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【51-60日目】100ラジを100倍楽しむためのファンブック ~現役放射線技師が「100日後に吸着事故を起こす放射線技師」を解説する~

企画の主旨はこちら↓の「はじめに」をお読みください。

51日目

当院ではレントゲンであれば1日に200~300人、CT検査であれば100~150人ほど検査件数があり、複数の装置で対応するのですが、だいたい1部屋で対応する患者さんの数は1日40人前後でしょうか。少し面白い資料を見つけたので供覧します。

セブン&アイHLDGS. CSRデータブック2018(pdf)

この資料の27枚目(194ページ)に「苦情発生率」というデータが提示されており、2017年度実績で22.8PPM(PPM・・・苦情件数/来店客数/100万分の1で算出)とあります。概算すると43859人の来客に対して1件苦情が発生することになります。

レントゲンとCTのみで当院では1日に400人患者さんがやってくるとすると、109日に1回、即ち年に2~3回苦情が発生するという推定になりますが、言われてみると(待ち時間が長いとか小さな苦情を除き)このマンガのネタレベルのクレーm...ありがたい苦情の頻度が意外と体感に合います

1:29:300の法則(ハインリッヒの法則)というのは有名であり、顕在化する1の事象の陰には29の小さな事象が存在し、さらにその陰には300の見えない小さなリスクがあると言われていますが、病院に来る人というのは基本的に具合と機嫌が悪い人であり、この29も割と顕在化します(まぁ待ち時間が長いのは事実なのでごもっとも!ですが。。。)先のフェルミ推定に当てはめると3日に1回は、小さな苦情への対応が放射線部のどこかで発生しています。合ってそう!

今回の患者は初診ですが、あまり患者の希望に添い過ぎてルールを逸脱した対応をしてしまうと、それこそ「前回はやってくれたのに!(怒)」ということは十分起こり得ます。(例:予約時間よりもずっと早く来院してるだけなのに待ち時間が長いと訴え、他の患者よりも先に撮影する)1人の患者の希望を優先するあまり、他の大多数の患者に不利益を生じさせるのは悪手ですので、特に経験の浅い放射線技師の皆様は注意しましょう。

ちなみに私は放射線技師をやっていますが患者接遇が物凄く嫌i...苦手なので、血管撮影室での勤務が好きです。患者対応がほぼゼロなので。あと核医学検査って患者件数は少ないのに個性的な患者さん(と家族)多くないですか?

52日目

私が行っているこの「現役放射線技師が100ラジを解説する」を始めようと思ったきっかけのエピソード回です。この話を解説させていただければ、もうこの後やる意味もありません(でもやる)。

通常レントゲンは専用の撮影室で撮影するのですが、非常に具合が悪くて撮影室までの移動が困難な患者で、どうしてもレントゲン撮影が必要な場合に限って「回診撮影(ポータブル撮影)」というもので対応します。

医療法施行規則(四)管理義務に関する事項-1.使用の場所等の制限(第30条の14)において、移動型X線装置による回診撮影は「特別の理由により移動して使用する場合」即ち「移動困難な患者に対して使用する場合」にのみ適用されると明確に規定されています。例を挙げれば重症・急変例の他には手術後のガーゼ・針の遺残確認、チューブやカテーテル等を挿入した直後の位置確認などはこれに該当します。

さて、このネタにあるように「元気で動ける患者さんだったからOKです」というのはどういうことでしょうか?少なくとも車いすに移乗できる程度の状態であればポータブル撮影の「特別の理由」には該当しませんので医療法施行規則に違反することになります。

放射線技師以外の一般の方のリプライや引用リツイートを見ると「もしかして他の患者さんを撮影しちゃたの?」という感想を抱いている方が多いようですが、それはこのネタの真意ではありません。これは2コマ目の「ナースさんたち忙しそうだな...」が絶妙な伏線になっています。

これはあくまでも都市伝説の類いの話ですが、この世には「本当は車いすで検査室に移動できる患者さんだけど、検査室に連れて行くスタッフ(看護師)の手が足りないから医師にお願いしてポータブル撮影にしてもらおう」という怖い話があります。そんなことをしたら法律違反なので、「医は仁術」「ヒポクラテスの誓い」「ナイチンゲールの精神」を心に宿す医師や看護師がそんなことをするはずがありません。あれ?

