父親の年齢は染色体異常の頻度に影響する?

参照論文

Tanya S et al., Impact of male age on paternally derived embryonic aneuploidy: a retrospective cohort study of SNP-microarray outcomes following blastocyst biopsy. Reproductive BioMedicine Online. 2023

要旨

以前にPGTにおける父親由来の染色体異常の発生頻度について調べた論文を紹介しました。今回紹介する論文は、以前の研究をより詳細に行っており、父親由来の染色体異常の発生頻度、さらに父親を年齢別に分けて、発生頻度が影響するか調査しています。また染色体異常の種類による影響や、異数体を起こしやすい染色体の調査を行なっています。大規模な多施設共同レトロスペクティブ研究から、父親の年齢が高い(APA; Adavanced Paternal Age)ことがPGT-Aの適用になりうるか調べています。

方法

2012-2021年に681回のARTサイクルを行った男性389人の胚2,409個をNateraまたはIllumina社のSNPアレイを用いてPGTを行った結果に関する多施設共同レトロスペクティブ研究です。精子採取時の父親の年齢に基づいて、<35歳(A群)、35-39歳(B群)、≧40歳(C群)とグループ分けしました。

結果

父親由来の染色体異常を有する割合は、A、B、C群で同等でした[8.7% vs 9.6% vs 9.7%;p>0.1]。またこの頻度は以前にnoteで紹介した論文(父親由来の異数性は8.4%(144/1,720))、さらにはそれよりも前の論文(父親由来の異数性の頻度は 9.9%)とも同等でした。
一方で、母親体由来の染色体異常を有する割合は、母体平均年齢と相関し[31.2±3.3yo vs 34.8±3.1yo vs 39.4±3.2yo; p<0.001]A、B、C群で有意に増加し[16.0% vs 23.5 vs 30.2;p<0.01]

次に父親由来の染色体の数的異常(トリソミー、モノソミー、3倍体、1倍体、UPD)の種類で年齢ごとの差を見てみましたが、どの染色体の数的異常にも年齢間で発生率に有意差はありませんでした。父親由来の欠失と重複の全体の発生率には有意差が見られました [2% vs 0%、p<0.0001]。またC群の父方欠失の発生率(4.8%)は、A群(2.8%)の1.7倍、B群(2.5%)の1.9倍でした。
トリソミー [5.5% vs 7.0% vs 7.7%; p>0.1]
モノソミー [3.3% vs 3.0% vs 2.7%; p>0.1]
3倍体 [0.0% vs 0.0% vs 0.0%; p>0.1]
1倍体 [0.2% vs 0.0% vs 0.0%; p>0.1]
UPD[0.1% vs 0.0% vs 0.2%; p>0.1]
欠失[2.8% vs 2.5% vs 4.8%; p>0.1]
重複[0.0% vs 0.0% vs 0.0%; p>0.1]

母親由来の異数体は13、15、16、18、19、21、22番染色体と小さい集中することが多いことはよく知られていますが、父親由来の染色体異常の偏りを24本の染色体で分けてみますと、トリソミーとモノソミーでは、トリソミーの方が多く見られ、また母親由来とは大きく異なり、C群では、トリソミー2、13、19および性染色体モノソミー(45,X)が多く見られました。

まとめ

本研究では、染色体異常の親由来を明らかにするためにSNP解析を行い、父親年齢と父親由来の染色体異常の発生頻度について、染色体異常のタイプで層別化しても関連はないことが分かりました。また欠失は主に父親由来であり、その発生率は父親の年齢が高くなると有意差はないですが、高くなることが分かりました。父親の年齢は染色体異常の発生頻度に大きく影響することはなさそうでしたので、父親年齢が高いだけではPGT-Aの適応にはならないかもしれません。

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