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【61-70日目】100ラジを100倍楽しむためのファンブック ~現役放射線技師が「100日後に吸着事故を起こす放射線技師」を解説する~

企画の主旨はこちら↓の「はじめに」をお読みください。

61日目

レントゲン室、冬の風物詩です。「玉ねぎ」あるいは「十二ひとえ」と呼ばれます。しかもこれ、同じ枚数だけまた着せないといけないんですよね。

レントゲンというのは各種画像検査のなかで最も分解能が高い(=細かいものが観察できる)検査であり、また断層像(輪切り)ではなく投影像なので衣類のボタンや金属の重なりが映り込むと診断に影響が出てしまうのは皆様もご承知のうえかと思います。原則「ボタンや金属の無い肌着1枚」になってもらう必要があります。別に2枚じゃダメなのかと言うとそういうわけではないのですが、複数枚になると衣類の間に「隙間・シワ」が出来やすくなり、衣類と空気の層が画像として観察されることがあります。

よく外来診察などは「待ち時間1時間、診察5分」などと言われますが、私たちの立場では「着替え時間5分、撮影1分」という側面もあります。これを打破する手段として、北風と太陽の作戦で「待合コーナーをめちゃくちゃ暑くしておく」というものがありますが、なかなか採用してもらえません。あとこういうとき、往々にして自分では全く着替える気が無く幼児レベルの完全お任せ、かつ付き添いの家族も「じゃ、ヨロシク!」って感じで撮影室から秒で居なくなってしまうことも多々あるので、他の患者さんの待ち時間軽減のためにもぜひご協力願いたいものです。

62日目

54日目に子供の扱いが上手くいっていないのに「任せてくれ」と言うのが逞しいです。あるいはその後、ぐぐって調べたのでしょうか。そういう意味では失敗を糧にして成長する向上心の高い放射線技師であると言えます。

小さい子に限らずですが、椅子に座っている患者さんに対して、ある程度長い時間お話をする際には、こちらもしゃがんで目線を合わせて語りかけると威圧感が生まれにくいとされてます。ただ1歳児であれば知らないオジサンの顔が急に近づいてきた方がかえって逆効果な気がしますが。「病院=なんか怖い」というイメージが生じる3歳児以降くらいなら有用かと思います。

余談ですが、皆様は子供(小学生くらいまでを想定)の患者に指示する際に、どのような言葉遣いをされるでしょうか?

たまたま見つけた記事ですが、私も話が通じる子供の患者を相手にする際には敬語(というか丁寧語)を使用する派です。(大人でも1人でまともに検査を受けられない人間もいるのに)1人で検査を完遂できる、大人と変わらない立派な人間である、という敬意を込めてそうしています。学校の先生や保育士、病棟看護師でお互いの人間関係・信頼関係がある程度構築されている場合はこの限りではないと思いますが、個人的経験においては「馴れ馴れしい言葉遣いのおかげで上手くいった」経験も「丁寧語を使用して不都合があった」経験もありません。

同様の理由で、高齢者患者に「〇〇さん~!!もうちょっと頑張ってー!△△してねー!!」みたいな言葉遣いも(先と同様に関係が出来ていれば別だが)嫌いで、これに関しては後輩が言っていたら注意してしまいます。まぁ宗教みたいなものですが。

さらに余談ですが「子どもの撮影の時に、親御さんを廊下で待たせるか、操作室側に入れて窓から見せるか、あるいはプロテクター着せて手伝ってもらうか問題」というのも(もちろんケースに依るのですが)施設のルールと言うか宗教染みたものもありますね。個人的には「患者家族に見せられないような撮影はするな」派なのですが、実はこれは今の施設と文化が合わなくて困っていたりします。

63日目

鬼滅の刃の鬼は陽光に当たると〇んでしまいますが、放射線技師も同じような生き物です。医療職種であれば皆夜勤・当直明けはつらいものですが、特に放射線技師が働く職場というのは「暗い」「窓が無い」「地下」といったケースが多いです。検査の画像を見る際に、周辺環境があまりに明るすぎると画像が見にくいという理由と、放射線を使用する部屋はその放射線が外部に漏洩しないよう、コンクリート壁や鉄のドアで囲まれた構造にされることが要件として求められるという理由があります。

