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弓道における「もたれ」について

弓道の有名な射癖(弓を引く上での癖)について

弓道において最も有名な射癖は「早気」かと思います。狙いが的につくなり(人によっては狙いがつく前に)、離れを迎えてしまう、特に弓道を始めて中りがが出はじめた頃になりやすい癖です。
反対に、この記事のタイトルになっている「もたれ」は狙いが的についてもなかなか離れが出せない苦しい癖です。体と心の「離れの時機」が合わず「ビク」が出たりして、周囲からは「あの人はなんで離せないんだろう」と不思議に思われることもある癖ですね。もたれについては初心者からかかるということはあまりなく、どちらかというとある程度年数を経験し、矢数がかかった中級者に陥りやすい癖かと思います。
私は高校から弓を始め、最初は早気に悩みました。ある程度克服したと思ったら高校3年生くらいからもたれの傾向が出始め、大学弓道や一般で引くようになってからも時としてもたれやビクに悩まされることになり、この原稿を書いている今も必ずしも完治しているとは言えない状況ではあります。もたれやビクの解決について書かれている弓道書は非常に少なく、「気合いで離せ」的な論調の先生もおり、当事者からするといささか解決には結びつかないなあと思い悩むこともあります。離せないというのは存外辛く、こんなに辛いなら弓なんて辞めてしまいたいと思うこともあるほどです。
何年も大変な思いをして、やっともたれやビクを克服するきっかけを掴めかけている気がし、それを言語化することを通じて自分に定着させるべく執筆を考えました。
以下に離せない理由やそれぞれの場合どういう角度から修正を試みたら良いか書いてみます。

技術面での原因の考察

もたれに陥る射の特徴について、以下のパターンがあると思います。

  • 左右の引き方(力をかける方向)が違う

  • 両手の内を力んでいる(握り込んでいる)

  • 手首が力んでいる

  • 手繰り(たぐり)

  • 斜面打起し

左右の引き方(力をかける方向)が違う

人は左右に手がありますが、左右で別の動きをするのは苦手です。弓道において、(この表現は語弊があるような気がしますが)左手はまっすぐ伸ばすためある程度方向が決まっていますが、右手は弽の弦枕に弦を掛けて引くため左手とは別の動きになります。そのため、左右の形は違っていても、左手にかける力と同じ場所に右手も力をかけるように引けば残心に向かっていく方向性が掴みやすくなり、離れが出しやすくなると考えています。
ここではどこにどう、という力のかけ方の説明はしませんが、人それぞれ左手の力の使い方があると思います。その部位と同じ場所を右手にも意識を向けてみるとシンプルに離れを迎える可能性は上がりやすいです。

両手の内を力んでいる(握り込んでいる)

離すために伸び合いをしようとするばかり、両手の内に力を入れて伸びようとしていないか?
伸び合いは力を入れて行うことではないと思っています。もちろん、引いてきた矢束(引く矢の長さ)をキープするための最低限の力は必要ですが、それ以上の力は自分自身をロックする力になってしまうため、意味のあるものではありません。疲れるだけです。的中を求めるばかり、手先の射になっているときにこのパターンに陥りやすいです。
いろいろな先生方も言われていますが、手の内とはバネの力で働かせるものであり、柔軟性が必要な場所なのです。離れのための最後の一押しができないと離れに対するハードルは大きくなります。
(両手の内の力みを取るためのテクニックについてはまた機会を見て書いてみようと思います。)
握り込む力をかけず、手の内の維持だけに気をかければ離れがしやすくなるはずです。

手首が力んでいる

今の私はこのパターンが多いのですが、先ほどのパターンと同じく手首に力が入っていると離れが出しにくいです。手首に力が入ると矢筋方向の力を阻害し扇離れや角見の方向の不正などの射癖も併発します。矢が上下に飛ぶため的中も下がります。所謂「鵜の首」を意識してなるべく手首を丸く取るようにすると肘で弓力を受けやすくなるため離れが大きく、鋭くなります。
大三(斜面打起しの場合は打起し)で手首の丸みを意識し、その形を維持するように引くようにすると詰め合いからの伸びが生まれやすくなります。
この場合は往々にして矢束が取れないので引き足らずという評価を受けやすいと思います。力むから矢束が取れないというのは変な話ですが、力まない方が大きく引ける(体にかかる弓力も大きい=離れも出しやすい)のです。

