読み返すふるまい 市村弘正「読むことと経験すること」84頁

何が自分にとって原初的なものかは、そう簡単には見えてきませんね。だから、百冊残すなら何を選ぶとか、五〇冊ならどうかとか、わかりやすく考えてみるわけです。たとえば、体調が悪いなかでもなお読みたい、読み返したいと思う本があるとすれば、高いハードルをクリアしたことになる。そうした生理的な条件を含めて、読むことは自分の身体のありかたと結びついている。だから、本を読むということを知的に処理することのようには考えられないんです。ふだんどういう生活をしてきたか、どんな関係のなかに身をおいているか、そういうことがぜんぶ値げ込まれてはじめて、本を読み抜き、読み返すことがふるまいとして可能になる。それが読むということの原初的条件でしょうね。それは制約ですが、それに抗うことも含めて、繰り返したしかめる。そうでなければ、わざわざ時間を割いて本を読む必要なんてないでしょう。知識や情報がほしいだけなら、新しい本をすばやく読んだほうがいいに決まってますからね。
市村弘正「読むこと経験すること」『季刊 本とコンピュータ 2004春号』84頁

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