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【21-30日目】100ラジを100倍楽しむためのファンブック ~現役放射線技師が「100日後に吸着事故を起こす放射線技師」を解説する~

企画の主旨はこちら↓の「はじめに」をお読みください。

21日目

前回登場した新人君を引き連れて、病棟ポータブル(出張レントゲン)を指導している主人公。「病棟ナースさんには挨拶すること」の言葉が示す通り、看護師さんを敵に回すと病院では働けません。チーム医療が叫ばれて久しいですが、(仮に)職種で「権力」に差が無いとしても「戦力」には大いに差があります。万が一ある病棟で「〇〇って放射線技師さん、あいつマジあり得ない」などと噂が立つと、その伝搬速度は5Gよりも早く全スタッフに共有されます。チーム医療、重症の患者さんのポータブルの任務を完遂するためには病棟看護師さんの協力は不可欠ですので、患者さんの利益のためにも、もちろんナースさんにだけでなく全てのスタッフに対してですが、挨拶は欠かさないようにしましょう。

リハ室には「コミュ力の高いマッチョ」、さらに言えば「髪がテカテカでコミュ力の高いマッチョ」(ref.19日目)がたくさん居ます。と言いたいところですが、実際私はリハビリテーション室自体に入ったことがありません。また栄養室や臨床検査の検査室など、同じ病院、同じコメディカルでも実は横のつながりがあんまり無かったりもします(私だけでしょうか?)。しかし本来「チーム医療」であれば、例えば脳梗塞後の患者さんに対して我々が画像から麻痺の出る領域を提示し、理学・作業療法や言語聴覚のスタッフがアセスメント、といった医療が行われており、もっとお互いの顔が見える関係が構築できればチーム医療をより身近に感じられるのでしょう。ちなみに背景の擬音が「リハ リハ」になっているのに皆さん気づきましたか?

小児病棟を回っていて子供に浣腸をされたことは無いです(笑)。看護師さんには(と言うか人間誰しも)性格は千差万別で、どんな性格が良い/悪いとは一概に言えませんが、小児医療に関わるスタッフは(少なくとも外から見るぶんには)とても物腰が柔らかく愛想がいい方が多いように思います。我々放射線技師も小児の患者の撮影を行うことは多いですが、一回ヘソを曲げられるとその後の撮影が困難になりますので「小児撮影のテクニック」というのはポジショニングや撮影パラメータうんぬんよりも「患者の協力を引き出す」ことが大きな割合を占めるものだと思います。そういった点では、小児病棟の看護師さんから学ぶことは非常に多いです。ぜひ積極的に交流を持つように働きかけましょう

「診療放射線技師って、異性との出会いは多いですか?」と良く聞かれますが、個人的にはあまりそう思いません。男性放射線技師の立場では、まず女性放射線技師は現状では数が少ないですし、職場恋愛もあまり勧められたものではありませんし、何より女性放射線技師は気がつよ(ここで文章が途切れているref.17日目)。大きな病院では「放射線部の看護師」という配置がされ、CT室や血管撮影室に専属のナースさんが居てくれたりしますが、ほとんどの病院ではオb...ベテランの看護師さんが配属されることが多いです。「外来/病棟では使い物にならない」というネガティブな理由から「カテ室看護はエキスパートナーシングだ」という超前向きな理由まで、いろいろあると思います。また放射線被ばくに関する配慮というものも無いとは言えません。一方、珍しいのかどうか判断しかねますが、私の前の職場で病棟ポータブルでナンp....仲良くなった看護師さんと結婚した先輩という事例があります。ポータブルを巧みに撮れるということは、患者利益だけでなく様々なことに役立つとっても良いでしょう

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22日目

就活を控えた学生さんに強調したいのですが、あまり「初任給」と言うものに惑わされてはいけません。多くの方は仕事を30年以上続けることが多いですが、「生涯賃金は積分」であり「早く基本給が昇給すること」が最も重要なファクターです。賛否はあるかも知れませんが、例えば初任給20万円と提示された求人でも一切時間外がつかない、サービス残業満載のブラック職場よりも、初任給18万円でも適切に超過勤務手当が支払われる職場の方が手取りが多くなったりします。一方、ボーナスは「基本給×〇ヶ月分」という計算で支払われますので、一見手取りが多いように見えても諸手当でかさ増ししているだけでボーナスは少ない、ボーナスの「〇ヶ月分」は平気で毎年変えられてしまう、そもそもボーナス?なにそれ美味しいの?という職場もあります。すなわち、外から見える求人情報に示された給与の情報というものは、実際外からはよくわからないというのが現実です。