秋を過ぎたあたりからは、まだ太陽が昇りきる前に出勤し、日中は日光を浴びず、帰るころには日が暮れる、ということもザラです。ビタミンDの摂取と、人工太陽みたいな設備が求めれらます。

64日目

シーシャ(水たばこ)とは、水パイプという喫煙具を使用する喫煙方法です。火皿で燃えたたばこの煙を水にくぐらせ、ろ過された煙を喫煙します。煙が水を通ることで冷やされ、やわらかい味わいになると言われています。シーシャは煙草の葉にフルーツやスパイスなど様々なフレーバーの味付けをしてあり、いわゆる「煙ったさ」が少ないため、非喫煙者や女性のファンが多いのもそれが大きな理由の一つとなっているそうです

なんでもインスタでも「#シーシャ女子」なるワードが産まれるほど流行っているそうです。何でしょうこの何とも言えない感(語彙力)。基本的に喫煙というのはコソコソ隠れて行うイメージがあるので、喫煙の姿をSNSにアップするというのが個人の感覚的に合致しないのですが、それは私の年齢によるものでしょうか。ちなみに喫煙自体は特にこれと言った信条もありません。用法・容量を守って節度をもってお楽しみください。

65日目

これもマーフィーの法則的なもので、「夜勤時に夕食を食べ始めると忙しくなる」の最上位版「夜勤時に麺類を食べ始めると忙しくなる」のやつです。リプや引リツでも全医療従事者が納得されていました。主人公は「ちくしょう!」と叫びながら猛スピードで食べ続けていますが、これは何とかお湯を入れて3分以上経過しているからこそできる業で、実際は「お湯を入れた直後に電話が鳴る」というパターンも多いです。その場合は仕事を終えて帰ってきてから、水を吸ってフニャフニャになった異物を喉に流し込むハメになります。

そのため前の職場では、休日や夜間の勤務の際に複数人で居る場合には「一番若手は麺類を食べてはいけない」という暗黙のルールがありました。人権問題に発展させるほど騒ぐ必要も無いでしょうが、医療従事者にもゆっくり食事を摂る時間を与えていただきたいものです。

余談ですが「患者さんそっちに向かわせてます」は一見シームレスで迅速な行動にも思えますが、これは悪手です。食事中ならば切り上げてすぐ対応に向かえますが、これが当直の放射線技師が他の撮影(病棟ポータブルとか)の最中であったり、あるいはCT室で別の患者さんを既に撮影中、撮影するために準備をして空けて待っている等が可能性として考えられます。撮影の連絡は時間的に余裕をもって、〇〇分後にと明確に、お互いにコミュニケーションをとって行いたいものです。

66日目

これは49日目のネタが伏線になっていたものを回収する作品です。

「わーい!自分のネタが作品に採用されたぞー!」って喜んでいましたが

一応、ネタとしてはその前から想定されていた模様です。というか結構みんなやっているので(よくない)あるあるネタなんでしょう。あくまでも予想ですが、49日目のときに「バリ3共和国」が読者にあんまり触れてもらえなかったのでリベンジしたかったのではないかと邪推します。いい曲ですよ!!

67日目

いや座れよ!(参考:46日目)と過去の自分から突っ込みが入りそうですが(クソリプ)。しかし放射線技師の業務は実際に患者さんを相手にするもので、なかなかテレワークの実現は難しいですよねー。。。

ありました。

実際には完全にリモートの患者対応のみにするわけではありませんが、現場には実際に患者さんを寝台に乗せ機器のセットアップ作業のみを専任し、コンソール(撮影操作PC)の操作は熟練した放射線技師がリモートで行う。これを導入している施設はまだ見たことがありませんが、例えば夜間のMRI検査などでも現場の人間は安全に入室の対応だけできれば、最悪の場合難しい撮影はMRI専任者にヘルプを貰うなど、セキュリティの問題はありますが結構需要はあると思います

これとは話が変わりますが、例えば3D画像再構成や放射線管理、検像(画像とオーダーの最終確認)業務も専任者であればリモートワークも可能かもしれません。女性技師の増加に伴う産後育休技師の活用や働き方改革の流れで、そういったものも増えていくのも良い事でしょう。私は育休中に無給でマニュアルとか作らされてましたが

「AIが仕事を奪う、AIに負けない人材育成」ではありませんが、こういった技術が普及すると「現場には低コストで雇える新人や大学院生アルバイト、高度な業務はごく一部の熟練した技師へ」の流れが加速し、いい歳して能力のない技師が淘汰される時代は本当にやってくるのかもしれません。おおいに結構b!

