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おたよりコーナー#11に投稿しました。

おたよりハイウェイ(Highway night)。どうも、神山です。

 『さやわかのカルチャーお白洲』の大人気コーナー「おたよりコーナー」の第11回にて読まれたおたよりを公開します。結果として5時間超の番組の最後の最後に読まれました。メモからの書き起こしが放送日当日の昼間というハードスケジュールで、論点がうまくまとまっていないな、結論から先に書きなおすことができてないな、など反省点も多々ありますが、よければご覧ください~。

では、どうぞ!

こんばんは、神山です。札幌で主催している読書会の次回課題本が伊沢拓司の新刊「クイズ思考の解体」ということで、読書会に先駆けて、現在伊沢がCEOとして活動しているQuizKnockについての文章をお送りします。

QuizKnockをノックする

QuizKnockとはクイズ王・タレントである伊沢拓司が代表取締役となっている「東大発の知識集団」である。元々は伊沢と東京大学クイズ研究会の有志によって作られたWEBメディアの名称であり、2019年から同名で株式会社となった。提供しているコンテンツとしては、クイズに絡めて様々な事象にアクセスできるWEBメディア、様々なクイズやそのプレイを実演するYoutubeチャンネル、知識と直感を絡めたゲームアプリの提供などがある。

QuizKnockの面白さは二つの柱で成立している。ひとつは知識、ひとつはキャラクターである。知識による面白さについて。知識集団を名乗っていることからも分かる通り、高学歴である彼らはそれぞれが持つ専門性や興味関心によって、提示された問題について知的に深堀りする。単に高度なことを複雑に扱うわけではなく、クイズとテレビバラエティのパロディというふたつのフォーマットを用いることでわかりやすく表現し、インテリやオタクだけがわかるのではない間口の広いコンテンツを提供している。

キャラクターによる面白さについて。彼らは、「東大発」と言いながらも東大所属・卒業でないメンバーも活躍しており、専門についても理系文系問わない。WEBメディアではその記事の書きぶりが、Youtube活動では演者が人間であるからして表情や服装、口調や声色も異なることが、内面外面含めてキャラクターを立てることに寄与している。多くの視聴者は好きな演者を応援したり、演者に憧れたりしながら、あるいは回答者の一人となることで、コンテンツを楽しむことができる。

知識とキャラクター、ふたつが具体的に噛み合っている企画として「朝からそれ正解」がある。これはTBSバラエティ番組「リンカーン」で行われていた「朝までそれ正解」というコーナーのパロディ企画である。普段のYoutubeメンバーだけでなく、普段はWEBメディアで活動しているライターの面々も参加し、10名程度での動画となっており、雑学はもちろんのこと、科学・文化・歴史といったあらゆる単語が頭文字だけで並列に扱われ、屁理屈によって勝敗を決めていく面白さと、解説が端的で過剰な説明をしないという高学歴しぐさ、回答のセレクトやプレゼンが下手という立ち回りでキャラクターが立っていくメンバーなど、様々な要素が一挙に楽しめる企画である。

QuizKnockがすべてについて正しく目配せできているかと言われたら、そうではない。「朝からそれ正解」ではナレーションである山森のみが女性の出演者である。テレビのクイズ番組では回答者が男女混成は当然であり、高校生クイズも異性間恋愛という消費に絡めとられているきらいはあるものの、男女混成チームの活躍が目覚ましい。QuizKnockの動画で女性が登場するのは、ゲストとしてやってきた女性がいる回に限られており、最近はそういったコラボも少ない。QuizKnockが女性人気の高いことは動画のコメント欄などからも読み取れる。ゲストで女性が出演することについて、あらぬ想像をするファンなどによるトラブルを回避するためコントロールをしているのだろう。

このコントロールがホモソーシャル=ミソジニーとホモフォビアをベースにした男性同士の連帯の強化に繋がってしまうのではないか、という懸念がある。この視点から考えると、先述した「朝からそれ正解」の回答者には女性がいないという状況、ひいては殆どすべての動画の映像内で男性しかいないという状況は極めてジェンダーバランスが悪いと指摘されても仕方がない。率直に高学歴ホモソーシャル集団とすら呼べるだろう。にも関わらず、あまりそういった方向からの非難の対象になってこなかった。彼らが客観的に強者だから誰も指摘できないということなのだろうか。それとも、若い故に放置されているのだろうか。どちらも正解の一端ではあるだろう。それ以外に彼らがホモソーシャルという言葉のオルタナティブな用法の可能性を提示していることで、非難を回避していると考えられる。

ホモソーシャルという用語の、男性優位・占有的な意味合いはジェンダー研究やフェミニズムの文脈では前提条件かもしれないが、単語の構成からすると単に「同質性による社会集団」であろう。解釈を拡大すれば、この同質性は性別や年代に限らないのではないか。QuizKnockは「知識を好む」という同一性による連帯の可能性を拡げている。その同一性のなかに多様な人間が存在できるということは、結果としてジェンダーあるいはその他の要素のバランスがとれたコミュニティを成立させるということである。高学歴・インテリというものが「ガリ勉メガネ」「りかけいのおとこ」のような画一的なモノではなく、多様なものであるということを打ち立てることで、かつて高学歴たろうとした人々の救済として機能し、また、これから高学歴を目指そうという人々の支えとなるだろう。

クイズは答えが出題者によって限定される。しかし、世界や社会はクイズとは異なり、かつて正しかったものが、今では間違いとなることもある。現在の言葉の用法に囚われず、思考し、新たな答えの可能性を探ることもまた、クイズを楽しむ者にできる社会へのアクセスの仕方かもしれない。そのうえでQuizKnockについて考えることは、ホモソーシャルの危うさについて気づく契機でもあれば、新たなコミュニティの成立に気づく契機でもある。現在のQuizKnockメンバーやファンコミュニティが、新しいホモソーシャルの発生を予感しているとは思わない。ただ単なる高学歴アイドルという神輿に載せ、諸手を上げてインテリを称賛するだけでなく、オルタナティブなコミュニティの発生について考えることは、ポリティカルではないかもしれないが、コレクトネスの実現に寄与できるのではないだろうか。

お読みいただきありがとうございました。

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先日の文フリ札幌フリーペーパーにて最終版とした「もう助けてなんていわないよ、フランチェスカ。」もそうですが、自分の手つきとして、現状の批判→意味の拡張によるオルタナティブな選択肢の提示、というものが続きました。QKの文章も当初はホモソーシャル批判にとどまる予定でしたが、結局ゲンロン友の会もシラスもPLANETS CLUBも、傍から見れば悪しきホモソーシャルでありながら、実際は多種多様な人がスタッフや演者、視聴者となっているのだから、単に否定して改善を促すのではなく、肯定を交えながら進歩していけたらと思いこのような書き口となりました。

ではでは。

2021/10/21追記

ファンの男女比とか年齢比がわかるものを探していたら、こんなPDFを拾いました。インターネット!

あと、QKに対する批判を書いている記事を見つけたのでシェアします。

これに対しての回答が新刊に載っているとは思うんですけどね(社会でのQKの扱いと、伊沢の自認、QKとしての振る舞いが乖離している気もする)

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