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【読むと国試に落ちる】名前の紛らわしい用語集【獣医学】

 獣医CBTの勉強をしている中で見つけた、名前の紛らわしい用語を羅列してみた。当初は「似たような用語の区別がついて勉強になるぞ!」と思ってまとめていたのだが、読み返してみると、逆に脳内で整理整頓されていた知識が再びかき混ぜられるような感覚に陥った。CBTや国試前の方にはオススメしない。

※GPAが下から2番目のポンコツが書いているものなので、内容の正確性とか厳密性についてはお察し。誤りがあればご指摘ください。


1.”家禽コレラ”と”家禽チフス”

 どちらも「家禽」の下にカタカナ3文字が並んでいる。しかし原因となる病原体はまったく異なる。

 ”家禽コレラ”の原因菌は Pasteurella multocida 。学名から分かるように、和名では「コレラ」とついているのにも関わらずパスツレラ科の細菌によるものである。それなら「家禽パスツレラ」で良いのでは…?豚コレラも豚熱に名称変更されたので、こちらも改善してほしい。

 ”家禽チフス”の原因菌は Salmonella serovar Gallinarum biovar Gallinarum 。こちらは先ほどとは異なりサルモネラ科による疾病である。家畜伝染病予防法ではヒナ白痢と共に「家禽サルモネラ症」として法定伝染病に指定されているので、定期テストではヒナ白痢と家禽チフスの生物型の違いについて出題されることが多い。

  • biovar Pullorum → ヒナ白痢

  • biovar Gallinarum → 家禽チフス

 家禽コレラも家禽チフスも、両方とも法定伝染病に指定されている。セットで憶えられるので、その点においては名前が似ていてよかったのかもしれない。

2.”ラッセル小体”と”ニッスル小体”と”ハッサル小体”

 どれも語感が「マッスル!」といった感じだ。

 ”ラッセル小体”とは、活性化した形質細胞内に観察される好酸性の巨大な顆粒のこと。見た目がブドウそっくりなので、ラッセル小体の出現した細胞は「ブドウ細胞」「グレープセル」などと呼ばれる。だったらもう「ブドウ小体」でいいんじゃない?分かりやすいし。

 ”ニッスル小体”とは、ニューロン細胞質に見られる好塩基性顆粒のことで、その本質は粗面小胞体である。組織学の試験に出がち。

 ”ハッサル小体”とは、胸腺の髄質に見られる、同心円状に配列した細胞集団のこと。「小体」と聞くと細胞内にあるちっこい何か、というイメージがあるが、ハッスル小体は何故か細胞集団のことを指している。
 ちなみに細胞集団のことを指す小体として、他にはカル・エクスネル小体がある。こちらは顆粒膜細胞腫で観察される細胞の配列のことで、卵胞モドキ(卵胞に見えるけど実際には卵胞ではない)によるロゼッタ様配列のことを指す。

 エポニムは憶えるのが大変。

3.”豚水疱症”と”水疱性口内炎”と”豚水疱疹”

 すべて名前の中に「水疱」が入っていて紛らわしい。特に豚水疱症と豚水疱疹なんて、最後の漢字が一つ違うだけである。しかも、その最後の一文字も部首のやまいだれが被っている。筆者は眼鏡を外すと豚水疱症と豚水疱疹の区別がつかない。そんな水疱ブラザーズだが、原因ウイルスはしっかり異なっている。

 ”豚水疱症”の原因ウイルスは、口蹄疫と同じピコルナウイルス。豚水疱症も水疱性口内炎も豚水疱疹も口蹄疫との鑑別が重要な疾病だが、その中でも豚水疱症は口蹄疫と原因ウイルスまで同じ、というわけだ。

 ”水疱性口内炎”の原因ウイルスは狂犬病と同じラブドウイルス。狂犬病はインパクトが強いので憶えやすいかもしれない。

 ”豚水疱疹”の原因ウイルスは猫カリシウイルスと同じカリシウイルス。猫カリシもキャラが濃いので憶えやすい。

 繰り返しになるが、3つとも口蹄疫との類症鑑別が重要な疾病である。3つ全てに「水疱」を付けることで、口蹄疫=水疱のイメージはつきやすい。その点では成功したネーミングだ。

4.”ナロキソン”と”アロキサン”

 文字列の見た目も似ているし語感も似ている。視覚と聴覚の二刀流で学習者を苦しめる悪夢のような名前で、逆によくここまで似せたな~と感嘆の息が漏れる。個人的に一番のお気に入り。

 ”ナロキソン”はオピオイド受容体のアンタゴニストである。オピオイド鎮痛の拮抗薬として使用される。

 ”アロキサン”は膵臓β細胞を破壊する毒性物質で、実験動物に投与される。ちなみに同じような作用をもつ薬剤にはストレプトゾシンがある。

 全く異なる作用の薬剤であるにも関わらずここまで名前が似ているのは、非常に芸術点が高い。

 

