ラングールの子殺し『あなたのなかのサル』134-135頁

ラングールの子殺しを発見した杉山は、オスが生殖目的を達成するためではないかと考えた。子殺しの事実と杉山の推測は、それから10年間無視され続けた。しかし、ほかの霊長類はもちろん、クマやプレーリードッグ、イルカや鳥類でも子殺しの事例が報告されるようになる。オスのライオンが群れをのっとると、メスライオンの必死の抵抗もむなしく、子どもは殺される。オスは無力な子どもに飛びかかって首にかみつき、激しく振り回して即死させるのである。ただし、子どもを食べることはしない。その行動は明らかに意図的である。ほかならぬ生存と生殖のために、罪もない赤ん坊が殺される――この事実は、研究者にとってとうてい受け入れがたいものだった。
 だが、自然界ではまさにそのとおりのことが起こっている。新しく集団のリーダーとなったオスは、旧リーダーを追い払うだけでなく、その生殖活動の成果までも消し去るのだ。それによってメスの発情サイクルが前倒しされ、新しいリーダーの生殖が可能になる。
フランス・ドゥ・ヴァール『あなたのなかのサル』134-135頁

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