手繰り(たぐり)

最初にもたれに陥ったときはこれが原因でした。高校の弓道部に強い弓がなく、学校にある一番強い弓をめちゃくちゃたぐって引いていました。当時170cm少々だった私ですが、95cm近く引いていました。弓が弱いから引くことで手応えを求めていたのですが、引きすぎると手先の射になりがちになります。このパターンの場合は弓力を上げるのが一番の解決法になりますが、いろいろな理由でそれが難しい場合は手先ではなく肘や体で弓力を受けるように意識の転換が必要になると思います。

斜面打起し

苦情が来そうですが、あえて書きます。斜面打起しの人はもたれが非常に多い。かくいう私も斜面打起しです。斜面のメリットは手の内を弓構えのタイミングで(外見上)完成させることですが、これは最大のデメリットでもあると思います。先に手の内を整えてしまうので、以降の動作で押しに意識をし過ぎてしまい、手先の力み(=伸びが出なくなる)を誘発してしまうのです。また、斜面打起しは弓構えの際に左肩や腰が後ろに流れがちです。そのまま引いてしまうと左右の体がずれてしまうことから伸びが止まったり、引く方向が揃わないといった他のもたれの原因にもなります。
斜面打起しで手の内をしっかり作っているから押手が強いと思われがちですが、意外と斜面の人は後ろ狙いの前飛ばしで的に飛ばすパターンが多いです。これも手の内の力みが大きな原因かと思います。

精神面での原因の考察

弓道は精神的な側面も大きいため、もたれも精神面から起因することがあると思います。

  • 気持ちの問題(目標を失っている)

  • 完璧主義の人ももたれになりやすい

気持ちの問題

そもそも、もたれに陥っている場合、弓道の目標は明確になっているのでしょうか。「もたれを直したい」は目標ではありません。
「日本一になりたい」「次の審査で合格したい」「あの人には負けたくない」といった目標はあるのでしょうか。どこかで弓を引くことに対する「諦め」はありませんか?どうせ離せないだろうと。
私は弓道と昔の戦場の道具だった弓とを同一視することはあまり好きではないのですが、敵前で離せないという逸話は聞いたことがありません。つまり、弓を引く上での確固たる目標があれば矢は必ず飛ばされるということではないでしょうか。もたれが長引く場合、弓を引くためのモチベーションが低くなっている可能性もあります。明鏡止水は相当高度な技術を持つ方の達する境地として、そこに辿り着くまではもう少し血の気がある弓を引いてもいいのかもしれませんね。
気持ちの停滞は射の停滞をもたらします。
もう一度、自分が弓を志す理由を紐解いてみることが必要かもしれません。

完璧主義の人ももたれになりやすい

自分はもたれやビクは本当に嫌いで、上手く引けない自分に嫌悪感を抱いてしまいます。きっとこういう気持ちになる人ももたれになりやすいです。私は私が真面目だと思いませんが、周りのもたれの方は真面目に弓を引かれている方や「こう引かなければならない」と完璧を求める人がもたれになる傾向があると思います。
もっといい意味でテキトーに弓を引けると解決の糸口が見えるのかもしれませんね。弓は人の指図で引くものではなく、自分が引くものですから。

まとめ

上述の通り、いろいろと書いてきましたが、技術、精神ともに共通することは固まっている(=力や精神的に停滞している)と離れが出しにくくなるということです。そんな状態で気合いでぶっちぎって離そうとしても離れは出ません。
私は、自分の射や弓道への取り組みのどこが止まっているのかを見つめ直すともたれやビクが減りましたし、的中率も好調な状態に戻りました。
まだまだ修行中のみなので今後更なる悩みに苛まれるかもしれませんが、今私の思っていることは以上です。
自分自身のために書いたnoteのため、同じ癖をお持ちの方の解決を目的とした執筆ではありませんが、これを見られた方の何かの参考になるとすれば望外の幸せです。

いったん公開しますが、後日思い直したり、別の事柄もあるなと思えば適宜修正しようと思います。

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