68日目

あるある過ぎます。そして本当は「上半身裸の上に検査着」あるいは「肌着1枚の上に検査着」の状態になって欲しいのに、なぜか「来院した着替え前のそのままの状態(ボタンや金具多数)に検査後を羽織った状態」で居るとかもあるあるです。4コマ目の背景にも書いていますが、10分あれば着替えがスムーズに済む患者さんであれば2~3人の胸部レントゲンは撮影可能です。

61日目でも話しましたが、胸部レントゲンなどは本当に「着替え時間5分、撮影時間1分」なのです。「着替え終わったけど、呼ばれるまで待ってました」って、ちょっと冷静に考えれば「更衣室の外側から着替えが終わったかどうかなんてわかるわけない(わかったらヤバイ)」わけで、じゃあ〇分あれば全員着替え終わるかなんて決められるものでもありません。技師の説明が言葉足らず、あるいは相手の理解を十分確認しながら説明をすることを怠っている場合も当然あるのですが、あるある事例過ぎるので何かブレイクスルーとなる解決策があれば教えて下さい。

69日目

技師タームの解説になりますが、「脂肪抑制」というのはMRI画像の撮像テクニックの1つです。非技師の方に向けて極力平易な言葉で説明しますと、ある撮影においては病気(水分を多く含む)と脂肪組織がどちらも白く写ることがあります。その白く写ったものが病変なのか、それとも脂肪なのか(脂肪を多く含む病変、というのもありますが)を判別するために、造影剤などの薬剤を使用することなく撮像時のパラメータを工夫することで脂肪成分の色の付き方を変えることが出来ます。

このように一見白く写るため「悪い病気なのではないか?」と思うような画像が出た場合でも、適切なパラメータ設定の画像を追加撮像することで脂肪腫(良性腫瘍)であることが画像のみでほぼ確定できます

MRIとは「輪切り画像」を作る検査ですが、この輪切りの方向もスキャン時に設定して任意の断面を撮像することができます(逆を言えばCT画像のように、”薄い輪切り”を積み重ねて”前から見た輪切り”を作り直すことは、できないわけではありませんが画像の色(コントラスト)が大きく異なるものになりがちです)。従って、撮影時間を不用意に延ばさないためには「診断に必要な最低限の方向のみ限定して撮影する」ことが患者さんにやさしい検査となります。

依頼医のコメントには明確に「脂肪抑制の画像もスキャンして」とあるのですが、どの断面(体軸輪切り、矢状面、冠状面)かの指定がありません。3つ撮る場合、1つの断面を撮影するに比して3倍時間がかかるとすると、MRI自体そこそこ時間がかかる検査でもありますので患者さんには優しくありません。しかし依頼医師に電話で確認してもすぐにつながるとか限りませんし、その時間があれば撮り終わってしまう可能性もあります(電話の時間待たせた挙句、結局3方向必要と言われると大きな損失)MRI検査はCT検査と違い、放射線被ばくはありませんので、こういった対応も患者さんの不利益を最小化する手段としては?あるのでしょうか?(私は普段MRIやらないのですみません)

70日目

軽く事故りかけた回です。

そもそも「作品」というのは読者・受け手の数だけ解釈が存在するわけで、誰かがその解釈を一方的に押し付けるのは良くないですが、それではこの企画自体がそもそも台無しになってしまうので続けます。純粋な読み取りとしては「手術室の看護師さん(キャップ・マスク着用)がとても美人に見える。でも不意にマスクを外したら、想像とは異なる外見であった」となるでしょう。

ここにもっと事故りそうな研究結果が存在します。内容はリンク先を参照していただくとして、まずこういった心理を抱くことは(それを表明するかどうかは別として)「心理学的に誰でも抱きうる、極々普遍的なこと」であることが科学的に裏付けされます。コロナ禍により「マスク美人」というワードは一般の方にも多く届くことになりましたが、これはコロナ禍前から医療業界、特にマスク・キャップ装着が常時である手術室(病棟看護師よりもさらに顔が隠れがち)やあるいは歯科業界ではずっと前から存在したあるあるネタであるのです。

