見出し画像

【11-20日目】100ラジを100倍楽しむためのファンブック ~現役放射線技師が「100日後に吸着事故を起こす放射線技師」を解説する~

企画の主旨はこちら↓の「はじめに」をお読みください。

11日目

仕事中に眠くなってしまう、というのはどんな仕事にもあることと思います。レントゲンのやCTように1検査あたりの時間が短いものであれば常に身体を動かしているので眠くなりにくいですが、MRI検査や核医学検査(30~60分)、比較的落ち着いた症例の血管撮影検査(60~120分)となるとその限りではありません。
「テメェ何仕事中に寝てんだオラぁ!」の起こし方が適切かどうかは置いておいて、同僚・後輩が仕事中に寝ていたら(休憩時間中でないなら)どんな場面であれ速やかに起こしてあげましょう。上司が寝ていた場合は乱暴に起こすのは失礼にあたりますので、スマホで動画を撮影し所属長などに報告するなど、事を荒立てないことがマナーです。

ちなみに「夢の中で居眠りをして怒られる」という場合、睡眠不足であったり、過労気味であったりして、精神的あるいは肉体的に疲労が蓄積していることを暗示しているそうです。ブラックな職場でこの主人公は相当お疲れが溜まっている模様。幻の「れんとげん」の「れん」のぬいぐるみと寝ているなんて可愛い私生活をしてらっしゃいます。全然関係ないですけどこーいうナイトキャップ?を付けて寝ている人ってこの世にどれくらい居るんでしょうね?


12日目

私たちの生活にも「AI(関連)技術」というものが身近になってきつつあります。我が家もアレクサに声をかけるだけで色々な家電が動くように設定しており大助かりです。さて、医療業界にもAI技術が参入し「AIに仕事を奪われる」「放射線科はAI画像診断に置き換わる」などと言われがちです。

CT検査で得られる画像というのは一般的に”輪切りの画像”のみであり、かつでは分厚い輪切り画像しか取得できず、それだけで画像診断を行っていました。しかしCT装置の進歩によりより薄いスライスの輪切り画像が取得できるようになったため「薄い輪切りを積み重ねて、”前から見た輪切り”みたいなのも作れるんじゃね?」というのがここで言われている「MPR(multi planar reconstruction:多断面再構成)」と言うものです。

ここで紹介されているように、現在では輪切りの画像のみで病態を評価することは珍しく、色んな方向から見た輪切り画像血管のみを抽出して三次元的に色んな方向から観察することで診断の質を高めています。そして多くの場合、単なる輪切りの画像からその加工画像を作り直しているのは診療放射線技師です(読影ソフトによっては医師が自分で作ることも可)。なので主人公は「あー、こんな画像処理もアレクサ(AI)が自動でやってくれたらな~」という願望を漏らし、先輩に「手動かせ」と怒られている場面が描かれています。

実際AI関連技術が医療、画像診断の場に参入する未来はやってくると思われますが、少なくとも現時点ではまだ放射線技師の仕事は減るような状態にはなっていません。それに関しては私の記事で詳しく解説しています。

13日目

個人的にとても好きな回です。

“オレらが新人の頃はフィルムで撮影しててな。再撮(影)しようものなら上司に殴られてたんだ。今は簡単に撮り直せて本当に(略)そもそも今の若い奴はたるんでるんだ。苦労も全然しないまったくどうなっちまったんだ今の医療業界は。昔は良かった・・・"
              ― 説教オジサン ―

レントゲンも昔は、かつてのフィルム写真と同じように人体を通過した後に”X線フィルム”に向けてX線を照射して撮影し、現像機で処理することで画像を得ていました(とは言え、今の若い人はそもそも「かつてのフィルム写真」が伝わるのかどうか)。なので患者さんを撮影してからちゃんと画像が撮れているかどうか判明するまで、現像が終わる数十分の時間がかかっていました。それまで患者さんを待たせるわけにもいかないので、万が一上手く撮れていない場合には患者さんを外来や会計から呼び戻して謝罪して撮り直す、なんてことがあったそうです。またフィルム自体も安いものではなく、失敗した分は病院の負担になってしまうので、それこそ上司に殴られるというのも時代背景を考えればまんざら嘘でもないのかもしれません。このことから、我々の業界には「一撮入魂」という言葉が残されています。