「放射線技師の給与明細を公開!」というyoutubeも大いに結構ですが、それはあまり参考にならないことが多く、どうしても気になるのであれば希望する職場の内部の人間からリアルな声を聴くほかありません。それよりも、「その職場で長く働けそうか」「その職場で自分がなりたい放射線技師像に近づけるか」と言うものを重視すべきだと私は考えます。仮に初任給が30万の好待遇職場でも、3か月で辞めてしまえば意味が無いのですから。

主人公が飲んでいるブラックコーヒー、「ONAKA BKACK(腹黒)」という商品だそうです。昇給しないオブザデットはつらすぎますね。

23日目

労働基準法第34条では、『労働時間が 6時間を超え、8時間以下の場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は、少なくとも1時間の休憩を与えなければならない』とされています。したがって正規雇用の放射線技師であれば普通、休憩時間は1時間以上あるはずです。

これは病院に依るのかもしれませんが、「12時~13時はレントゲンお断り!」というような施設は少なく、多くの施設が技師が交代で休憩に入りお昼も少ない人数で回し続けていることが多いと思います。また本来予約枠で検査を受けるようなCTやMRI、最初は「1時間に4件(1枠15分)」で電子カルテからオーダされていたものが検査室に電話で直接「急ぎで」と依頼され、気づいたら「1時間に8件」みたいになっていることもあります(うちもです)。この場合、当然想定されていた時間には終わらないことが多いので「誰かがお昼休憩時間も撮影の対応をする」必要があります。

ただし診療放射線技師は「保健衛生業」に含まれるため、労働基準法の「休憩時間の一斉付与の原則(決まった時間にみんなで同時に休憩する)」からの例外が認められており、1時間の休憩でも30分×2となったり、いつもと同じ時間に休憩できなかったということは問題となりません。ちゃんと後から足りなかったぶんの休憩を取らせてもらえばですけどね。

主人公が飲んでいるミネラルウォーター、「〇〇ハス」と書いているように見えて「いろはす」のパロディなのではと思いましたが、画像の解像度の限界で解読できませんでした。悔しい!

24日目

放射線技師の夜間休日勤務体制に関する解説は既に私の過去記事に解説してあります。

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こんなことを言うと他の職種の方から「甘えだ」と言われてしまうかもしれませんが、「私の身体は一つしか無いよ!!」と言うことを声高に叫びたくなるときが多々あります。救急車が来て今からCTを撮りそうだなっていう時に病棟ポータブルには行けません(当然「早い者勝ち」ではなく、臨床的に優先度が高いものを先に対応し、後に回した方には事情を説明するのも我々の重要な仕事です)。ほとんどの医療従事者の皆様は事情を話せばわかっていただけることが多いですが、「なんで?」とか「こっちも急ぎなんだけど」「もう一人技師いないの?」など心無い声をかけるような人は...居ないと信じます。

25日目

主人公が新人君に画像処理(MPRか3D?)のやり方を教えています。多くの業務にはマニュアルというものが作成されることが多いですが、我々の仕事は実際に手を動かす、生きてる患者さん相手にするものですので文書だけではすべてを伝えることは難しい、というのは他職種の皆様も同意いただけると思います。このコマでは「先輩風だな」と揶揄していますが、この主人公のように手取り足取り教えてくれる先輩はまだマシな方だと思います。

世の中には自分ができる仕事を他人に継承せず「自分だけのスキル」を囲い込んで職場で優位な地位を確保しようと企てる悪い放射線技師が居ます。ろくに仕事も教えずに「あいつは仕事ができない新人だ」という先輩、放射線技師だけでなく看護師などでも良く聞きますよね。そもそも「仕事ができる/できない」を判断するのに1年は短すぎます。新人時代の仕事の出来なんて、ほぼ誤差です。少なくとも、新人や後輩の教育にコミットしていない先輩は、後輩の成長に文句をつける立場にはありません。

