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『名牝系』華麗なる一族 〜エアグルーヴ(Air Groove)編〜活躍馬まとめ

競走馬の世界には牝系という概念があります。

牝系とは、家族の考え方を競走馬の世界に落とし込んだもので、『母』や『母の母』、『母の母の母』というように母方だけを辿っていく概念になります。

そもそも何故この考え方をするのというと

サラブレッドには

『thorough』[完璧な、徹底的な]『bred』[品種、育ち]

という意味があり、より優秀なものを生産していくというのが目的であるため、1年に1頭しか産めない牝馬と違い牡馬は種付けすれば父親になれるので、優秀な馬しか父親になれないという理由があります。

優秀な馬しか父親になれないという事は、父親で大きな差は生まれにくく、母親で差が生まれることになります。

それは何代続けても同じ事が言えるので、
この牝馬は、、からこの牝系は、、という考え方になっていきます。

結果的に牝系ごとに評価される事となり、優秀だとかそうでないとかという話になります。

セリなどではその評価の差が価格に反映され、大きな差が出ます。

たとえ母親が競走馬として優秀ではなくても、牝系が優秀だと高値で取引されます。

そういった馬から強い馬が現れるのはサラブレッドの世界では日常茶飯事なので、バイヤーはあまり気にしないですし、むしろ活躍していない事から少し安くなるので多くのバイヤーが狙う馬にもなります。

牝系について長々と書いてきましたが、この記事では、ドゥラメンテに代表される日本屈指の名牝系であるエアグルーヴ牝系についてまとめています。


エアグルーヴについて

エアグルーヴ Air Groove

父 トニービン 母 ダイナカール 母父 ノーザンテースト 生年月日 1993年04月06日

通算成績:19戦6勝 (9-5-3-2)

主な実績:優駿牝馬(G1)1着、天皇賞(秋)(G1)1着、ジャパンC(G1)2着

代表産駒:ルーラーシップ、アドマイヤグルーヴ、フォゲッタブル

牝馬劣勢の時代に名馬揃いの同年代と互角に渡り合った歴史的名牝。

戦ったメンバーとしては、エルコンドルパサーやスペシャルウィーク、グラスワンダー、セイウンスカイなど最強世代と呼ばれる98年世代の面々、サイレンススズカ、ステイゴールド、バブルガムフェロー、シルクジャスティス、マーベラスサンデーなど錚々たるメンツで、これらの名馬達と同等に戦える牝馬は牝馬が強くなった現在でも殆どいないであろう。

繁殖牝馬としても大成功しており、ルーラーシップやアドマイヤグルーヴを輩出し、孫世代からはドゥラメンテを輩出するなど日本を代表する名牝系の祖である。


牝系の活躍馬

アドマイヤグルーヴ

父 サンデーサイレンス 母 エアグルーヴ 母父 トニービン 生年月日 2000年04月30日

主な実績:エリザベス女王杯(G1)1着、関西TVローズS(G2)1着、秋華賞(G1)2着

代表産駒:ドゥラメンテ、アドマイヤセプター、ボージェスト

2000年セレクトセール当歳部門に上場され、2億3000万円で落札された。

この落札額は、当時のセレクトセールの最高取引額であったが、後々の活躍を見ると結果的には安い金額だったとも言えるのではないだろうか。

現役時はG1を2勝した名馬であり、繁殖としても牝系最強馬であるドゥラメンテを輩出した。

その他にもアドマイヤセプターやボージェストが繁殖として非常に優秀で、本馬を通る繁殖とそれ以外では出てくる仔のクオリティが違い、同牝系の活躍に大きな役割を果たしている。

本馬は現役時代から気性の難しいところがあったのだが、その特徴はもれなく産駒に引き継がれており、能力の高さと気性の難しさは本馬とその子孫の多くに共通している部分である。

