ロバートソン転座保因者のPGT-SR

Meiotic Heterogeneity of Trivalent Structure and Interchromosomal Effect in Blastocysts With Robertsonian Translocations

参考論文
Zhang, S. et al. Meiotic Heterogeneity of Trivalent Structure and Interchromosomal Effect in Blastocysts With Robertsonian Translocations. Frontiers Genetics 12, 609563 (2021).

ロバートソン転座は最も一般的な染色体構造異常の一つで、2本の13, 14, 15, 21, 22番染色体の結合によってできる染色体転座で、新生児で約1.23/1000人が持ち、反復流産の夫婦で0.65〜2.17%がロバートソン転座保因者であると言われています。ロバートソン転座の保有者は、表現型は正常ですが、減数分裂により異常な配偶子を産生し、不妊症や流産などを繰り返す不育の原因となります。日本ではロバートソン転座はPGT-SRの対象となり、世界中でこれまでも多くのロバートソン転座のPGT-SRを行ってきています。そのため、ロバートソン転座保因者が減数分裂時にどれ程の頻度で不均衡転座を発生するか集計したデータがあれば、染色体正常の胚を得るために必要な卵子数など予測しやすく、治療の方針の決定などの参考になるのでないでしょうか?本論文では、217名のロバートソン転座保因者の977個の胚のPGT-SRの結果から、男女や年齢別に不均衡転座率を算出しました。

ロバートソン転座保因者の分離パターン


ロバートソン転座保因者の方は第一減数分裂時に三価染色体という構造を取ります。この形から上記のように様々な分離を経て、精子や卵子になります。「交互分離」であれば、正常染色体、もしくは2本の転座染色体を持ちますので、遺伝子量に増減はなく、移植の対象になります。一方で、「隣接分離」の場合、遺伝子量に増減がありますので、PGT-SRの結果、このような分離を得てできたと考えられる精子や卵子を持つ場合、移植の対象となりません。

結果

本論文では、217名の其々のロバートソン転座保因者の977個の胚のPGT-SRを行いました。合計708個の胚が交互分離を示していました(708/977, 72.5%)、次いで隣接分離(263/977, 26.9%)、3:0や他の分離(6/977, 0.6%)でした。
本論文中の個々のロバートソン転座の頻度を調べてみますと、Rob(13;14)が55.3%(120/217)と最も多く、次いでRob(14;21)が10.6%(23/217)でした。Rob(13;14)保因者の分離様式は、交互分離は443(77.04%)、隣接分離は130(22.61%) 、3:0や他の分離は2(0.35%)でした。Rob(14;21)保因者の分離様式は、交互分離は87(65.90%)、隣接分離は42(31.82%) 、3:0や他の分離は3(2.27%)でした。他のロバートソン転座も分離パターンの割合を見たかったのですが、残念ながら数値は本文中には記載がなく、Figure 1にグラフに示していました。その結果は、ほぼ全てのロバートソン転座で、交互分離の割合は60-80%程で隣接分離は20-40%程でした。

次に男性保因者と女性保因者で分離パターンの違いを調べました。その結果、男性保因者の交互分離の割合は女性保因者に比べて有意に高く(P<0.001, OR=2.95)、一方、隣接分離パターンの頻度は低いことが分かりました(P<0.001, OR=0.33)。一方、3:0やその他の分離パターンは統計的な差は認められませんでした。また本社の年齢を35歳未満と35歳以上に分類し年齢による層別解析を行ったところ、分離パターンに差は見られませんでした。

考察

本論文の成果は、ロバートソン転座保因者の染色体正常胚の確率を予測し、PGT-SR を受けるロバートソン転座保因者に適切なカウンセリングと治療方針を決定するために有用であると考えれらます。またロバートソン転座保因者の0.8%がUPDを持つことが以前に報告されています。特にUPD14やUPD15で発生する疾患も知られていますので、14番や15番染色体が関与するロバートソン転座保因者のPGT-SRで、正常胚を移植する際にはUPDに起因する疾患の説明もまた必要になるでしょう。PGT実施時にUPDの有無を調べたり、妊娠後の出生前診断でUPDの有無を調べる必要があるかもしれません。


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