一方、最近では指導の在り方についても悩ましいところはあります。熱血指導根性論は時代に合いませんし、使う言葉の選択を誤るとパワハラ認定されます。これは放射線技師に限らず全職種で抱える問題だと思います。ぜひそう言った知見を、twitterないしインターネットのつながりを通して多くの人と共有したいと常日頃思っています。

26日目

「一番寝心地のいい検査室(装置)」の話題はtwitterの技師クラでもよく話題になります。ここで重要なのは、あくまでもお昼寝や夜間当直のときに自分が寝るのではなく患者さんの検査時の快適さについて議論している、ということです。絶対にだ。

私は「骨密度装置」を第1に推します。「寝心地の良さ」は

①クッションの柔らかさ
②寝台の(特に左右の)広さ
③床からの高さ
④その部屋の温度湿度その他環境

の4つのファクターから構成されます。

①のクッションの柔らかさに関しては、実は血管撮影装置が最も快適であることが多いです。血管撮影検査は長いものでは4~6時間ずっとベッドの上で体を動かせないということがありますので、テンピュール製のマットが使用されていることもあり非常にクッション性が良いです。しかし②の寝台左右幅が狭いうえに③床からの高さが非常に高いため、寝返りを打とうものなら大怪我必至です。

MRI装置もクッション性が良いことが多いですが、MRI装置は常に磁場が発生(検査中だけでないですよ!!)しているため室内に当直用PHSやスマホを持ち込めない、冷却のために機械音がする、検査室が寒いなど④の点で大きく欠点があります。

CT装置は寝台こそやや狭いですがそれを除けば比較的すべての点において優れています。しかしCT装置というものは、始業時に装置の始業点検のためにX線を出してウォーミングアップと検出器のゼロ校正(キャリブレーション)が必要です。万が一、夜間に寝台の上に人が寝ているとして、何者かが気づかずに翌朝始業点検を始めてしまい、中で寝ている人が起きなかったら。普通にニュースになると思います。

その点骨密度装置は左右に広い寝台幅と、高いクッション製を持つマット、静かな検査室環境を兼ね備える優れた検査装置ですが、実はここに示した「全身用骨密度装置」というのは保有している施設はあまり多くなく、簡易的な方法である前腕骨や踵の骨で測定する装置を置いている施設が多いのではないかと思います。

27日目

医療従事者の皆様に心得て置いていただきたいのは「悪質なクレーマーに対応する際は、決して自分だけでは対応せず、相手よりもこちら側の人数を多くする」ということです。この場面では主人公が速やかに新人に加勢をしなかった点に落ち度があると言っても良いでしょう。また新人は出来る限り早い段階で「責任者を呼んで来ます」と言えると良かったと思います。

というのは本題ではありませんので話を戻すと、私も後輩への差し入れ?には良く頭を悩まされます。自分もどちらかと言えば甘いコーヒーの方が好きなのですが、そもそもコーヒー自体飲まない人も居れば、お菓子でも甘いものは好きではない、糖質制限している、などと言うパターンが想定されます。後輩がすごく忙しかった夜勤の明けや、何か仕事を手伝ってくれた時など、1本の飲み物を差し入れるために3本(ブラック、微糖、緑茶)を買い選ばせるといったことをする場合も。「そもそも、先輩からのそんなもの要らなくね?」と言ってしまえば元も子もないですが、私は後輩の飲み物の嗜好と好きなアイスの味は把握するように心得ています。「いつもアイスをくれる先輩」と言うのは、高コストのようで長い目で見れば良い投資である可能性もあります。

今回のブラックコーヒーの銘柄は「BLACK RX」でした。

28日目

「ジケルド」とは人気漫画「金色のガッシュ!!」に登場するガッシュ・ベル第三の術である。

「金色のガッシュ!」に登場するガッシュ・ベル第三の術。
二つの金属輪が組み合わさった形状の光球を吐き出す。
この光球が当たるか、また近くにいた魔物の身体を強力な磁石に変える効果を持ち金属が近くにあった場合非常に効果的な呪文となる。

一度磁石になると拘束力は非常に強いが、相手が変形したりゴムに変化すると効力を失う。
 ― 特撮・漫画作品設定@ ウィキ より ―

そしてこのジケルドの強化版とも言える術が「マーズ・ジケルドン
」。いやいやいや吸着事故起きてるやん!!