しかし「いくらあるあるだからといって、ルッキズムを肯定するのは如何なものか」という意見もあるでしょう。大多数の意見が常に正義であるとは限りません。

皆さん、この回を覚えているでしょうか?この時に主人公は「普段やらないような、見えないところも掃除しよう」としたが故に装置を破損し、診療に影響を与え始末書を書いていました。「言わんでいい。見ない方が幸せなこともある」という主人公のセリフは、単に容姿うんぬんの話ではなく、こういったトラウマがあるゆえについ口に出てしまったのではないでしょうか。

そしてこの「見ない方が幸せなこともある」という言葉。実は私たち放射線技師は時々ですが、これを強く思ってしまうことがあります。

私は現在、PETという画像検査に多く携わっています。これは全身の悪性疾患を一度に検索できる検査であり、その対象は高齢者から乳幼児にまで多岐に渡ります。上記リンクは「小児悪性リンパ腫」の画像提示ですが、非医療従事者の方でも「なんかメチャクチャ悪そうだな」という印象は持っていただけるかと思います。

私たち診療放射線技師は画像を用いて病気を発見し、治療につなげるための手助けをする職業ですが、それは同時に「知りたくもなかったつらい現実の証拠写真を残酷にも突き付ける」ことになります。そしてその汚れ役は自分が担わず、説明する医師に丸投げして「結果は先生の方から説明がありますので~」と口を濁すのです。職責を考えれば至極正しい対応ですし、適切な診断が無ければ治療は行えませんので、これは患者さんのためにも有益な検査ですが、私自身も子を持つ親として、わが子と幾ばくも変わらない年齢の子供が、今後どんな困難が待っているんだろうかと想像をするだけで「こんなこと、本当は知らない方が幸せだったんじゃないか」と思ってしまいます。

話は逸れますが、福島第一原発事故以降、県内の子供を対象に甲状腺疾患の大規模スクリーニングを行った結果、多くの甲状腺疾患が発見された、というような結果もあります。

一般の方にはなかなか理解されない感覚かも知れませんが「発見しても、治療の必要のない疾患」というものは存在します。報告によると、福島では「原発事故の影響により子供の甲状腺疾患が増えた」のではなく「普通はやらないような大規模スクリーニング検査により、従来は見つかることのなかった疾患が全部見つけられてしまっただけ」ということが結論づけられています。その子供たちは、「その後も別に生活に健康を与えることは無いかもしれない病気(もちろん、影響が出るように進行する可能性もあります)に一生怯えながら、本来受けなくてよかった検査・医療を受け続ける」ことになります。

今ネットでは「尿1滴でがんを見つける検査」が話題です。仮に「身体の中にがん細胞が1個でもあれば確実にお知らせしてくれる超高精度な尿検査」が誕生したとしましょう。しかしその検査以外では、各種画像検査や血液検査を行っても発見することはできないレベルの「細胞1個」だとすれば、治療法はありません。当然今現在症状もなく、もしかしたらその細胞は自然消滅する可能性もあります(多くのがんもそのように考えられています)。肉眼で見えなければ手術で取り除くこともできません。

その尿検査により「いまあなたの体内に、間違いなくがん細胞があります」と突き付けられた患者さんは、はたして幸せなのでしょうか?それこそ「見ない方が幸せなこともある」ではないでしょうか。

今作品では新人放射線技師である後輩が不用意にルッキズム発言をしており、これは多方面に対する配慮に欠けた若さゆえの過ちでしょう。しかし我々診療放射線技師は、高度な倫理観と使命を持ちながら、時には残酷で納得できない現実にも向き合っていかなければなりません。主人公は、この先新人に待ち受けているであろう技師としての辛い困難を案じて、この言葉を投げかけているのです。


いかがだったでしょうか。この作品は単に放射線技師あるあるを面白可笑しく描くのみならず、こうした診療放射線技師の心の葛藤、与えられた使命を伝える作品になっています。吸着事故発生まで残された時間はそう多くはありません。この先の展開にもぜひ注目していきたいです。

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<次記事リンク予定地>

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