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ウイングス「ウイングス・アット・ザ・スピード・オブ・サウンド」

Release Date
March 1976

Song List

Let 'Em In
The Note You Never Wrote
She's My Baby
Beware My Love
Wino Junko
Silly Love Songs
Cook Of The House
Time To Hide
Must Do Something About It
San Ferry Anne
Warm And Beautiful

1975年。「ヴィーナス・アンド・マース」は「バンド・オン・ザ・ラン」に続き、全英全米1位を獲得する大ヒット作となってはいたが、新たなメンバーによるウイングスはまだライブをやっていない。いくらレコーディング中にバンドの成功を確信していたとはいえ、アメリカでのライブはまだあり得ない。ライブを重ねて初めてバンドは成長する。小さめなホールやメディアが少ない場で数をこなしていこう。9月からイギリス、11月からはオーストラリア。ウイングスはツアーに出る。

水面下では全米ツアーをブッキング。アメリカ上陸を1976年に定める。となると「ヴィーナス・アンド・マース」から1年後となる。間が空き過ぎる(そしておそらくはキャピトルと結んだ契約上、年1枚のアルバムリリースが条件になっていたとも思われるが、詳細不明)。ツアーの合間にバンドは新作のレコーディングを行う。

アイデアはある。ツアーに合わせたアルバムだから、バンドメンバー全員に歌わせよう。リンダには、リンダからプレゼントされたビル・ブラック(エルヴィス・プレスリーのバックミュージシャン)が使ってたウッドベースを使った、エルヴィスのサン・レコード時代を思わせるロカビリーテイストの曲を。ジョー・イングリッシュには音域の狭い素朴なカントリーチューンを。デニーはサイモン・アンド・ガーファンクルをカバーしたがってたが、上手くいかないから別の曲を用意する。ジミーの曲と同様、AORのテイストを取り入れてフェンダーローズを前面に出せばなんとかなる。

ただし、自分の曲はない。リンダと出会った時に作った"She's My Baby"を引っ張り出してくる。まだ足りない。じゃあディスコチューンを作ろう。「ポール、バラードだけじゃん」とか言われてムカついたからな。"Silly Love Songs"で何が悪い?ってね。ライブにもう一つ盛り上がりが欲しいから、ハードなポップチューンも欲しいな。"Beware My Love"、よし、オッケー。アメリカにご挨拶しとこうか、グリーンカード取得で揉めてたアイツもネタにしよう、もう大分仲も回復してるしね。「Brother John、Let 'Em In」。どうだ面白いだろ?リズムはSister Susie=リンダお気に入りのオフビートに、マーチもプラスさ。でもアメリカ寄り過ぎるかな、ちょっとヨーロピアンジャズのテイストも取り混ぜようか。"San Ferry Anne"、これならブラスの面々も楽しんでレック出来るよね。最後はリンダに感謝しとこうか、"Warm And Beautiful"、これはパーソナルだから一人でいいな。

短期集中型レコーディングながら、ソロ以降初とも言えるアビーロードスタジオでの作業。高まる集中により、サウンドは「バンド・オン・ザ・ラン」で掴んだ適度な隙間とクリアな音、適切なストリングスやブラスの配置を取り戻す。メンバーの力不足な歌をも力技でひとつのトーンに落とし込むアレンジの妙、何より"Silly Love Songs"、"San Ferry Anne"、"Warm And Beautiful"というポールにしか書けない名曲が要所を締めることで、アルバムは凡庸さを回避する。

アートワークは再びヒプノシス、アメリカのコンサートホールのビルボードを模したジャケットに、アメリカへの挨拶を込める。入っていいかい?入れてあげなよ、僕らをさ!アメリカのファンはチャート1位という形で歓待の意を示す。そしてポールは10年ぶりのアメリカでのライブステージに立つために飛行機に乗り込む。

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