染色体異常胚の着床・妊娠能
On the reproductive capabilities of aneuploid human preimplantation embryos
体外受精において、PGT-A検査の適用が拡大しており、アメリカでは約半数のサイクルがPGT-Aを受けています。PGT-A後、異数性の結果を理解することは、胚移植の決定を行うために最も重要です。異常胚と診断された胚が健康な赤ちゃんを産むことは非常に稀であり、異常胚の移植は流産などの妊娠リスクにさらされることは知られています。一方、低モザイク胚は、正常胚と同程度の生殖能力を持ち、臨床結果と妊娠リスクは同等というデータもあります。したがって、異常胚とモザイク胚を区別することは、臨床的影響を考えると非常に重要です。本論文では、急速に発展するPGT-Aにおいて、異常胚の臨床管理に関するエビデンスに基づいた結論を得るために、これまでに得られたPGT-Aの論文をまとめています。
PGT-Aにおける陽性(PPV)・陰性適中率(NPV)
現在のPGT-Aのゴールドスタンダードでは、体外受精後5-7日目に3-10個のTE細胞を採取します。TE生検は、複数回の生検および凍結融解によるストレスを抑えるため、通常、1回のみ実施されます。したがって、生検したTE細胞から胚全体の染色体状態を正確にプロファイリングする必要があり、1回のTE生検の分析結果が、信頼性の高い陽性・陰性適中率を持つことが重要です。
PPVはPGT-Aにより異常胚と診断された胚の移植後の予後を導くための最良の手段であると言えます。ほとんどの異常胚は着床しない、あるいは成育しないことが知られています。また13,18,21,性染色体のトリソミーのように生存可能な異常は、その後の妊娠を通じて染色体異常を持つ事が分かります。そのため、PPVを、胚移植の失敗数と異数性妊娠の確認数の合計を、移植した異数性胚の総数で割った比率と定義しています(PPV=胚移植の失敗数+異数性妊娠の確認数/移植した異常胚の総数)。つまり、異常の結果を示す胚が、染色体異常を本当に持っている可能性として定義しています。一方でNPVは、異常を本当に含まない胚である確率を定義しています。NPVを算出するには、正常胚を移植し、その後の臨床状況から判断することはできますが、PPVを算出するには、異常胚の移植に同意し、もしくは異常胚の状態を盲検化する研究を行うことが必要です。
PGT-Aの診断制度
PGT-Aの結果、染色体正常、もしくは染色体異常が検出された場合、95%以上でその所見が確認され、高い信頼性と再現性が証明された報告もあります。一方でモザイク胚の場合、ある論文では再検査の結果、モザイクの1/3が異常であったとの報告もしています。またこのReview論文では、数多くの論文のデータを集計したものですが、1回目の生検で正常胚と示した場合、2回目の生検で再度正常胚を示したのは、93.75%(510/544)、1回目の生検で異常胚と示した場合、2回目の生検で再度異常胚を示したのは、81.38%(909/1117)でした。しかしながら1回目の生検でモザイク胚と示した場合、2回目の生検で再度モザイク胚を示したのは、わずか42.56%(123/289)しかありませんでした。
異常胚移植の結果
染色体異常胚の移植を調査した論文は、これまでに6報発表されています。1. 最初の研究は2012年に実施され、SNPアレイによるPGT-Aを行っています。 この研究では、異常胚と診断された4つの胚は出産に至りました。しかし、この4個の異常胚について、極体の検査の結果、モザイク胚である可能性が指摘されました。全体として、95個の異常胚が移植され、91個は着床できませんでした(95.8%)。2. Tiegsらの研究では、102個の異常胚移植後、全ての胚が着床に至りませんでした。3. Wangらは44個の異常胚移植後、42/44個(95.5%)の胚で着床を確認できず、2個の異常胚は出生に至ることを確認しました。4. Yangらによる異常胚の移植成績の報告では、移植された異常胚の全てが流産に至ったことが示されています(6/6, 100%)。異常胚移植成績に関する最近のデータは、5. Gleicherグループによって形成されたコホート研究において報告されました。最初の発表では、異数体胚の移植による生児が報告され議論になりましたが、その後の修正報告により合計61個の異常胚移植した結果、着床しない、もしくは異数性流産をもたらすことを示しました。6.b Baradらは69組のカップルの異常胚または診断が不確定な胚を含む144件の移植の結果を報告しました。106個の異常胚を移植した結果、出生に至ったのははわずか1例でした。
これらのデータから、異常胚というPGT-A診断は、98%もの胚発生停止率(着床しない or 流産)(346/353: 95%, CI: 96.0%-99.2%)を示しました。
考察
PGT-Aの目的、すなわち、染色体異常胚の移植を回避することについては、PGT-Aは非常に正確であると考えていいと思います。染色体異常胚と診断された胚が生児を獲得することはほとんどありません。PGT-Aの結果、染色体異常胚を移植に使用することは、出生に至ることは稀で憂慮すべき結果を示しています。異常胚移植はさらなるコスト、身体的・心理的なダメージ、そして不妊カップルの生殖活動のための貴重な時間を失わせる可能性があります。