誘導型について


誘導型(reduced form)は経済学の実証研究をしていればよく出てくる言葉であるが、その定義が人によって異なる。大きく分けて下の2つの意味で使われている。(小西, 2023)
①被説明変数の内生変数の影響を除いたもの(被説明変数を操作変数に回帰したもの)
②準実験・実験アプローチ

それぞれ詳しくみていく。詳細について間違えていたらごめんなさい。

①被説明変数の内生変数の影響を除いたもの

山本(2022)などで説明がある伝統的な計量経済学の教科書に載っているものである。
山本(2022)を参考に、次の同時方程式を考える。同時方程式とは、複数の変数が相互に依存している状況を表したものである。

$${Y_{1i} = \alpha_1 +\gamma _1 Y_{2i} +u_{1i} \cdots (1) }$$
$${Y_{2i} = \alpha_2 +\gamma _2 Y_{1i} +\beta _{21} X_{1i} +\beta _{22} X_{2i} +u_{2i} \cdots (2) }$$

山本(2022)の例では$${Y_{1i}}$$は消費者物価指数の上昇率、$${Y_{2i}}$$は賃金率の上昇率、$${X_{1i}}$$は失業率、$${X_{2i}}$$は労働生産性の上昇となっている。ここで、$${Y_{1i}, Y_{2i}}$$は内生変数、$${X_{1i}, X_{2i}}$$は外生変数である。

上のような同時方程式(連立方程式)での表し方を構造型 (structural form)と呼ぶのに対して、下の式を誘導型と呼ぶ。

(1)式に(2)式を代入すると

$${Y_{1i} = \alpha_1 +\gamma _1 ( \alpha_2 +\gamma _2 Y_{1i} +\beta _{21} X_{1i} +\beta _{22} X_{2i} +u_{2i} ) +u_{1i} \cdots (1) }$$
となるので、整理すると

$${Y_{1i} = \frac{\alpha_1 +\gamma _1  \alpha_2}{1-\gamma_1 \gamma _2}   + \frac{\gamma_1 \beta _{21}}{1-\gamma_1 \gamma _2}  X_{1i} +\frac{\gamma_1 \beta _{22}}{1-\gamma_1 \gamma _2}  X_{2i} + \frac{u_{1i}+\gamma_1 u _{2i}}{1-\gamma_1 \gamma _2}   }$$

となる。(2)に(1)を代入して$${Y_{2i}}$$について整理しても同じような式がもう一本出てくる。しかし$${\LaTeX}$$打ちするのが面倒なので省略する。このように、モデルの右辺を外生変数と誤差項だけ、左辺を内生変数という形で表したものを誘導型と呼ぶ。

上の式は分数が多くややこしいので下のように書き換える。

$${Y_{1i}=\pi_{10}+\pi_{11} X_{1i}+\pi_{12}X_{2i} +v_{1i}}$$
$${Y_{2i}=\pi_{20}+\pi_{21} X_{1i}+\pi_{22}X_{2i} +v_{2i}}$$

これを推定するのは二段階最小二乗法で推定が可能である。
STEP1 
$${Y_{2i}=\pi_{20}+\pi_{21} X_{1i}+\pi_{22}X_{2i} +v_{2i}}$$をOLSにより推定
STEP2
$${Y_{1i} = \alpha_1 +\gamma _1 \hat{Y}_{2i} +u_{1i} }$$ を推定

以上の例だと、モデル$${Y_{1i} = \alpha_1 +\gamma _1 Y_{2i} +u_{1i} }$$の操作変数が$${X_{1i}, X_{2i}}$$と解釈できるので、誘導型は被説明変数を操作変数に回帰したものとも考えられる。

② 準実験・実験アプローチ

近年では構造推定の対比として政策評価や処置効果と同義として使われることが多い。構造推定は経済モデルに仮定を置き、モデル内のパラメータを推定するのに対し、誘導型は政策効果のパラメータを推定する。つまり、OLSやDID、IV、RDDなどのことを誘導型と呼んでいる。

以上のように、誘導型という用語は非常にややこしくこれまで飲み会などでどの意味で使われているのか分からなかった(私の周りでは大体は②の意味で使っている)。個人的には②の意味で用いられているのをよく聞く(構造推定派の人が誘導型だとどうのこうのと言っているのをよく聞く)し、この意味だと思っていた。今回整理しておいたので、少なくとも私自身は今後このあいまいな用語に惑わされることは減ると思う。

参考文献
小西祥文, 2023, 新しい環境経済学 実証ミクロアプローチ, 経済セミナー2・3月号 pp74-84

Scott Cunningham, 2021, Causal Inference Mixtape, https://mixtape.scunning.com/


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