一方こちらが「1.0テスラ」のMRIの吸着事故です(※テスラは磁場の強さを表す単位)。少なくとも先のアニメで描写されているジケルドよりは強そうですね。

「マーズ」と言う言葉はラテン語のマールス、ローマ神話における軍神「マルス」を意味する言葉と推測されます。マルスは農耕が始まる季節3月(March)の語源であり、農業の神でもあります。このことから「マーズ」は「強い」と言う意味とともに「3」の数字を表す言葉とも言えます。

現在我が国には1.5テスラとともに3.0テスラのMRIが多く出回っておりますので、仮に「ジケルド < 1.0テスラMRI」の仮説が成り立つとすると、「マーズ・ジケルドン < 3.0テスラ MRI」が成立します。したがって世の中の放射線技師の多くがマーズ・ジケルドン以上の術使いだと言っても過言ではありません。今度からMRIのスキャンを開始する際には叫んでみましょう。「マーズ・ジケルドン!!」

29日目

ラジエーションハウスの五十嵐伊織を連想させるような画像スクロール速度と読影能力を持つ主人公....かと思いきや、寝落ちというオチ。ちなみに胸部~骨盤部の単純CTであれば画像の枚数は1mmスライス圧のデータで700~900枚、これが造影CTになればさらに2~3倍になります。その中に隠れた病変を見つけ出すのが放射線科医、画像診断医の仕事になります。

我々診療放射線技師は画像診断を行う者ではありませんが、医療チームの中で一番先に画像を見る人間であり、その中に緊急を要する所見があれば速やかに医師や他のチームメンバーに伝える責任があります。

救急におけるエコー検査で「FAST」という所見の拾い方がありますが、CT検査においても「FACT」というものがあります。診療放射線技師が全ての病気・画像所見に精通している必要はありませんが「見逃せないkiller-disease」に関する知識は、読影だけでなく「撮影の仕方そのもの」にも大きく関わってきますので、特に新人放射線技師さんは心得ておきましょう。下記に有用な記事も添付します。

『救急・時間外 CT の基本症例〜技師から医師へのアプローチ〜』|埼玉放射線・Vol.65 No.3 2017

30日目

シュワ~

胃のバリウム検診撮影も放射線技師の仕事の1つですが、私は宗教上の理由(嘘)からこの業務をしたくn…できませんので、多くは語れません。

胃と言うのは袋になっており伸び縮みする臓器ですので、そこに隠れた病気を見落とさないためには胃を十分に膨らませて重なりを少なくする必要があります。そのために発泡剤というものを飲むのですが、これが「ゲップを我ガマンしてください」の所以です。その後さらにバリウム(レントゲンに良く写る液体)を飲み胃の形などを撮影していくわけですが、なかなか患者さんも我々放射線技師もつらい仕事です(ちなみに胃のバリウム検査の詳細については56日目の際に解説予定です!)。

そもそも発泡剤。口に入れた時点で唾液に反応してシュワシュワしはじめますし、本当は大量の水で一気にゴクっと言って欲しいのですが、嚥下機能が低下した高齢者は少量ずつしか飲めませんし、ゆっくりしているとマンガのように「零れ発泡剤」をお見舞いされる(ようです)。全然関係ないですが「零れ発泡剤」の類義語に「零れ注腸」もあり、そちらは私も何度も経験しています。ワロス。


今回ご紹介した21~30日目では、主人公の「先輩らしさ」「後輩や周囲の技師や看護師との関わり」が多く描かれていましたね!我々放射線技師は一人で仕事をしているわけではないので、他の技師やスタッフと協調し、また次の世代を育てていくことも医療のサステナブルには必要なことです。今回はそれについて色々考えさせられた回でした。

次回は今後の作中で重要人物となる「あの人」の初登場、そして私の大のお気に入り回が登場します。お楽しみに!

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