ナノポアシーケンスを用いた迅速染色体検査

Rapid Nanopore Sequencing–Based Screen for Aneuploidy in Reproductive Care

参照論文
Wei, S. et al. Rapid Nanopore Sequencing–Based Screen for Aneuploidy in Reproductive Care. New Engl J Med 387, 658–660 (2022).

Nanoporeといえばlong-read sequencerとして知られていますが、もう1つの特徴である、シーケンス中にリアルタイムで塩基配列を決定することができる、real-time sequencerとしての特徴を最大限に用いた、迅速かつ安価な染色体検査法を本論文で紹介しています。IlluminaやThermoなどのNGSでは、シーケンス後に塩基配列の決定するため、この方法を用いることはできません。しかしながら最近のデータ解析の高速化によって、リアルタイムで塩基配列を決定することの重要性も薄れているかもしれませんが。。。著者らは本研究で、「Short-read Transpore Rapid Karyotyping: STORK」という手法をPGT-A、羊水染色体検査、絨毛染色体検査、流産染色体検査で検証し、迅速かつ安価、また非常にコンパクトなNGSを用いますので、検体の発送や専用の検査室も不要な新しい染色体検査を開発しました。

本研究では、絨毛染色体検査が52サンプル、羊水染色体検査が50サンプル、流産染色体検査が64サンプル、PGT-Aが52サンプルの合計218個のサンプルを用いてSTORK検査の検証を行いました。これらは通常の検査法での解析によって染色体異常の有無を確認しています。その結果、PGT-Aを除く検査法では、感度、特異度、正診率、全て100%でした。一方でPGT-Aでは、感度94.7%、特異度100%、正診率98.1%でした。このサンプルは、従来のNGSによる染色体検査(VeriSeq)では低レベルモザイクと診断され、STORKでは正常と診断されました。STORK法のモザイク検出力を調べるために、異数性サンプルを希釈して50%、40%、30%、20%モザイクを人工的に作製しました。その結果、40%以上のモザイクサンプルでは、高い信頼性を判定することができました。この検証からSTORKのモザイク検出限界は40%であると考えられます。またコピー数異常の解像度は20Mb以上とありますので、染色体の増減であれば確実に検出することはできます。

著者らは、1サンプルでの検査の場合、検査時間は10分*でコストは$200、10サンプルの同時検査の場合、検査時間は2時間*で1サンプルあたりのコストは$50以下に抑えることができるとしています。*シーケンスからデータ解析までの時間で、ゲノムDNA抽出や、WGA、サンプル調整の時間は含まれていません。とは言っても、羊水や絨毛からゲノムDNA抽出する場合、1時間以内でDNAを取ることができますし、シーケンスするためのサンプル調整も1時間以内に可能です。となると、羊水や絨毛細胞の採取から、数時間以内に染色体検査結果の報告ができるSTORKは、自施設で検体の採取から染色体検査まで行うことができれば、複数回の来院の必要がなくなり、さらに検査結果の出る日まで不安に過ごす日々を送らなくてもよくなり、患者にとって大きなメリットがあります。一方でPGT-Aの場合ですと、WGAで3時間ほどかかりますし、合計の検査時間は羊水や絨毛の染色体検査よりも長くなります。また複数の胚がある場合など、結果の報告時に移植する胚の選択などで熟考する時間が取れないかもしれません。胚の凍結融解を減らせるメリットはありますが、STORKはPGT-Aよりも羊水や絨毛の染色体検査の方がメリットが大きいように思います。ともあれ、非常に興味深い検査法でした!

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