  • アドマイヤセプター

父 キングカメハメハ 母 アドマイヤグルーヴ 母父 サンデーサイレンス 生年月日 2008年03月14日

主な実績:京阪杯(G3)2着、毎日放送賞スワンS(G2)3着、札幌2歳S(G3)3着

代表産駒:スカイグルーヴ、デシエルト

現役時も重賞戦線で惜しいレースが多かった本馬だが、繁殖としても非常に優秀で重賞級の馬を輩出し続けている。

本馬の産駒は気性にかなり難しいところが共通点としてあり、能力の高さと気性難を併せ持っている産駒が殆どになっている。

  • スカイグルーヴ

父 エピファネイア 母 アドマイヤセプター 母父 キングカメハメハ 生年月日 2017年01月23日

主な実績:京王杯スプリングC(G2)2着、京成杯(G3)2着、京都牝馬S(G3)2着

エピファネイア産駒として初の重賞制覇となった。

  • デシエルト

父 ドレフォン 母 アドマイヤセプター 母父 キングカメハメハ 生年月日 2019年01月17日

主な実績:若葉S1着

2019年セレクトセールにて2億7000万円で落札された。

2戦目まではダートで連勝していたものの、3戦目に皐月賞トライアルの若葉Sを選択し、そのレースを快勝した事により皐月賞では穴人気したが、結果は惨敗だった。

力負けというより血統からくる気性の難しさによって春クラシックでは能力を発揮する事ができなかったと言えるだろう。

  • ボーデン

父 ハービンジャー 母 ボージェスト 母父 キングカメハメハ 生年月日 2018年02月16日

主な実績:フジTVスプリングS(G2)3着

  • ソネットフレーズ

父 エピファネイア 母 ボージェスト 母父 キングカメハメハ 生年月日 2019年03月24日

主な実績:デイリー杯2歳S(G2)2着

ドゥラメンテ

父 キングカメハメハ 母 アドマイヤグルーヴ 母父 サンデーサイレンス 生年月日 2012年03月22日

主な実績:皐月賞(G1)1着、東京優駿(G1)1着、中山記念(G2)1着

代表産駒:タイトルホルダー、スターズオンアース、アリーヴォ

現役時から能力がずば抜けており、皐月賞では伝説的なワープを見せ勝利し、ダービーでも展開不利はあったものの、モノともせず完勝し2冠馬となった。

しかしその後脚元を骨折してしまい3冠への夢は絶たれる事になった。

復帰は4歳の中山記念で9ヶ月ぶりの実戦となったが、リアルスティールやアンビシャス、イスラボニータとメンバーは揃っていたものの無事勝利した。

次戦はドバイシーマクラシックで大きな期待が寄せられていたが、直前で落鉄するアクシデントが発生し、それも影響したのか2着であった。期待の大きさやポテンシャルからすると物足りない成績と言えるだろう。

帰国後、宝塚記念に参戦しキタサンブラックもいる中で1.9倍の圧倒的な1番人気に推され、馬群を裁くのに時間がかかったというのもあるが、馬場が重く本来の能力を発揮できなかったという事もあり、クビ差の2着に惜敗する。

またレースのゴール地点で穴ぼこに脚がハマったような形になり、その直後に歩様が乱れ下馬する事になり、後日検査した結果、靭帯や腱の損傷がひどく競争能力喪失という診断が下され引退となった。

ガーサントから始まり、ノーザンテースト、トニービン、サンデーサイレンス、キングカメハメハにダイナカール牝系という社台グループの歴史そのものという血統背景から、種牡馬として何としてでも成功させるという様な意気込みを感じる力の入れようだった。

産駒が走り出し、2年目ぐらいまでは結果が出ず失敗種牡馬とまで言われる成績だったのだが、育成のノウハウが向上したのか、3年目から産駒成績が急に上がり、タイトルホルダーが春天と宝塚記念を制覇し、スターズオンアースが牝馬2冠を達成するなどG1戦線での活躍が目立った。

それだけでなく下級条件での成績もよく、上から下まで全体的に向上したと言え、2022年は4歳が一番上の世代の種牡馬ながらリーディング5位は取れるだろうという成績になっている。