それが1983年に国内発初導入されたイメージングプレートというものの登場により、撮影用の板に照射されたX線を一時的に保有し(蛍光励起)、それを専用の読み取り機でスキャンすると画像がデジタルデータで取得できるようになりました。一般の感覚としては「チェキ」をイメージしてもらえればいいと思います。読み取り機がそばにある撮影室では撮影から1~2分で画像が確認できるようになり、不適切な画像であれば改めて撮影し直す(再撮影)ことが比較的容易になりました。

また近年ではワイヤレスフラットパネルディテクタという、画像取得~読み取り(生成)までを電子的に一連で行える検出器が登場(2008年!つい最近!)したことにより、読み取り機がそばに無い病棟ポータブル撮影においても、携行したノートパソコン上で画像がその場で確認できるようになりました。一般の感覚ではこれでようやく「デジカメ」になりました。放射線技師の世界では革命的な出来事だと思っています。

というわけで、この説教オジサンのように「昔は大変だったんだぞ。今のヤツらは楽をしている」という主張をする放射線技師、結構多いです。放射線技師用語では「フィルムマウントおじさん」と呼びますが、これは放射線技師の業界だけではなく、日進月歩で発展目覚ましい医療業界コメディカル界隈では良く見られる光景なのではないでしょうか。ただ、酒の席ではなくシラフでこーいう話をクドクドしてくる上司には正直引きます。そして本当に尊敬できる上司は、過去の栄光ではなく今現在の本人の有能さで物を語りますので、これ系の説教オジサンは総じてク〇だと言っていいでしょう

14日目・15日目

ここはセットで行きましょう。
放射線技術学の発展は機関の研究者だけでなく、現場の放射線技師の努力によっても発展してきました。放射線を人体に当てて実験することはできませんが、ファントムと呼ばれる人体を模擬した人形を色々と条件を変えて撮影したり、MRIに関しては放射線を使用しないので実際に人体を撮影して検討することも許容されています。

「撮り方にも上手い下手とかあるんですか?」などと一般の方は思われるかもしれません。画像検査では「患者を正しい位置・角度に合わせる」という要素の他にも、X線の量、質(エネルギー)、画像処理の方法、MRIであれば様々なパラメータなどの要因が画像の出来に関わってきます。もちろんメーカー推奨のプリセットや、学会等が提示する条件なども存在しますが、ちょっとした工夫で画像が大いに見違えて良くなるということも珍しくありません。そして技師の検討による成果がメーカーの提供するプリセット、機能に反映される、ということも実際あります。

放射線技師の中には、日中の業務を終えた後にもそういった「より良い画像を提供するための研究」に励む方が大勢います。これは最終的に患者さんの利益につながりますので、おおいに結構なことです。しかし当然ですが「業務命令で行われたものではない研究は自己研鑽扱い」なので、残業代の申請などは不可能です。これに関しては他コメディカルの方々もわかっていただけると思います。ただし「上司の明確な(業務)命令に従う研究」は業務とみなされますので、万が一こういった場面に遭遇した場合は指示の記録を文字で起こしておくと良いでしょう。

16日目

医療業界と言うのは変わったもので、お客さん(患者)が来ないと経営は苦しくなりますが、「そんなに多くは患者さんに来てほしくない。なんなら皆が健康になった方が世界は幸せ」という何とも矛盾した倫理観を持つ業種になります。ただ少なくとも、がんや慢性疾患など「これまでは助からなかったものが、医療の恩恵で助かる」と言うためにはどんどん患者さんが来ていただいた方がwin-winですが、夜間の交通事故などはそもそも発生しない方が皆幸せなので、多くの人は夜勤の時は町の平和を祈っていると思います。でもこういう時に限ってオンコール呼ばれがちなんですけどね。

ちなみに放射線技師の夜間の勤務体系については私の過去記事で解説していますのでご興味のある方はどうぞ。

17日目

放射線技師の男女比は男性7:女性3となっており、圧倒的に男性の多い職場です。ただし現在では女性放射線技師の需要が大きく高まっており、実際に学生実習を受け持っている立場としてその割合を見てみると半々、とまではいかないですが女性技師は確実に増えてきています。
しかしそれは本当に近年の話であり、現在30代後半~それ以上である世代においては女性の放射線技師は非常に珍しい存在であったといえるでしょう。

