PGTの用語1

生殖の分野では多くの医療用語や頭字語を用いる機会があり、またそれらの用語は時代とともに変化します。そこで医師や胚培養士、看護師、研究者、患者間の一貫性とコミュニケーションを向上させるために、2017年に283の生殖関連用語とその定義をまとめた標準的な用語集が発表されました。この用語集は、International Committee for Monitoring Assisted Reproductive Technologies(ICMART)が主導し、ASRM, ESHRE, IFFS, MODと連携して5つのワーキンググループと20の学会によって作成されました。その中で、これまで用いられてきました着床前診断(PGD: Preimplantation Genetic Diagnosis)着床前スクリーニング(PGS: Preimplantation Genetic Screening)は下記の用語に変遷しました。

PGT-A: Preimplantation Genetic Testing for Aneuploidy 現在ではPGS(もしくはCCS: comprehensive chromosomal screening)に代わってPGT-Aが「着床前スクリーニング」の名称として定義されています。近年ニュースなどで話題になっているPGTがPGT-Aになります。後述しますPGT-SRやPGT-Mとは異なり、遺伝疾患や染色体異常の非保因者に対する染色体検査になります。PGT-Aとは、減数分裂や受精の段階で発生する染色体数の異常(余分な染色体や欠落した染色体)がないか調べる受精卵の染色体検査です。PGT-Aは、着床して妊娠する可能性が最も高い胚を選択することを目的として使用されます。

PGT-SR; Preimplantation Genetic Testing for Structural Rearrangements PGT-SRは、「染色体構造異常の着床前診断」を説明するために用いられています。PGT-SRはPGT-Aとは異なり、両親のどちらかが均衡型の染色体構造異常(相互転座や逆位など)を持っているため、児が不均衡な構造異常を持つリスクを低減し、妊娠後の流産や罹患児の人工妊娠中絶を回避することを目的とします。均衡型の染色体構造異常は遺伝子量に増減がないため、ほとんどの場合で無症状ですが、精子や卵子を作る減数分裂時にうまくいかないことが多く、不妊症や不育症の原因になることがあります。

PGT-M; Preimplantation Genetic Testing for Monogenic or Single Gene Defects PGT-Mは「単一遺伝性疾患の着床前診断」の名称として用いられています。PGT-Mは、筋強直性ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症などのように、両親が遺伝性疾患の保因者であったり、両親のどちらかが罹患者になります。遺伝子変異による遺伝性疾患を持つために引き起こされる妊娠後の流産や、罹患児の人工妊娠中絶を回避するために使用されます。

また最近ではPGT-P: Preimplantation Genetic Testing for Polygenic Disordersという4番目のPGTが話題になっています。PGT-Pはアメリカの会社が既にサービスとして提供しておりますが、倫理面などに問題があるとされておりますので、別の機会に書いてみたいと思います。

参考論文
Zegers-Hochschild, F. et al. The International Glossary on Infertility and Fertility Care, 2017. Fertil Steril 108, 393–406 (2017)


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