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恐らく突発性難聴をやった話

いや恐らくなので正確には分かんないんだけど。
それか低音障害型感音難聴じゃないかって言われた。

幸いなことに身体は頑丈なほうで、この年まで病院とはほぼ無縁(※但し歯医者を除く)で生きてきたのだけれど。
流石にあちこち経年劣化も出てくる頃なのかなあということで(あと単純に新しい経験が面白くて)(いや症状自体は面白がるどころじゃないんだけど)個人的に記録を残しておこうと思う。

前兆とかまじで全然なーんにもなかった。
2023年10月某日、朝起きたらなんか耳に水が詰まってた。
いや詰まっているわけではない。ほじっても何も出ないし、プールのあとでやるみたいに頭を横にして飛び跳ねても水が抜けたりはしない。
あるいは飛行機の上昇と共に気圧で耳鳴りがする時みたいな。
大体の人はどちらか経験があるのではないかと思うが、とにかく不快だ。

とりあえずスマホを開いて近所の耳鼻科を検索する。
なんとなくこれが突発性難聴ってやつかもしれないという推測は頭にあったし、だとしたらできるだけ早く治療を始めるべきだということも知っていたから。
行きやすそうなところ2つほど目星をつけて──とはいえまだ朝の7時半とかだったし、それに正直ちょっと、もうちょっとだけ様子を見たいなーという気持ちもあり。
なんか、数時間ほっとけばケロッと治ってたりしないだろうか、みたいな。
なにしろ病院とはほぼ無縁の人生なので、率直に言って腰が重い。だって知らないとこ怖いじゃん。
どちらにしろまだ午前診にも早いし、まあまあ動揺もしていたので、一旦落ち着こうと思って休日の日課(にしたいな)である朝の散歩に出ることにした。

ちょうどその1ヶ月ほど前から1日1万歩生活に挑戦していて、GoogleMap片手にご近所の公園や森や山(え?)を訪れて日々楽しんでいるところだった。
わりと見えるものなんでも興味を持って観察する方だけど、何度も通った道とかは流石に飽きてくるのでウォークマンも一緒だ。
自然音は聞きたいし車の接近なども気付けないと危ないので、両耳は塞がず片方だけイヤホンをする(余談だがわたしは今時まだ有線イヤホンを差している。ワイヤレス買おうとは思ってるんだけどね)。
で、その日も外に出て、家のすぐ前の坂道を下りながら左耳にイヤホンを装着した、とき。

あっ、ダメだわこれ

びっくりするほどなんにも聞こえなかった。
いや聞こえないことはない。正確にはすごーく遠くでうっすら鳴っているように聞こえる。
わたしは一人暮らしなのだが、朝はTVを見ないし音楽もかけないしついでにスマートフォンも常時サイレントにしているので、そういえば起きてから今まで一度も音の出るものと接していなかった。
全然聞こえん。いくらなんでもこれが勝手に治ったりはしないだろう。

難聴かもとか言いながら実際聞こえてるのかどうか確認しようともしてなかったの、今考えると笑ってしまうのだけど。
まあとにかくこれは病院だ。今日が休みでよかった。
遥か遠くで鳴る音楽を申し訳程度に聴きながらそのまま1時間ほど散歩して、帰宅してからさっきあたりをつけていた耳鼻科のサイトを開く。
初診再診ともに事前予約制度はなく、当日配布する整理券で順番に診てくれるところ。予約の電話をかけるという行為がしぬほど嫌いな自分には大変都合がいい(私にとって『行きやすそう』とはそういう意味である)。
整理券は窓口での配布の他に、インターネットでも受付番号を発行していて、あとどれくらいで呼ばれるかも分かるらしい。
駅までの道の途中にある医院で、通りがかりに結構いつも行列ができているのを知っていたので、まあ家から順番取れるならそのほうが楽だよな、と思ったのだけど。
これは私が迂闊だったのだが、窓口が開く時間よりもインターネット受付開始時間の方がだいぶ遅いのだ。
窓口ネット合わせて診療可能人数の上限に達した時点で受付を締め切ってしまうので、つまりそういうことである。
文字通り瞬殺された午前診の受付ページを前に、なるほどだからみんなああやって並んでるんだな……とようやく理解した。