この作品の主人公は後輩との接し方を見るに、20代後半~30代前半と予想しています。つまりここで話題の女性の「先輩」はそれ以上の年齢であり、ゴリゴリの男社会で生き抜いてきた強い女性であると言えます。実際、放射線技師の業界ではゆるふわな系統の放射線技師は非常に珍しく、技師歴を重ねる頃にサイヤ人のように強い女性に進化していくようです。口ごたえなどしようものなら秒で潰されます。主人公が一瞬、「自分も当たり強くいけばバランス取れるかどうか」を想像し、次の瞬間には涙を流しているのはそういう意味です。

余談ですがウィキペディアによると、アメリカの放射線技師は7割が女性、ドイツに至っては9割が女性技師だそうです。へー!なんでも欧米に倣えばいいものでもありませんが、今後も半々くらいの割合に向けて女性技師の需要は高まっていくことでしょう。

18日目

診療放射線技師は職務上、画像を参照して「診断」を行うことは出来ません。しかし画像診断を専門に行う放射線科医が常駐しない施設や、夜間救急で非専門の診療科の医師が当直である場合など、放射線技師の知見が役立つ場面というのも少なくありません。特にその検査で疑っていない所見がたまたま映り込んだ(腹部のCTで肺がんが見つかるなど)場合などは、放射線技師の気づきが患者を救う(とまで言うのは大げさですが)こともあります。このマンガの例では「そっちも」と言っているので、依頼医が疑っている患側とは反対の部位にも所見が見られるということです。

脳挫傷は力が加わった部分の全く反対側(例えば前頭部をぶつけた場合には後頭部)に生じることもあります。これをコントラクー外傷といい、ぶつけた直下の外傷をクー外傷といいます。

「折れてね?」とはちょっと話がずれますが、コントラ・クーについて触れてみました。

19日目

理学療法士のことをPhysical Therapist:PTを略します。ちなみに作業療法士さんはOccupational Therapist:OTです。違いについて触れるとボロが出そうなのでリンクを貼って言及を避けます。

完全に私のイメージなのですが、PTさんには「体育会系の兄ちゃん」が多く、OTさんには「愛嬌がメッチャ良い女性」が多い気がします(偏見)。体育会系の兄ちゃんなので、自ずと整髪料テカテカでビシッと決めている人が多いように感じます。ちなみに放射線技師においては男性はチー牛顔の陰キャが多いですね。これに関しては間違いないです。

最後のコマの、主人公のおでこに「ド」の文字が入るの、ジョジョの奇妙な冒険っぽさがあって非常に好きな回です。

20日目

いや上司のアゴ長げぇよ!!

看護師の世界ではプリセプター制度(教育係)が確立されていますが、放射線技師の世界では教育係のシステムってどうなんでしょうか。私は比較的技師人数が多い職場で働いでいて、担当するモダリティ(CT、とかMRI、とか)が長い期間で固定されがちなので、短い期間ででいろんな部署を回って仕事を覚えることを優先する新人の「教育担当」みたいな仕組みは無いですが、比較的規模が小さめの施設では多いのかもしれません。個人的には担当者の「アタリ」「はずれ」が怖いですが、上司が教育係の適性を見極められれば非常に良い制度であり、放射線技師の業界にもあっていいものと思います。

マンガの話から逸れますが、今現在私はたぶんこの主人公と同じくらいの世代だと思っているのですが、当時自分が新人だった頃に今の自分の年齢の技師さんって、とても怖い存在でした。いつまでも自分が若い気分のノリで変に新人にラフすぎる言葉を使ったりすると、かえって困惑させてしまうのではないかと思ったり、こと教育という面では悩みが多い立場になってきています。


今回ご紹介した11~20日目では、私の推しであるジト目先輩♀が登場しました。作者さんが書く女性のイラスト、こんなタッチの少ない画風でも非常に魅力的なんですよね。ちなみの私のtwitterのアイコンもこの作者さんに依頼して描いてもらったもので、女性の表情がとても気に入っています。

私の解説記事は次回までは少し期間が空く(たぶん)ことになりますが、本家は毎日更新です。明日も楽しみに、応援しましょう!

============================

============================

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?