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ドット絵の作画について(アンチエイリアス①)

カド落とし…今だと広義的にはアンチエイリアスって言うと思うんですが、色の濃淡の加減でドットのガタガタ(ジャギー)を出来るだけ目立たなくするための手法…でいいのかな。厳密には、カド落としとアンチエイリアスは似て非なるものではあるのですが、ここではドット絵の大きな特徴でもある「ドットのジャギーを目立たなくして形状を整える手法について書いてみたいと思います。

ドットのジャギーを輪郭の中間色を段階的に配置することで低減します。

明度によるドットの見え方について

最近は精細な液晶画面が当たり前となり、ゲーム画面をブラウン管越しに見る、ということが無くなってしまいました。ブラウン管はドット絵的に言うと、明るい色ほど大きく見える、という色の膨張効果が強く、アンチエイリアスはただドットのケバ立ちを抑えるだけでなく、明るい色が膨張してボケボケに見えてしまうのを抑え、絵をピリっと引き締める役目を持っていましたし、色の膨張効果を利用した所謂「半ドット」という職人技もありました。*ここでいう色の膨張効果は一般的な使われ方とは違うかも知れませんご了承ください。

錯視効果ですが、明度の高いドットほど膨れた印象に見えます。*上図は加工してます

最近ではあまりアンチエイリアスをかけず、フラットなドット絵画調の作品も増えてきましたが、やはり低い解像度と少ない色数でドット絵を描こうとした場合、角を丸めて形状を整える必要はどうしても出てきます。例えば、低い解像度で正円を描く必要があったとしても、それは絶対に正円にはならないわけで、それを色の濃淡で角を削り、正円らしく見せる作画上のテクニックでもありました。作画している最中はあまり意識していないことではあるのですが、アンチエイリアスの効果として一旦まとめますと、
1・ドットのガタガタ(ジャギー)を目立たなくする効果
2・形状が正しく見えるように整える効果
アンチエイリアスにはこのふたつが面がある、といったところでしょうか。

形を整える

カド落としをすることで、形状を一切変えずに正円に近づけることができました。

上図の正円?は前述した「明度が高いドットほど膨れて見える」という錯視効果を利用して、正円としては出っ張り過ぎている部分は暗いドットで削り、丸く見えて欲しいところは、明るいドットで膨れるようにして描いています。ドット形状そのものは左右とも全く同じものです。
前述した「ジャギーを抑えること」「形状が正しく見えるように整える」が同時に行われていることが確認できると思います。

さてこのアンチエイリアスですが、90年代頃のカラーパレットには、階調を持ったアルファチャンネルがまだあまり一般的ではなかった(まだゲーム分野ではまだ無かったのかも)ため、透過度の段階によってアンチエイリアスをかけることが基本的には出来ませんでした。そのため、厳密に言うとカド落としとアンチエイリアスは違うもの、と考えておいた方が良いかも知れません。

透明度によるアンチエイリアス効果ではないので、オブジェクトと背景はくっきり分かれています。

1ドット以下の表現

ここで改めて錯視効果の話をします。下の画像はグレースケールのドットをただ順番に並べただけのものです。

明るい方が太く、暗くなるにつれて細く見えている…はず。

ドットを拡大してしまったので、効果のほどは高くありませんが、明るい方が太く、暗くなるにつれて細くなっていくように感じるはず…です。ブラウン管時代はもっと顕著だったんですけどね…。「膨張した色(明度の高い色)を、収縮する色(明度の低い色)が堰き止める」というイメージでしょうか。
なので、隣り合うドットとの明度の差を利用して、1ドット以下で細く、太くするテクニックがあります…というか、ドット絵作画に於ける前提に近い考え方なので、あまりそう思えなくても、そういうもんだ、と思っていただければと思います(乱暴だな)。今回は明度に絞って説明していますが、ブラウン管時代には、並んだ時に相性の良い色、悪い色、というのもありました。
さてこの色の膨張と収縮による錯視を利用したものがいわゆる「半ドット」と言われるものです。例えば、キャラクターの”呼吸”のようなアニメーションを作成する場合、1ドット単位の移動では大きく動きすぎて、意図した動きを表現できない場合などに使用されます。

半ドットアニメーションサンプル。形状は全く一緒だけど拡大縮小しているように見える?

サンプルとして、1ドット以下(半ドット)のアニメーションを作ってみました。上図は、形状的には1ドットも差は無いのですが、境界線の明度の違いだけで、少しだけ拡大縮小しているように見えるはずです。このように色の膨張と収縮を利用してアニメーションできることもドット絵の醍醐味でもあります(他の映像媒体には無い表現技法ですよね?)。

表現としてのアンチエイリアス

さて、カド落とし(アンチエイリアス)はドットのガタガタを目立たなくする手法、と書きましたが、90年代のアニメ調ドットスタイルでは、必ずしもそう言えないところがあります。というのも、カド落としを過剰に…というか全体的に対して均等に掛けてしまうと、オブジェクトがモコモコと丸くなってしまい、どこか弛緩した印象となってしまいます。
わざとシャープな部分を残すため、例えば”肘”のような出っぱった部分は、あえて、あえてカド落としをしないことで、絵的な緩急が生まれるように作画されていました。このあたりのドット配置の緩急も90年代ドット絵の特徴のひとつと言えるのではないでしょうか。

肘や膝など、出っぱった部分についてはあえてカド落としをせずハードな印象を出しています。

余談ですが、実際にはオブジェクトの線画段階から比較的ハードな直線を意識して描かれていたようです。これはスキャナで画像を取り込んだときに、正しい線を拾いやすくする、という効果もあったかも知れません。

このように、ドット絵の特徴でもあった不透明色のグラデーションによるアンチエイリアス処理は、時代と共に形を変え、ドットのガタガタを目立たなくする、という効果を超えて、絵的な緩急をつけることにより、キャラクターを更に魅力的に見せるための手法として進化を遂げたのではないかと個人的には考えています。

さて、アンチエイリアスの実際についてはカラーパレットや形状(線)の整え方にも関わってきますので、次回でもう少し深掘りして解説していこうと思います。

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