PGT-Aのコストと費用対効果

論文

Potential Costs and Benefits of Incorporating PGT-A Across Age Groups: A Canadian Clinic Perspective, Journal of Obstetrics and Gynaecology Canada, VOLUME 46, ISSUE 5, 102361, MAY 2024

背景

PGT-Aの効果については諸説ありまして、PGT-Aの効果について否定的な論文では、PGT-Aにより「累積生児獲得率」は改善しない、それどころか減少するという説がよく述べられています。一方でPGT-Aを肯定的に述べている論文では、PGT-Aは「胚移植あたりの妊娠率」や「流産率」の改善に寄与するとされています。PGT-Aの評価をどの項目で見るかはそれぞれですが、上記の効果については明らかです。では、PGT-Aを行うことで、コストは軽減されるのでしょうか?コストを評価することは難しく、例えば日本では、現在では一部の不妊治療は保険収載ですが、PGT-Aを実施しますと実費での治療になります。これではPGT-Aの方がコストが増大することは当然です。今回は、PGT-Aのコスト分析について勉強しようと思い、論文を探してみました。本研究では、カナダでの研究になりますが、母体年齢を3グループにわけてPGT-Aのコスト分析を行い、どの年齢グループがPGT-Aからより多くの利益を得るか検討しています。

方法

母体年齢が25-44歳の患者220人を対象に、35歳未満、35-37歳、38歳以上の3グループにわけて、得られた胚盤胞の数、染色体正常率、およびPGT-Aのコスト分析を行いました。PGT-Aのコストとして、生検費用を2500カナダドル、PGT-Aの検査費用は胚数に応じて変動性として計算されました。PGT-Aコストは、1胚あたりのコスト(PGT-Aの総コスト÷生検胚数)として調査され、PGT-A検査後の潜在的な移植胚数の減少を考慮してPGT-A検査が費用対効果的であるか分析しました。

結果

母体年齢と生産された胚盤胞の数(<35yoは4.8±3.1, 35-37yoは4±2.5, >38yoは3.3±2.3)、染色体正常率(<35yoは52±29, 35-37yoは46±30, >38yoは26±32)、PGT-Aのコスト(<35yoは$4325±884, 35-37yoは$4083±747, >38yoは$3784±701)には有意な逆相関関係が観察されました。PGT-Aのコストが母体年齢と逆相関するのは、母体年齢が高いほど胚盤胞に到達し、PGT-A検査する胚の絶対数が減少することに起因すると考えられます。染色体正常胚を移植した後の妊娠率(<35yoは57±51, 35-37yoは56±53, >38yoは45±52)は、年齢グループ間で差は見られませんでした。

まとめ

母体年齢が上がるにつれて、より少ない数の胚盤胞胚しか得られず、染色体正常である可能性も低くなりました。一方で、染色体正常胚を移植した場合、どの年齢の女性においても妊娠のチャンスに違いはありませんでした。これらの結果から、コスト分析に基づき、母体年齢が38歳以上の場合にPGT-Aを取り入れることが有利である可能性があります。これは、この年齢群では1回の移植で染色体正常胚を移植する可能性が低いためです。38歳以上の患者の場合、胚1個あたりのPGT-Aの費用は$1653と算出されますが、凍結胚移植の費用が$2700であり、PGT-Aすることで、妊娠出産に至らない移植を避けることができ、費用対効果が高い可能性があります。最終的な決定は、患者ごとの個々のニーズに基づいた情報に基づくべきです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?