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#9【トレーナー・セラピスト向け】慢性外傷性脳損傷について -Chronic Traumatic Encephalopathy-

「慢性外傷性脳損傷」という言葉を知っているでしょうか?
昔はボクサー認知症とも呼ばれていたようです。

今日はこの「慢性外傷性脳損傷」についてお話します。

1. 慢性外傷性脳損傷とは

この内容を提供しようと思った理由は、トレーナー、セラピストの皆さんには、脳振盪を起こした人が結果的に将来、この症状を誘発する可能性がある、ということを今から知ってもらいたかったからです。

脳振盪を起こす環境(職場、スポーツ現場etc)、もしくは頭に衝撃を受ける環境にある人は何度も頭部外傷を繰り返す可能性があります。何度も何度も衝撃が繰り返されると、その時は脳振盪でなくても、頭へのダメージは蓄積されることになります。

1920年代に発見されたボクサーの「パンチドランカー」という病気の正式名称として最近使用されてきています。

若くて比較的回復力が早い時は良いでしょう。すぐに復帰して、またスポーツを続ける。しかし、ダメージが蓄積されるとそれが将来に影響する可能性があります。

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2. 慢性外傷性脳損傷の症状

慢性外傷性脳損傷を誘発している患者さんにみられる症状は以下の通りです。

• 気分の変化:抑うつ、いらだち、絶望感、自殺念慮
• 行動の変化:衝動的または攻撃的に振る舞い、怒りやすくなる
• 精神機能の変化:忘れっぽくなる、計画や準備が苦手になる、錯乱しやすくなる。認知症を発症することもある。
• 筋肉の異常:動きが遅くなり、動きが協調せず、声を出すことが物理的に難しくなる(構音障害)。
MSD マニュアル 家庭版より

3. 慢性外傷性脳損傷の怖いところ

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この慢性外傷性脳損傷の怖いところは、画像診断では全く異常が発見されず、死後解剖時にのみ確定されるという点です。

またどんな人に発症しやすい、どのくらいの回数頭部に衝撃を受けたら発症しやすい、どのくらいの強さの衝撃を受けると発症しやすいのか、まだまだ研究レベルではわかっていません。今の段階でわかっている範囲では、脳振盪を複数回起こした選手の約3%が、将来的に慢性外傷性脳症を発症すると言われています。

4. 将来、慢性外傷性脳損傷を防ぐためには

では、どうすれば「慢性外傷性脳損傷」を防ぐことができるか。科学的に、また研究のデータを基に確立された予防法はありませんが、できることは

・脳振盪の早期発見
・適切なリハビリテーション
・段階的な競技復帰

をしっかり行うことです。そのためには脳振盪についての知識を増やし、その知識を活かしながら経験を積んでいくしかありません

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脳震盪と一言で言っても、症状やその程度、回復にかかる期間、予後は人によって全く違います。もちろん脳振盪自体の重症度も影響してきますが、全く同じ人間がいないように、全く同じ衝撃を同じ方向から頭に受けても、それに対する反応には個人差が出てきます。なので、教科書レベルの知識は必要なのですが、教科書の知識をどう活かすか、どうその選手・患者さんの症状に合わせて使い分けていくか。ここが非常に大切になってきます。

今回は「慢性外傷性脳損傷」についてお話させていただきました。実際にそういった患者さんをみてみないと想像もつかないかもしれませんが、脳震盪が起こりうる環境におられる方に少しでもこの情報が役に立つこと、そしてこれをきっかけにさらに知識を深めてもらえることを願っています。

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