『馬鹿ばかしさのまっただ中で犬死しないための方法序説』 『赤頭巾ちゃん気をつけて』新潮文庫 2012 141ー142頁

ぼくはなんとなく『馬鹿ばかしさのまっただ中で犬死しないための方法序説』なんて論文を思い出していた。これは(ぼくはあまりしゃべってはいけないと思うのだが)、例の下の兄貴の書いたもので、兄貴とそのおかしな友達たちはしょっ中ルーズリーフやなにかで変てこな本を書いて兄貴のところに置いといて、そして仲間だけで読んだりしているのだ。そしてこの『馬鹿ばかしさのまっただ中で犬死にしないための方法序説』というのはその中でのベストセラー、というよりひっぱりだこだったもので、たとえば横断歩道をいつでも安全に渡る方法とか、飛行機に絶対に乗らない決心をする方法とか、つまりそういった種類の馬鹿ばかしいことがいっぱい書いてあるのだが、その中の最後の方に「逃げて逃げて逃げまくる方法」というのがあるのだ。つまり、誰かがもしなんらかの問題にぶつかったら、とにかくまずそれから逃げてみること、特にそれが重大な問題であると思われれば思われるほど秘術をつくして逃げまくってみること、そしてもし逃げ切れればそれは結局どうでもよかった問題なのであり、それは逃げまくる力と比例して増えてくるはずで、つまり、逆にどんな問題にとっつかまってジタバタするかでそいつの力は決まってくる、だから逃げて逃げて逃げまくれ、そうして、それでもどうしても逃げきれない問題があったらそれこそ諸兄の問題で・・・・・・。そうだ、でもそうしたらどうするのだろう?
庄司薫『赤頭巾ちゃん気をつけて』新潮文庫 2012 141ー142頁

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