ただ本馬は産駒が活躍し出す前年の2021年に急死しており、多くの産まれるはずであった名馬を損失したと言え、さらに種牡馬戦国時代に拍車がかかったと言えるだろう。

  • グルーヴィット

父 ロードカナロア 母 スペシャルグルーヴ 母父 スペシャルウィーク 生年月日 2016年04月05日

主な実績:トヨタ賞中京記念(G3)1着、中スポ賞ファルコンS(G3)2着、京王杯スプリングC(G2)3着

  • ポルトドートウィユ

父 ディープインパクト 母 ポルトフィーノ 母父 クロフネ 生年月日 2012年03月19日

主な実績:京都新聞杯(G2)2着、きさらぎ賞(G3)2着

  • フォゲッタブル

父 ダンスインザダーク 母 エアグルーヴ 母父 トニービン 生年月日 2006年04月03日

主な実績:ステイヤーズS(G2)1着、ダイヤモンドS(G3)1着、菊花賞(G1)2着

ルーラーシップ

父 キングカメハメハ 母 エアグルーヴ 母父 トニービン 生年月日 2007年05月15日

主な実績:クイーンエリザベスC(G1)1着、日経新春杯(G2)1着、金鯱賞(G2)1着

代表産駒:キセキ、ソウルラッシュ、メールドグラース、ダンビュライト

現役時は、スタートが極度に下手で何度も記憶に残る出遅れをし、日本のG1を勝つ事はできなかった。

しかし持っていた能力は本物であり、G1で幾度となく出遅れたものの能力の高さだけで上位に入ってくるという芸当を繰り返していたため、常に人気していた。

念願の初G1勝利は香港のレースであり、日本とはスタート時のルールが異なるため出遅れる事なく勝利することができた。この事からもスタートルールさえ違えばG1を何勝も名馬だったと言えるのではないだろうか。

種牡馬となった本馬は、超良血でありながらサンデーサイレンスの血を持っていないという奇跡的な血統だった事もあり非常に期待されたが、サンデーサイレンスを持っていない事が影響したのか日本向きではない産駒が多く、期待ほどの成績を残す事はできなかった。

  • グルヴェイグ

父 ディープインパクト 母 エアグルーヴ 母父 トニービン 生年月日 2008年05月11日

主な実績:マーメイドS(G3)1着

代表産駒:ヴァナヘイム、アンドヴァラナウト

  • ヴァナヘイム

父 キングカメハメハ 母 ラストグルーヴ 母父 ディープインパクト 生年月日 2014年01月25日

主な実績: ラジオN杯京都2歳S(G3)2着

  • アンドヴァラナウト

父 キングカメハメハ 母 グルヴェイグ 母父 ディープインパクト 生年月日 2018年02月21日

主な実績:関西TVローズS(G2)1着、サンスポ杯阪神牝馬S(G2)2着、秋華賞(G1)3着

  • ランフォザローゼス せん

父 キングカメハメハ 母 ラストグルーヴ 母父 ディープインパクト 生年月日 2016年02月14日

主な実績:テレビ東京杯青葉賞(G2)2着、京成杯(G3)2着、ダイヤモンドS(G3)2着

  • レッドルレーヴ 

父 キングカメハメハ 母 ラストグルーヴ 母父 ディープインパクト 生年月日 2017年02月16日

主な実績:フラワーC(G3)2着


まとめ

いかがだったでしょうか。

同牝系は名牝系らしく活躍できなかった馬から活躍馬が出る事もありますが、それよりも活躍馬から活躍馬が出るというシンプルなパターンが多く、現役時の能力と繁殖能力が比例しているケースが多くなっています。

特にアドマイヤグルーヴから広がる枝葉は優秀で、活躍馬が多くなっています。繁殖としても、ドゥラメンテやアドマイヤセプターを中心に優秀で、大きな広がりを見せており、先述した同牝系の性質を鑑みると牝系の未来を背負っている枝葉だと言えます。

エアグルーヴからは年月が経ち子孫も多くなってきていますが、クラシック級の馬が毎年出ており注目度がさらに上がっています。

ドゥラメンテは亡くなってしまった事で産駒に出資できる機会は限られるので、クラブの募集馬には要注目ですね。


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