Buzy「鯨」を今更聴いた話
Buzyというグループは、ウィキペディアによると2006年まで活動していた女性6人組音楽ユニットだったようだ。
その楽曲の歌詞の多くをポルノグラフィティの晴一さんが提供していたことから、ポルノファンの中ではよく知られている存在である。
わたしは当時気になりつつも限りあるお金をそこまで回せる余裕はなく、そうこうしているうちにグループが解散してしまったため、実は今まで彼女たちの歌を聴いたことがなかった。
しかし、SNSで偶然、Buzyの楽曲がサブスクリプションサービスで聴けるようになったという話を目にしたため、今になってダウンロードしてみることにしたのだ。
その中でも「鯨」はあまりにも素晴らしくて、リアルタイムで聴かなかったことを心底後悔している。
「生まれ落ちた罪 生き残る罰 私という存在」
もうこのフレーズだけで思春期真っ盛りのわたしの心は鷲掴みにされていただろう。
こんなに良い曲があまり日の目を見なかったというのはヒットチャートの難しいところだなどと勝手に思う。自分も当時CDを買っていないのだから、それを棚に上げてこんなことを言うのはいかがなものかというツッコミをしつつも。
わたしは曲を聴くとき、一つ一つの歌詞を丁寧に拾って深く考察したりするタイプではなく(ファンの方の歌詞解釈を読むのは好きだが)、歌詞やメロディの印象から想像を広げていって楽しむことが多いのだが、この「鯨」でまず思い浮かべたのは人魚姫だった。それも、童話とは異なる結末を辿った人魚姫。
有名すぎる人魚姫のストーリーをわざわざ説明するのも野暮かもしれないが、一応簡単に記しておきたい。
海に住む人魚姫が、嵐の日に船から投げ出された人間の王子を海辺に運んで助ける。それ以来、王子に恋をしてしまった人魚姫は、魔女と契約をし、美しい声と引き換えに人間の姿にしてもらう。
人間になった人魚姫は王子と再会するが、王子は人魚姫のことを覚えていないどころか、海辺で気を失っていたときに介抱してくれた別のお姫様と婚約してしまった。人魚姫は王子と結ばれなければ泡となって消えてしまう。悲しみに暮れる人魚姫の前に彼女のお姉さんたちが現れる。魔女に自分たちの美しい髪を差し出す代りに人魚姫が泡にならずに済む方法を聞き出してきたのだ。それは、王子を殺すこと。
しかし人魚姫はそれを拒否し、王子を愛しながら泡となって消えていく…そんなアンデルセンの悲恋ものだったと記憶している。
しかし、この「鯨」の主人公である人魚姫は、王子を殺したのではないかと思ったのだ。
泡になりたくなかったからではない。自分に振り向いてくれない王子を嫉妬に駆られて殺した。
泡にならなかった人魚姫は、しかし海に帰ることもできず、王子を殺したが故に陸にも居場所はなく、罪を背負いながら遠い海辺で孤独に生きていたのではないか。
そんな中で、陸に上がってしまった鯨と出会う。人間になってしまった人魚姫は鯨と言葉を交わすことはできないが、かつて恋に憧れて人間になった自分と鯨を重ねる。
しかしある日鯨は海に帰っていく。人魚姫は、鯨のいなくなった世界で、あらゆる苦しみを王子を殺した罰として、また王子を愛した証として受け続けながら、今でもなお王子を愛して生きている…。
そんな物語が頭の中に浮かんだ。
もちろん自分の思い描いたものが正解だとは思わない。鯨にはもっと何か重要なメタファーが隠されているのだと思うが、そういった考察はそういったことが得意な人に譲ることとしたい。
晴一さんの紡ぐ歌詞は、ぐっと引き込まれる世界観を持ちながら、具体的な想像は聴き手に委ねられていて、そこが魅力の一つだと思っている。
だから、わたしはこれからもこうして自由に想いを巡らせていきたい。
ポルノとしての晴一さんの活動はもちろんのことであるが、様々な方に提供している歌詞もこれからはチェックしていきたいと思った今日この頃であった。