないよ!わからないことだらけだよ!つまづいたよ!人生初のお留守番にありきたりなのかどうかの判断もつけにくい米国人風の呼び方に早々につまづいてしまったよ!


落ち着けマックス。


落ち着いていたらぼくはマックスになってしまうよ!まさるとしてのアイデンティティがあ!ぼくのまさるとしてのアイデンティティがあ!



難しい言葉を使うな!
つべこべ言うな!
ベンジャミンにするぞ!


それだけはやめて。
ごめんなさい。



わかればいいんだ。
ベンジャミン。



やめてっ!兄さんやめて!お願い!ごめんなさい!そんなひねくれた脅威をちらつかせるのはよして!兄さんの言うことにつべもこべも言わないから!


わかればいいんだ。
まさ、マックス。


に、兄さん。


よし、ではマックス。
まずは玄関の鍵を閉めてくるんだ。



ちょ、ちょっと待って兄さん。
マックスのことだけはどうしても聞いておきたいんだ。



なんだ、まだそんなことを言っていたのか。まったく先が思いやられるな。お留守番ネームだよ、お留守番ネーム。



お、お留守番ネーム?



ああ、まあ、コードネームってやつだな。おまえはお留守番中はマックス・グレゴリー6だ。わかったら、はやく玄関の鍵を



ちょいっ!兄さんちょいっ!
ぐれごりーしっくすって言った?
いまグレゴリー6って言った?
それがいい!それがかっこいい!マックスより断然だよ!そっちにしてよ!このさい兄さんのコードネームに対しての認識がバグっていることはとりとめないよ!全然コードなネームでないことはまったくどうでもいいよ!だからグレゴリー6にして!ぼくのことはグレゴリー6と呼んで!たのむよ兄さん!



だめだ。



頑なっ!
かあたくなあ!くそぅ!信じられない!これだけ頼めばいけると思ったよ!正直グレゴリー6も相当ダサいけどマックスよりか幾分気持ちが入るからいいと思ったよ!なのに!なのにぃ!くそうっ!



さあ、マックス、わかったら、玄関の鍵を。



わかったよ、わかった。わかったけど、なぜ、お留守番ネームが必要なの?それに玄関の鍵もなぜ閉めなきゃいけないの?母さんはそんなこと言ってなかったよ。



母さんのことは忘れろ!
ここではおれがボスだ!



ひぃっ!



お留守番ネームがなぜ必要かって?
そりゃ、バレないようにだよ。当然だろ。



バレないため?



敵にだよ。



敵!?て、敵!?
敵がいるの!?
ねぇ!兄さん!敵がいるの!?



兄さんじゃない!
グレゴリー5と呼べ!



ぐへぇっ!
ここにきて!?いまさら自分のお留守番ネームを強要してきたの!?そしてなに!?グレゴリーじゃん!兄さんもグレゴリーなんじゃん!だからなの!?まさかだからぼくのことはグレゴリーの名では呼べないの!?かぶるから!?じゃあなんでぼくのにもグレゴリーいれたの!もうわかんないよ!なんだよ5って!数字なんだよ!
てかなにグレゴリーって!



おい、ベンジャミン。



きゃっ!
だめだ!いやすぎる!
グレゴリー5!



なんだ、マックス。



さ、さっき敵って言ってたけど、お留守番に敵がいるの?



当然だ。いるに決まっているだろう。



決まっているの!?



うようよいるぞ。



うようよ!?
うようよいるの!?



ああ、うようよいる。
だから、はやく玄関の鍵を



わ、わかったよ、にい、グレゴリー5


閉めてきたよグレゴリー5。


よし、よくやったマックス。
これからおまえにお留守番スキルを叩き込む。お留守番を卒なくこなす為に不可欠な技の数々だから、必ず習得しなければだめだぞ。



わ、わかったよ、グレゴリー5。



まずは、「ステ留守」だ。



す、「ステルス」!
かっこいい!
かっこういいよグレゴリー5!



だろう、やはりおまえはおれの弟、
わかる男だな、マックスよ。



それでそれで!どうやってやるんだい!?教えてよ!ぼくにその「ステルス」を伝授しておくれよ!



