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【81-90日目】100ラジを100倍楽しむためのファンブック ~現役放射線技師が「100日後に吸着事故を起こす放射線技師」を解説する~

企画の主旨はこちら↓の「はじめに」をお読みください。

81日目

ネタが多いので先に回収しましょうか。

まず1コマ目で主人公が読んでいる雑誌「INRAN VISON」は放射線技師御用達の業界雑誌「INNERVISION(インナービジョン)」のパロディでしょう。

2コマ目で読んでいる「Mad Fan」はこれまた放射線科やカテーテル検査を行う診療科向けの業界雑誌「Rad Fan」のパロディです。

そしてバックで流れる曲「バニラの求人」の元ネタはこちら。

女性向けの夜のお仕事中心の求人サイト「バニラ」が市街を宣伝カーで爆音で流すこの曲。ついつい口ずさんでしまう中毒性がありますよね。実は三大都市圏以外では全国の県庁所在地レベルの都市でないとお目にかかれないものらしく、知名度には地域性がある模様です。

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ちなみにAmazon Musicでプレイリスト「職探し」を検索した結果がこちら。バニラは登場しませんでした。

ちなみに「メンズバニラ」の広告もあるようです。

放射線技師のキャリアアップについてですが、私たちは国家資格職ですので基本的に技師免許を取ってしまえば更新もありませんし食いっぱぐれることは(今現在は)ありません。しかしその反面、依然として「新卒至上主義」の文化が根強く残り、例えば転職を考えた際には会社員のように「実績」というものの証明が難しく、中途採用は厳しい傾向にあります。

医師であれば医師免許を取得した後も「専門医」「指導医」というキャリアがあり、それを有していないと行えない医療行為(施設認定)が存在します。診療放射線技師にも各種学会が認定する「専門技師」「認定技師」の制度がありますが、現時点ではこれらの資格は「一定のスキルを有することの証明」に過ぎず、施設認定の要件や診療報酬に関わってくることはありませんが、転職の際にはある程度有効な気がします。またこれらの認定資格を取得したことにより待遇にプラス査定が入る施設は比較的珍しい印象です。言葉を悪くすれば「自己満足」に過ぎません。

放射線技師に関わる認定資格は上記のようなものがあります。このように医療施設の検査水準の広告に使用されるのであれば、ぜひとも個人の給与に反映していただきたいものです。

実際はこんな感じですね。放射線技師に限らず、コメディカルの認定資格ってだいたいこんなもんです。それでも我々は患者さんによりよい診療を提供するために、身銭を切って資格を取るのです。

82日目

これは80日目で立ち聞きしてしまった、後輩の「そろそろ辞めようと思ってて(アイドルの追っかけを)」という話を誤解してしまって、思わずウルっとしてしまう主人公のお話です。

放射線技師の仕事の中でも、一般撮影(レントゲン)を習った/教えた関係って、特別な師弟関係のような感情が強く芽生えると思いませんか?数ある業務の中でも「手取り足取り」感が最も強いので、私もレントゲンを直接教えた後輩には特別な感情を抱いています。全員辞めてしまいましたが。

ワナワナ…「ナナランド」というアイドルグループだそうです。峰島こまきちゃん可愛すぎませんか!?

83日目

MRI検査において金属の持ち込みが危険であることはシリーズを通して口酸っぱく言ってきたことですが、かつら(ウィッグ)となると、なかなか患者さんに指摘しずらいものです。髪が薄いことを恥ずかしいから隠すという意味だけでなく、抗がん剤治療の副作用で毛髪が抜ける方も居ますので、かなりセンシティブなものになります。

ところで皆さん、「かつら(ウィッグ)」の仕組みって詳しくご存じですか?

