電気柵『あなたのなかのサル』21-22頁

そして今日も、同じ電気柵をめぐって興味深い出来事があった。昔からここにいる年長のメスが、ワイヤーの下から手を伸ばして、柵の向こう生えている草を食べる方法を覚えた。彼女のすぐそばには、新入りのメスがいた。ゲイルによると、彼女は電気柵に触れてショックを受けたばかりだという。それは最悪の経験だったらしく、彼女は悲鳴をあげて、ちぎれんばかりに手を振った。このメスは年長と親しくなっていて、年長のメスがやることをすぐそばで眺めていた。彼女がワイヤーの下に手を伸ばすのを見たとたん、新入りのメスは年長のメスに飛びつき、胴に腕を回して、電気柵から引き離そうとした。だが、年長のメスはまったく動じることなく、手を伸ばしている。しばらくすると、新入りのメスも引き下がって、自分自身を抱きしめるように腕を回して、事態をじっと見守った。年長のメスがいつ感電するか、気が気でない様子だった。新入りのメスは、まさに「相手の立場」になったのである。
フランス・ドゥ・ヴァール『あなたのなかのサル』21-22頁

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