気を取り直して、午後診である。
受付開始のちょっと前に着くように行ったら、既に列が折り返して隣の薬局前まで伸びていた。
11番の札をもらって、待合室のソファで問診票を書く。順番が来るまでのあいだ外に出るか訊かれたが(待ち時間が長いので外で暇を潰す人もいる)あまり出歩く気分にもなれないし、診察の前に聴力検査もあるそうなのでこのまま待つことにした。

聴力検査は健康診断でやるやつを数段ごつくしたような設備とボリュームで、ヘッドホンと干渉してしまうので眼鏡は外させられた。
視力を失うことで音に集中できる(少年マンガの修行法のような物言いをするな)からいいんだけど、代わりに防音室の中がどうなっていたかほとんど覚えていない。
滅多に入れない場所なのに惜しいことをした。べつにその情報が何かに役立つとかないけど。

体感では思ったより聞こえてるのかも、という気もしたが(音の聞こえない時間というのがほぼなかったので)見せてもらった結果のグラフはそりゃもう見事にがっつり下がっていた。
自覚症状としては左耳だったが、右もかなり落ちていて、相対的に左よりはマシに聞こえているというだけだったらしい。
低音難聴か突発性難聴ではないかということ、低音のほうは特に女性に起こりやすいということ、ストレスが原因になったりすることなどの説明を受けて、強いストレスや疲労の心当たりはないかと訊かれた。
が、恐らく今わたしはこれまでの人生で最も楽しく日々を生きており、まるで心当たりがない。唯一考えられるとすればその前の週に高尾山の麓から中腹まで所要時間50分のところを30分ちょっとで強行登山キメたことくらいなのだが、その話をしたら『うーんそれは……どうかなあ……?』というイマイチの反応だったので言わなきゃよかったとちょっと思った。
原因はともかく薬を出すのでとりあえず飲んで、1週間後くらいにまた来るようにとのこと。治療用のセットがありますからと言われてセット?と疑問が浮かんだが、確かにあれは『セット』である。

隣の薬局で処方箋を出して待っていると、薬剤師のお兄さんがわざわざ待合まで説明に来てくれた。
何種類の薬が出ていて、それぞれの効能はこう。各々の飲むタイミングの話。それからちょっと歯切れ悪く、

『このシロップですが、先生から説明あったかもしれませんけど……(※なかった)、まあ薬なので、美味しいものではないので……、僕も飲んだことあるんですが、ちょっと………』

そらまあ薬やしな。

『水で薄めたりしていただくのは全然大丈夫なので、あとは……オレンジジュースとかで割ると結構飲みやすいって方が多いですね』

ほう。

『あ、準備できたみたいなので行きましょうか』

そして窓口に積まれた『セット』を見た私、

『デッッッカイですね!?!!?!?wwwww(大声)』
『そうなんですよ〜〜〜www(苦笑い)』

なんかもっとこう、スティックシュガーとかそれくらいのイメージだったんだけど。
1本がチューブの生姜くらいある(いや、もっとでかかったかもしれん)。
それが毎食後×1週間分で計21本。

『袋が有料になっちゃうんですが、用意します……?』
『……………ぜひお願いします……………』

毎食後飲む薬のほかに朝昼だけ飲む薬と朝だけ飲む薬と寝る前に飲む薬があり、帰宅して真っ先にやったことは1日ごとの薬の仕分けだった。
おくすりカレンダーみたいなやつ、こういう時にすごく役に立つんだな(今回はシロップがデカすぎて入らないけど)。

さてそのクソデカシロップ、正式名称イソバイドシロップだが、その道(?)ではそこそこ有名(?)らしく検索しようとするとサジェストにすぐまずいって出てくる。
そらまあ薬やしな(2回目)。
とりあえず何事もチャレンジということでまずは原液のままコップにあけ、恐る恐る啜ってみた。

っあ~~~~なるほどね~~~~~~~~??????