5.”クロルプロマジン”と”クロルヘキシジン”

 薬理物質の名前は化学名由来であることが多いので、多少名前が似ていても目を瞑る。しかし、この2つだけは何度も混同してしまう。「クロル〇〇〇ジン」の〇〇〇の部分で判別しなければならず、難易度が高いのだ。

 ”クロルプロマジン”はメトクロプラミドやハロペリドール、アセプロマジンと同じドパミンD2受容体遮断薬。ちなみにD2受容体遮断薬は「目黒で汗かくハローキティ」の語呂で憶えられる。
 精神安定作用と嘔吐抑制作用を期待して、麻酔前投与されることが多い。ただし副作用でカタレプシーを起こすので注意が必要だ。

 ”クロルヘキシジン”は、術野の消毒剤である。組織刺激性が低いがゆえに生体の消毒が可能な優れもの。ただし芽胞とウイルスには効かない。

6.”鶏脳脊髄炎”と”鶏脳軟化症”

 共通してるのは前半の「鶏脳」だけだが、漢字5文字でまとまっているせいで区別がつきにくい。

 ”鶏脳脊髄炎”はピコルナウイルスによる疾患で、産卵鶏に感染(介卵感染)するとV字型の産卵低下が発生し、さらに生まれてきた卵は死ごもり卵となる。ヒナの水平感染では二峰性の発生がみられるのも特徴。

 ”鶏脳軟化症”は感染症ではなく、ビタミンE欠乏を原因とする栄養疾患。ビタミンE欠乏症は各種動物で現れる症状が異なり、豚ではマルベリー心臓病、猫では黄色脂肪症になる。

 鶏の神経疾患には、上記の鶏脳脊髄炎と鶏脳軟化症のほかにマレック病ニューカッスル病がある。これら4つのうち、唯一鶏脳脊髄炎だけ「中心性色質融解」が観察される。鑑別方法として憶えておくといいかもしれない。

7.”アレナウイルス”と”アネロウイルス”

 ”アレナ”と”アネロ”。完全にこちらの読み間違いを誘っているとしか思えないネーミングだ。

 ”アレナ”ウイルスは1本鎖RNAの中に+鎖と-鎖が同居している変わり者で、エンベロープを持つ。ちなみに、「-1本鎖RNAはエンベロープ持ちである」という原則があるが、アレナウイルスも部分的には-鎖なので、原則に従いエンベロープを持つと憶えておけばよい。
 アレナウイルス感染症では、以下の3つの病気を知っておく必要がある。

  • 南米出血熱

  • ラッサ熱

  • リンパ球性脈絡髄膜炎

 3つとも人獣共通感染症で、特に南米出血熱とラッサ熱の2つは感染症法で1類感染症に指定されているヤバい病気。自然宿主はげっ歯類で、中でもラッサ熱を媒介する「マストミス」が有名だ。

 ”アネロ”ウイルスは環状1本鎖DNAウイルスで、エンベロープを持たない。
 アネロウイルスによる唯一の疾病は鶏貧血ウイルス感染症。発症するのがヒナのみであることを特徴とする疾病だ。2015年以前ではサーコウイルスに分類されていたため、教科書によってはそのような記載があるかもしれない。
 ちなみに、サーコウイルスの語源は英語で「環状」を意味する「circle」、アネロウイルスの語源もイタリア語で「環状」を意味する「anello」である。つまり、2つとも環状1本鎖DNAである。ニコイチで憶えておくとよい。

8.”エンドルフィン”と”エンドセリン”

 エンド○○ン、の○○部分で判別することを強いられる文字列。

 ”エンドルフィン”とは、内因性オピオイドのことを指す。オピオイドにはモルヒネなどがあるが、それらの体内で作られるバージョンである。
 「脳内麻薬がドバドバだぜぇ~」みたいな文脈で使われる「脳内麻薬」とは、おそらくエンドルフィンのことを指していると思われる。
 語源的に分解してみると

endorphine = endogenous(内因性)+ morphine(モルヒネ)

となるので、意外と捻りのない単純なネーミングだ。

 ”エンドセリン”とは、血管内皮細胞で産生されるペプチドで、血管平滑筋を収縮させることで血圧を上昇させる作用を持つ
 筑波大学の眞崎知生が発見し、Natureに掲載されて世界中を驚かせた。というのも、実はエンドセリン発見の数年前に血管拡張作用を持つPGI2が血管内皮細胞から見つかっており、エンドセリンの発見は「同じ血管内皮細胞の中に、正反対の作用を持つ物質が同時に存在している」ことを示唆するものであったからだ。発見までの道のりを記した日本語文献が豊富なので(ネット上にもたくさん転がっている)、調べて読んでみると大変おもしろい。

まとめ

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