チンパンジーの逢瀬『あなたのなかのサル』152頁

メスがすべてのオスの求めに応じてさえいれば、性的な強制は起こらない?しかし、ことはそれほど単純ではない。チンパンジーのメスには、セックスパートナーの好みがはっきりしている。あるメスは、順位が低いオスが好みだ。だがアルファオスがいつも傍にいて、メスを支配下に置こうとする。アルファオスは、ほとんど飲まず食わずでメスに寄り添い、欲望の対象をしっかり見張り続ける。しかし数日もするとくたびれてきて、昼間にうたた寝をはじめる。するとメスは急に元気になり、順位の低いオスと連れ立って逃げ出す。愛人は賢明にも、ずっとメスの目の届く範囲で待機していたのである。どうしてもメスを引きとめることができず、アルファオスがとうとうあきらめる場面を私は何度も目撃した。
 オスどうしの緊張関係が、滑稽な場面を生むこともある。ダンディという若いオスがメスを誘惑しはじめた。しかしメスは、ほかのオスに見られていないかとあたりをきょろきょろして落ち着かない。たまらなくなったダンディが、両足を開いて勃起したチンコを見せたとき、支配者的な地位にあるオスがふと物陰から姿を現した。その瞬間、ダンディはいたずらが見つかった少年のように、両足でチンコを隠したのである。
フランス・ドゥ・ヴァール『あなたのなかのサル』152頁

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