愛着の喪失『ラカンはこう読め!』119-120頁

この厳密な意味で憂鬱症(すべての実体的・経験的対象に失望し、何物も自分の欲望を満足させてくれない状態)は哲学の起源である。生まれてからずっと、ある特定の町に住み慣れてきた人が、もしどこか別の場所に引っ越さなくてはならなくなったら、当然、新しい環境に投げ出されることを考えて、悲しくなるだろう。だが、いったい何が彼を悲しませるのか。それは長年住み慣れた場所を去ることそれ自体ではなく、その場所への愛着を失うという、もっとずっと小さな不安である。私を悲しませるのは、自分は遅かれ早かれ、自分でも気づかないうちに新しい環境に適応し、現在は自分にとってとても大事な場所を忘れ、その場所から忘れられるという、忍び寄ってくる意識である。要するに、私を悲しませるのは、私は現在の家に対する欲望を失うだろうという意識である。
ジジェク『ラカンはこう読め!』119-120頁

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