まあ、待てマックスよ。この技には敵が必要なんだ。



敵が!?あ、敵につかうの!?敵に使う技なんだね!わかったよ、それはわかったから、概要を教えておくれよ!概要を!



よし、わかった。よく聞け。これは敵が攻めてきたときに、息を潜め、気配を消し、まるで人っこひとりいない雰囲気を演出する、そして結果、敵は気がつかず、帰る。

そんな技だ。



え、それって居留守じゃないの?ただの居留守じゃないの?



ステ留守だ



居留守じゃん!



ちがう!ステ留守だ!



やっぱり敵なんていないんでしょ!
それはただの訪問者なんでしょ!
お客さんなんでしょ!



マックス!



ピンポーン



はっ!



あ、お客さんだ。ぼく出るね。



よ、よせっ!



なんだよ、兄さん。まだ言ってるの?だって、ほら、お客さんだよ。居留守なんかしちゃ悪いでしょ。



いいから待て!
まず、おれが確認する。



もう、なんだよ、わかったよ。
ほら、はやくしてよ。



くっそ、やはり来たか、、。



え、誰?知ってる人?



敵だ。



はいはい。



うようよだ。



はいはい、うようよいるのね



ああ、おまえも確認してみろ。言っとくが、絶対に鍵は開けるなよ。覗き穴から覗くんだ。



ふぅ、わかったよ、もぅ。



よいしょっと。
どれどれ、どなた様ですかっと。

ん?

ガタッ!!


ぎィヤァァァァァァァァァア!!
グわぁぁぁぁぁあ!!!

えっ!えっ!えっ!
なになになになになにっ!
兄さん!兄さん!兄さん!
これっ!これっ!
兄さんっ!!
これナニ!?
これナンなの!?

このキモチノワルイ、うげぇ、超キモチノワルイ、このいっぱいいろいろ生えてるこの紫のヤツはなんなの!!
なんの生物なの!!超キモチノワルイ紫の!!このパープルの生えてるのは!!ナニ!?







うようよだ。



うようよ!?
これが!?



そうだ、こいつが、
うようよだ。



うようよっ!!
こいつがっ!!

う、ウゲェォォェグチョラビチョオゲォゲェェエ

あ、あ、あ、
ぎゃぁぁぁぁぁぁあ!!
兄さん兄さん兄さん兄さん!
ナンか出た!!
ナンか出たよ!!
兄さん!!
ぼくの口から黒いネバネバしたやつが多量に出るよおぉお!!



それは、グレゴリー汁だ。



グレゴリー!!



おれも初めてうようよを見たときは、あまりの恐怖でグレゴリー汁が止まらなかったよ、紫色になるまで出たからな。はっはっは、まさかだろ?まさか、グレゴリー汁が紫色になるまで出るなんてなっ、はっはっはっは。



兄さん!!



ああ、グレゴリー汁はグレゴリー器官からうようよを見た恐怖のあまり漏れ出した、まあ、つまり、汁だよ。汁。仕方ないよ、うようよを見たらそうなるようにできてるからな。



知らないよ!
てかなんなんだよグレゴリーって!結局なんなんだよ!なに!ウ、ウ、もう!なに!ウゲェ!どうすればいいの!オェビチャビチャ


ステ留守だ。これしかない。もし、うようよに見つかったら、脳みその本格的に大事な部分を喰われるぞ。



こっわ!
怖いよ!うようよ怖いよ!
ダイレクトに怖いよ!



もぞもぞ



あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁあ!

兄さん!兄さん!
鍵穴から鍵穴から!



くそっ、おまえが大きな声を出すからだぞ、まさ、マックス!



いやぁぁぁぁぁあ!!脳下垂体あたりを喰われるぅぅぅぅうぅ!!



こうなったら、あれを使うしかない。



え!兄さん!何か策があるの!?あるならそれしかないよ!はやく!教えてよ!



お留守番スキル最終奥義だ。
これなら、脳みそを喰われないで済む。



よし!兄さん!それしかないよ!やろう!
ぼくたちでやってやろうよ!



わかった!マックス!裏口へむかえ!



よしきた!それで!ぼくはなにをすればいい!?
グレゴリー5!





逃げろ!!!




え?
え、えぇと、ん?
あの、兄さん、お留守番スキル最終奥義は?






「お留守」だ!!!!!






お留守番は!!!!!?????

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