すぐさま『イソバイド 飲み方』『イソバイド 希釈』などで検索したところ、やはり薬剤師のお兄さんに言われた通りオレンジジュースやグレープフルーツジュースなどで希釈するのがメジャーなようだ。
しかし家にジュースを買い置く習慣はないので、普通に水で薄めることにした。公式推奨は2倍なんだけど、それだと全然無理で結局4倍くらいになってたと思う。

というか、検索したらかなりガチめにイソバイドをなんとか飲みやすくする研究みたいなページがたくさん出てきて面白かった。
子供用のかぜシロップを数段苦くしたみたいな味わいで、口に入れてすぐはエッ甘い?てなるんだけど、後味がとにかく苦い。後追いでじわじわくる。
2倍以上に希釈してしまうと飲む量が増えるので逆に苦痛、という結果もあったのだが、私の場合はとにかく刺激が強いのがだめらしく、薄まっていれば量があっても全然飲めるので、以降は毎回4~5倍まで希釈することで乗り切った。
(あと、1回だけ外食時にオレンジジュースで希釈したら劇的に飲みやすくなったのでちょっと感動してしまった)

なんとか最初の服薬を終えたものの、夜には耳鳴りもかなりひどくなっていた。私はいつも食事時に何かしらの動画を見ていることが多いが、ボワ〜〜ンという反響音がきつすぎて早々に切った。
これほんまに治るんかいな、と疑心暗鬼になりながら普段より早めにベッドに入り、───翌朝。


……………き、聞こえる………!!!!!!!


体感ほとんど正常に戻っていた。
イヤホンを差してもちゃんと聴こえるし、ボワボワという不快な耳鳴りもない。
昨日に比べれば正常に感じるだけでもしかしたら前よりはまだ落ちているのかもしれないが、とにかくちゃんと回復しそうだということが分かって安心した。
日中はまだちょっと遠いかな?と思う場面が何度かあったが、夜になる頃には違和感もほぼ消えて、聞こえていなかったときの感覚が思い出せないくらいだ。
本当によかった。






…………。
……………、……、……………。

しかしあの…………、アレだ、



あのまずい薬、やっぱりあと18 回飲まないとだめですか???(飲むけど)



………飲むけどぉ!!!!!!!(18回?????)

そんなわけで約1週間、毎食後罰ゲームみたいな薬を飲み続ける生活が続いた。
何度飲んでも何度でも新鮮にまずいのすごいな(褒めてない)。

ちなみにイソバイドは主にむくみを取る目的で飲む薬で、要するに水分を排出するための利尿薬だ。
対して私はその頃ちょうどバイオリズムとしては身体が水分を溜め込もうとする時期で、この対決(?)は果たしてどうなるのかと思ったが普通に薬の方がメッチャ強くて一時的に体重がメッチャ減った(すぐ戻ったけど)。当たり前体操。

1週間後、例のごつい聴力検査をフルでもう一度やったところ、やはりまだ少し落ちた状態になっているらしい。
本人としては違いが分からなかったし、時間をかけて戻っていくだろう(戻らないかもしれないけど)(えっ?)ということで、顆粒と錠剤の薬1種ずつだけもう少し続けて、あとは来なくても大丈夫とのことだった。
(心配だったら数ヶ月後にまた来てもよいと言われて聴力検査のチケットをもらったが、なんやかんやで結局行かずじまいになっている) 

ということで実を言えば完全復活!もう大丈夫!みたいな確約はないまま今日に至るんだけど、今のところ日常生活を送る上で不便はない。
記事としてはあまりスッキリしないというか、フェードアウトみたいな後味であれだが、自分用記録ということで大目に見てほしい。
病気はしないに越したことはないけど、これはこれで得難い経験だったので面白かった。

まあでもそれも大事に至らなかったから言えることだと思うので、メンテナンスはちゃんとしていこうね!
とりあえずもうすぐ健康診断なので鬱です。

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