自分の毛髪が残っている場合は、留め具(固定ピン)で自毛に固定するタイプが多いようです。この時に使用される固定ピンが金属である場合、MRIでは吸着事故の危険があります。またMRIだけでなく、頭部のCT検査においても金属を付けたまま撮像するとアーチファクト(偽像)が発生し診断に影響を与えます。

一方、最近では固定ピンがプラスチック製であるものや、あるいは自毛がない場合はメッシュキャップと滑り止めテープとの摩擦のみで固定するものもあり、この場合は必ずしも外す必要は無いとも言えます。CT検査であれば最初に撮影する位置決め画像で金属が写っていれば、その時に外してそのまま本スキャンという対応も患者の羞恥心に配慮するという点ではアリでしょう。ただしMRI検査に関しては、事故が生命に直結しますので、絶対に安全と確認できない限りは外して入室することが望ましいでしょう。

またこのネタに関連して、「増毛パウダー(ふりかけ)」についても言及しておく必要があります。

増毛パウダーに限らず、アートメイク等には金属塗料が含有されていることがあり、MRI検査時には注意が必要です。メーカー回答では成分である「酸化鉄」は磁性を失っており、MRIガントリ内部で「パウダーが舞い上がる」というようなことは考えられないとされています。ただしどんな成分も「純度100%」となるような工業製品はほぼ存在しませんし、吸着事故の危険が無くても発熱のリスク(電子レンジにアルミホイルを入れるとスパークする現象と同じ)は考えられます。また全くの非磁性体であっても、頭部からパウダーが落ち、装置の隙間に入り込むと故障の原因となります。

特にこれらの製品は、本人は「〇〇オンヘアー」を使用しているつもりでも、それは一般名の意味で総称されているだけで、実際は海外からの輸入品で違う製品を使用しているケースもあります(逆のケースで、こちらが「ヒー〇テックを着ていませんか?」と聞いて「ヒート〇ックは着ていない(が、他メーカーの類似品を着ている)」という場合も多いです)。MRIオペレーターの間では十分周知されている事案ではありますが、見た目だけではなかなか判断しにくいものですので、是非とも非技師・患者さん側も理解が深まることを願います。

84日目

SNSの文化がmixi→twitter→Instagram→TikTokと変遷してきたように、情報収集源は文字→画像→動画という流れが出来つつあります。動画は目と耳の両方から受け取りますのでより記憶に残りやすく、また何かの片手間に聞くこともできるというメリットもあります。技師教育のマニュアルなども、画像多めの紙マニュアルよりも実際の操作の動画の方が適しているものもあるでしょう。

ここで特別に、私が普段お世話になっている放射線技師業界のyoutuberたちを晒し...ご紹介していきます!動画が気に入ったら高評価・チャンネル登録をぜひお願いします!!

85日目

ただただ可愛い。ただただ可愛い。

全然関係ないですが、ここで主人公のこれまで登場した「プロテクターの色」をまとめてみました。

・黄色(4日目10日目21日目58日目62日目77日目
・水色(52日目
・緑(70日目76日目
・ピンク(85日目

特に意味はありません。さらに全然関係ないですが、下記の記事を見てください。裸エプロンならぬ「裸プロテクター」みたいで面白いです。

86日目

主人公のウザ回です。飲み会で「古今東西ゲーム」とか昭和っぽいですね。真ん中の後輩は結局アイドルの追っかけを卒業できずに遠征費に充てる予定のようでおおいに結構。応援します。

奨学金って結構借りてる人多いんですね、っていうのも私自身は親のスネをかじっていたのであまり理解が少ないのですが、結構長い時間返済しなければならないもののようです。

放射線技師養成校の学費についてですが、国立大学の4年制学校であれば、通常の学部と変わりありません

上記例で言うと、入学金282,000円+(授業料535,800×4年)=2,425,200円が学費総計になります。これに加えて仕送りの平均額が82,400円/月という調査(首都圏の場合)がありますので、3,955,200円、学費と併せて638万円くらいかかるようです。もちろん、学校が首都圏か地方かでも変わるでしょうし本人がアルバイトをすれば仕送りの額は変動するでしょう。

一方、放射線技師養成校には私立大学も存在します。

記載の情報では1,820,000円(初年度)+1,600,000(2年目以降)×3=6,620,000円が学費総計になるようです。これに仕送りを足すと1000万円コースですね。いやはや、国立・私立の如何、放射線技師に限らずですが奨学金を借りる人が多いのも頷けます。自分で稼ぎ始めて親の立場になって初めて実感することですが、親ってすごかったんだなって思いましたまる。

