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日本の携帯通信料は本当に高いのか?

おはようございます、こんにちは、こんばんは!
ちょっと異色の経歴(?)をもつ古川です。
前回の数字の話が思いのほか皆さんに見られていなかったので
今回はトレンドに乗って記事を書いてみます(笑)
ここまでしっかりと知っている方は少ないのでは??

古川 浩
九州大学大学院システム情報科学研究院情報知能工学部門の准教授を勤めていた2008年、PicoCELA社を創業。2010年同大教授を経るも、事業拡大のため2018年3月に退職し、PicoCELAにフルコミットメント。大学と民間を行ったり来たり。九州大学に所属する以前はNECに所属、第3世代移動体通信の研究開発および標準化活動に携わる。古川考案の基地局選択型送信ダイバーシチ方式(Site Selection Diversity Transmit方式、通称SSDT)は3GPPならびに3GPP2において世界標準化された。SSDTの拡張方式は第5世代移動通信においても適用されている。全世界で70件以上の登録特許を保有、100編以上のジャーナル・国際学会論文等を出版。工学博士

他の国の携帯電話料金はご存じですか?

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皆さんご承知の通り、政府主導で、携帯電話料金を低減するべく、様々な施策が実施されています。何しろ携帯電話は今や社会生活に欠かせないライフラインですから、その料金が安くなることは誰にとっても喜ばしいことです。

各通信キャリアが端末当たり平均いくらの売り上げを得ているかを測る指標として、昔から使われてきたものがARPU(Average Revenue Per User)です。ARPUは厳密には端末当たりの平均売り上げですから通信料を表す指標ではありません。

しかし、大抵のモバイル通信キャリアは、その売り上げのほとんどが通信料によって賄われていますので、ほぼ端末当たりの通信料とみなしてよいでしょう。国際的に使われている指標ですので、我が国で問題になっている「日本の携帯料金は高い!」の根拠は、他国の通信キャリアのARPUと比較することで相対的に判断することができます。

早速、いくつかの国と比較してみましょう!

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※AUのARPUは非公開であるため、公開されていた1加入者あたりの通信料を参考として表示しました。加入者が複数台の端末を持つ場合があるので高い数値となっていると予想されます


どの軸で高い・安いの判断をすべきか?

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通信料金が「高い安い」の評価は相対的です。
5000円の通信料でも、所得の高い人と低い人では感覚が異なります。
国と国の間で通信料を比較する場合も、その国の国力や平均所得などを考慮しなければ正しい比較にはなりません。

そこで、各国の一人当たりGDP(=一人当たりの所得)に対する通信料で比較してみたいと思います。上の表の黄色で示した列がそれに相当します。NTTドコモを基準にした相対値が水色で示した列です。

さて、日本はどうかというと・・・うーん、やっぱり他国に比べると少し高いですね。データが獲得できた範囲では、一人当たりのGDPが日本より高い国で、日本より携帯通信料が高い国はありません。

日本における一般的な家庭(二人以上世帯)の生活消費支出に占める通信費はおおよそ月13,000円。この中には光回線契約など、自宅で使う固定インターネット回線費用も含まれています。この支出は各家庭で月に発生する保険医療費や教育費とほぼ同じ、教養娯楽費のおおよそ半分といった金額感です。

モバイル通信キャリアは、国を問わず、「いかにARPUを高めるか!」に血眼で取り組んでいます。多くは民間企業なのですから、企業努力として当然です。そういう意味において我が国のモバイル通信キャリアはいずれも優秀な企業であると言るでしょう。日本のモバイル通信環境は間違いなく世界でもトップクラスのカバレッジと品質を提供できていると思います。

一方、「携帯電話の通信料が高い」ことが社会問題になるということは、多くの人々がサービスと対価のバランスに対して不満を感じているということです。ここは真摯にとらえるべきだと思います。

サンプル数はあまり多くないですが、確かに、私はヨーロッパやアジアの国々でそのような不満をほとんど聞いたことがありません。

安価なサービスプランを提供するMVNO(※)の隆盛をみていると、今の各モバイルキャリアが提供しているサービスは、実は、万人には過剰なのかもしれません。

※Mobile Virtual Network Operator: NTTドコモなどのMNO(Mobile Network Operator)から通信インフラを借りて自前のモバイル通信サービスとして提供してる会社

過剰サービスによる価格高騰はアリなのか?

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皆へファーストクラスのサービスが押し付けられている、本当はエコノミークラスで十分なのに!、と感じているユーザが実は非常に多いのかも・・・?

そう考えると、「5Gで100倍のスピード」が、果たして本当に皆さん欲している次世代モバイルの姿なのでしょうか?

いや、「4Gと同じスピードで十分だから、通信料金を半分にしてくれ」、のほうが実はよほど国民にとっては嬉しいことではないでしょうか?

通信料金を半分にするための技術は決して簡単ではありません。技術のみならず、様々な方面での斬新な発想が必要です。こういった視点でモバイル通信の未来を語ることが、今、必要なのではないでしょうか?

直線連続的なスピード競争からはいい加減に卒業すべきだと思います。

通信速度はそのままでも料金を半分あるいはそれ以下にする技術や仕組みが実現できれば、それはモバイル通信分野における、誉ある「disruptive innovation(破壊的イノベーション)」と言えるのではないでしょうか。

出典「総務省 家庭調査報告 2020年8月」
https://www.stat.go.jp/data/kakei/sokuhou/tsuki/pdf/fies_mr.pdf