放射線技師がレントゲンの撮り直しをするときの申し訳を解説する。

放射線技師の方も、そうでない方も、こんばんわ。山田です。

レントゲンってあるじゃないですか。あの検査を受ける際に、
技師:「今日は胸の写真を1枚撮りますね~。」
って言っておきながら、
技師:「(あっ..)すみません、もう1枚撮りますねー(汗」
って言う放射線技師に心当たりありませんか?
1枚って言ったのに2枚撮るなんて、けしからん。これだから放射線技師は。

これはいわゆる「再撮影」と呼ばれるもので、医師からの依頼を受けて画像検査を行う診療放射線技師が、
「医師の求める情報が得られない、適切な画像ではない」と判断して、より適切な写真を得るために追加・あるいは改めて撮影を行うことです。

もちろん教科書的な撮影の方法はありますが、人体の構造は千差万別で教科書通りに位置合わせをしても同じような画像になりません。
再撮影とは被ばくを伴う行為ですが、「医師の求める情報」が得られない画像のまま検査を終えては、それこそ無駄な被ばくになってしまうので、必要に応じてこれは正当化されるものと思われます。

再撮影に至る理由は技師起因、患者起因、その他の理由がありますが
どんな場合であれ、この際には患者さんへの真摯な説明が求められると思います。
もし技師の能力不足により適切な位置合わせが出来なかった場合、
「私の技術不足です。診断に必要な情報を得るには、もう一度適切な位置合わせで写真を撮り直す必要があります。」と、真摯に謝罪し、同意を得たうえで再検査を行う必要があります。

世の中の99%の放射線技師は真摯な対応をとっておられると存じますが、
以下に私がこれまで遭遇してきた「罪深い放射線技師の再撮影の申し訳」を供覧し、業界の自浄に寄与したいと思います。

1.「普通の人より肺が大きかったのではみ出てしまいました。大きいフィルムでもう一度撮影しますね。」

これは実際に起こりる患者起因の再撮影ですが、個人的には50%は虚言だと睨んでいます。

図1

胸部レントゲンの画像サイズには「大角」と「半切」と呼ばれる2種類の大きさがあります。日本人の体格であればほとんどの人が大角に収まることが多いですが、やせ形で身長が高い人や、体格ががっちりしている人などは大角で収まらず、半切(縦or横)が選択されます。昔は画像をフィルムに印刷して出力していましたので、使用するフィルムにより値段が異なっていました。

図2

しかしながら「普通の人より肺が大きかったのではみ出てしまいました。大きいフィルムでもう一度撮影しますね。」の文言を、(本当は大角でも収まる患者さんなのに)位置合わせの失敗の申し訳に使用している放射線技師が居ます。これはあたかも「自分に非は無いけれど、患者さんの肺が予想以上に大きかったからだ」ひいては「立派な肺をしてますね~」などとポジティブに話を進めるタイプの技師も存在すると言われています。

2.「息が吸いきれてないようなので、もう一度しっかり息を吸った状態で撮影します。」

理由は割愛しますが、胸のレントゲン写真は息をたくさん吸った状態で撮影します。当然、本当に息を吸いきれていない場合は病変の検出が困難になりますので、再撮影が必要です。
ちなみに2歳以下の小児の撮影においては呼吸の指示が通りませんので目視によるタイミングで撮影を行いますが、吸気かどうかの判別は「第8肋骨レベルまで横隔膜が下がっているかどうか」です。
「当院における小児単純X線撮影マニユアル : より良い画像を提供するために」日本放射線技術学会雑誌, 2003 年 59 巻 2 号 p. 268-276

しかし上記のように技師の位置合わせの失敗で再撮影が必要なのに、あたかも「患者がしっかり息を吸いきれなかったからだ」のように話を進める技師がいると聞きます。私が知る限り最悪の悪手です。

3.「息がしっかり止まっていなかったので、もう一度撮り直します。」

そもそも息がしっかり止まっていることを確認してからX線曝射スイッチを押すのが放射線技師の仕事です。

このフレーズは息を止める指示が通らない小児や高齢者の撮影において、目視によるタイミングでの撮影をした際に、本当は位置合わせが失敗したのにそれを隠すための申し訳として使用されます。

しかし胸部レントゲンであれば撮影時間(X線を出している時間)は10msec(0.01秒)程度なので、実際咳やくしゃみのスピードで横隔膜が動かない限り、呼吸停止不良の影響を確認することは困難です(目を凝らして見ればわかるとは思いますが、通常の呼吸性移動なら心臓の拍動の影響と同程度)。

4.「体がまっすぐ正面を向いていないので、撮り直します。」

胸部レントゲンにおいて、「正面性」というものは非常に重要になります。それゆえ、この理由で本当に再撮影が必要になる場合も多々あります。

特に病棟でのポータブル撮影においてこのフレーズが多用されますが、一定の割合で「技師の位置合わせの失敗」の申し訳に使用されていると睨んでいます。

5.「なぜかX線が出なかったので、もう一度撮影します。」

非常に切羽詰まった放射線技師の申し訳になります。ごくごく稀に、本当にX線が出ていない場合がありますが、その後でもう1度普通に撮れた、という場合は、確実に何かを隠蔽している見てもいいでしょう。

6.「写真の中に私(技師)の手が写り込んでしまいましたので、もう1回撮らせてください。」

これは某ゆるふわ放射線技師が病棟ポータブルで多用するフレーズと伺っております。入院患者の病棟撮影において、照射野の中に点滴の管や挿管チューブが写り込まないように放射線技師が手で避けながら撮影することがあります。

これを言われた場合は、何の疑いも持たずに、技師の言葉を信じて、再撮影にご理解ご協力お願いいたします。


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