ERAの終結?

End of an endometrial receptivity array?

参考論文
Raff M, Jacobs E, Voorhis BV. End of an endometrial receptivity array? Fertil Steril. 2022 Oct;118(4):737. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.07.031.

生殖医療において、PGT-Aにより正常胚を移植したにも関わらず着床・妊娠しない可能性は高く、論文にもよりますがPGT-A後の染色体正常胚移植後の着床率は60-70%程です。そのため、着床・妊娠に至らない原因究明と移植成績の改善を切望しているART施設や患者は実に多いです。その中の1つ、子宮内膜受容体アレイ(ERA)検査は、医師と患者の双方にとって魅力的に思えます。ERA検査は、胚移植のタイミングをより正確にすることで、より高い妊娠率につながることを期待するものとして、2011年に開発され、これまでに150,000件以上の検査が実施されています。

Doyleらによる研究では大規模な無作為化比較試験において、ERAタイミングでの凍結胚移植を行った患者は、標準的なタイミングでの凍結胚移植を行なった患者に対して、ERA検査後の胚移植の有益性がないことが示されました。またCozzolinoらによる研究は、レトロスペクティブな研究であり、固有のバイアスがありますが、ERA検査後の胚移植は妊娠率を改善せず、生殖成績の悪化と関連していることを報告した大規模な研究です。ERA検査後の転帰悪化のメカニズムは不明ですが、子宮内膜の遺伝子発現プロファイルは、以前に報告されたよりも月次変動を示し、胚移植前のプロゲステロン曝露の不正確なタイミングにつながる可能性があります。この研究の特筆すべき点は、一部の著者がERAの発明者であり、彼らがこの検査を正直に評価したことを賞賛すべきかもしれません。しかし一方で、ERA販売開始前に、しっかりした臨床評価を行うべきだったかもしれません。

ERAのような新しい検査には、どのような市販前の承認が必要でしょうか?ニューヨークタイムズの論説では、ERAはメディケア・メディケイドサービスセンターによって認証・規制されている検査であるが、Food and Drug Administration(FDA:アメリカ食品医薬品局)の承認は受けていません。より具体的には、Laboratory-Developed Test(LDT:薬事未承認検査)であり、1つの実験室内で設計、製造、使用される体外診断用検査であると考えられています。これらの検査は、FDAの承認が必要な広く行われている検査とは異なり、開発された研究室内でのみ使用されることを意図しています。したがって、臨床医は、ERAがLDTであることを認識し、そのような検査を提供することに問題がないかどうか判断する必要があります。また臨床医は、公認の機関によって検証されていない検査を使用することの意味について、患者に伝えなければなりません。患者の中には、検査が提供されない、あるいは実施されない場合、最先端の医療を受けていないと思う人もいるかもしれません。ERA検査を行わないという選択は、おそらく一部の患者は他の医療を求めることになるかもしれません。

科学技術の日進月歩の発展により、新しい診断や治療が、生殖医療の分野においても生み出されています。私たちは、新しい検査を提供する前に、その規制と妥当性を批判的に問う必要があります。私たちは、新しい診断法や治療法が安全性、有効性が確認されているか、精査した後に患者様に提供するよう努めます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?