87日目

どう見ても空条徐倫(ジョジョの奇妙な冒険)です。頭についてるボンボンに書いてある「ストーンフリー」は主人公空条徐倫のスタンドです。

"線が集まって固まれば、『立体』になるッ!この概念!"
 ージョジョの奇妙な冒険 第6部「ストーンオーシャン」よりー

思えばX線CTも信号は1本のX-rayの集合体。それを集めて繋げて2次元画像にし、再構成して3次元画像にもなる。放射線技師も謂わば空条徐倫なのです。

言い方が悪くなってしまいますが「患者さんの言うことはあまり信用しない」と言うのも医療安全の観点で時には非常に重要です。絶食が必要な検査で「朝ごはんは食べてませんか?」と聞くと、

・「朝ごはんは食べてません(ご飯は食べてないけどパン食べた)」
・「朝ごはんは食べてません(ご飯は食べてないけどバナナ食べた)」
・「朝ごはんは食べてません(朝ご飯は食べてないけど早めのお昼ご飯を食べた)」

などの経験があります。一休さんかよ。

88日目

主人公のウザ回が続きます。言葉だけ見ると、「教えることは教えたし、自信持て」「困ったら先輩を頼れ」なので何にも間違っていないのですけどね。結構聞きますね「よい夜を」。親指にしろ、何指にしろ、とりあえず指を立ててはいけないのだと思います。

89日目

リプ欄を見るとイマイチ趣旨が伝わっていないような方が居るようですので解説すると、『耳が遠い患者に大声で指示しても「???」と聞こえていない様子だったのに、「はい終わりです。お疲れ様でした」と普通にしゃべったら「あいよ」となぜか聞こえたようだ』というネタです。

高齢者の難聴は「高音部から聞き取りにくくなる」という特徴があります。「姑の地獄耳」と同じで、ボソッと口にした悪口ほど聞こえやすいものです。大きな声でゆっくり話そうと意識すると、普段よりも高い声になってしまいがちですので、こういった場合には敢えて抑揚のない低い声で、お経を唱えるようにしゃべると良いと言われています。練習しましょう。

90日目

フラグ回でしょうか。吸着事故まで10にして不穏な空気が流れます。

画像検査装置も機械ですのでエラーを出すことがあります。正確には「機械部分+PC部分」で構成されており、この2者の連携失敗によるエラーというものが少なくありません。この場合は再起動で復帰することが多いです。新人放射線技師さんにお伝えしたいのは、エラーが出たときの対処法の順番です。それは「極力短時間で終えられる処置から順番に行う」というもので

①まずはその検査メニューから抜ける
②アプリケーションのみ再起動する(基本的にはwindowsやLinuxの上に撮影操作用のアプリケーションが稼働している)
③通常の再起動を行う
④装置の主電源レベルの電源断→再起動を行う

レイヤーの浅いもので復帰すれば、検査再開までのデッドタイムを短く抑えることが出来ます。もちろん、エラーの内容が理解できれば、この順番の限りではありません。各処置において「再起動復帰までに何分かかるか」という情報を伝えるのも重要です。再起動に15分かかるくらいなら、いったん患者を外に出す、といった判断が迫られる場合もあります。

また、エラーメッセージのポップアップが出たら、内容が分からなくでもメッセージをメモ、あるいはスマホで画面の写真を撮りましょう。後でメーカーの修理が来た場合に「何時頃に、どんなメッセージが出たか」という情報は非常に重要で、スマホで写真を撮ればタイムスタンプも兼ねて一石二鳥です。


さて本編は残り10日、この解説記事企画noteも残すところあと1回になりました。先日、100ラジ本編は医療従事者向け会員サイト「m3.com」で紹介されました。

m3.comの記事内ではこの解説企画ファンブックnoteについても言及がありました(フォロワーはあんまり増えなかった)。

最終回まで残りわずか。作者曰く「色々な意味で皆さんの予想を裏切るような、びっくりさせる出来事を用意したつもり」だそうです。楽しみましょう。

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<次記事リンク予定地>

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