ちなみにですが、従来は回診用ポータブル撮影は一般撮影室で得られるレントゲン画像よりも画質が悪く、またどうやってもX線が多少は斜めに入射してしまうために左右の肺の色が違うように見え、胸水や肺炎の誤診につながる、といったデメリットがありました。しかしこれらもフラットパネルディテクタ(FPD)や仮想グリッド(バーチャルグリッド)といった最新の技術の登場により、今では通常の撮影装置で撮ったレントゲン画像と遜色ない撮影が出来てしまうのは(ある程度は)事実です。ただしそういった最新技術が搭載された装置を導入している施設ばかりではありません。またX線エネルギーと撮影距離、撮影方向が異なるために、同程度の画質を得るための撮影条件であっても皮膚や乳腺といった臓器の放射線被ばくが増える傾向にあります。(参考:一般撮影領域における被ばく線量管理(pdf)スライド56。成人胸部正面で実効線量0.03mSvであるのに比べてポータブル(しかもグリッド無し)で0.09mSv約3倍!

本当に患者さんの為を想うのであれば、通常のレントゲン撮影室に移動できるのであれば良い写真が撮れるし被ばくも少なくなる。心のある医療従事者であれば当然、賢明な判断をされるはずです。もちろん「本当に必要な理由」があれば、私たち放射線技師は思いポータブルX線装置を押して病棟のどこへでも、急いで駆けつけるのが使命です。ポータ。ポータ。

2コマ目の擬音「シュバババンドじゃないもん」。

とうとう「#ババババンビ」に気づかれないので手段を変えてきましたね。

53日目

何でもないようなことが、幸せだったと思う。そんな風に思えるのはずっと先のことであり、ふと突然こういった感情が降って湧くことは良くあります。特に診療放射線技師は「ルーチンワーク」を主とする職業であり、同じコメディカルでもリハ系に比べれば1人の患者さんとの関わりというものも非常に少ないです(個人的にはそれが好きで選んだ職業でもありますが)。ドラマのラジエーションハウスのように患者さんのプライベートに土足で踏み込んだり、病室にわざわざ出向いて無駄話をしている放射線技師なんて居るのでしょうか?

毎日決められたルーチンワークをこなし、非常に言葉を悪く選べばスイッチを押すロボットと化し、ラーメンを食って帰る。残念ですがこれが放射線技師の実態とも言えます。そうならないように、そう思われないように努力していますが、特に放射線技師をこれから目指そうかどうかという若い方には、色んな視野で物事を見てほしいと思います。

白パーカーでラーメンとはなかなか勇気がありますね。ちなみに私は天下一品派です。山岡家(笑)二郎系(笑)

54日目

非常にほっこりするエピソード回ですね。こういった際にはパパさん技師の発揮する能力は偉大です。子供を持つまではなかなか小さい子の扱い方、そもそも抱っこの仕方すら危ういと思います。「女性技師が抱っこすれば良くね?」みたいな意見もありますが、今回の場合は患者さん自身が若い母親であるので、このマンガで描かれているように女性技師が撮影に対応し、他の技師がちゃん赤の対応をするのが正解でしょう。主人公の子供スキルが足りなかった点のみが残念です。

55日目

「年末年始やお盆は既婚者・子持ちが優遇」という文化はあまり褒められたものではありませんが、依然として残る施設が多いのではないでしょうか。とりわけ、昔は結婚し、子供を作るのが当たり前であったので「いずれは自分も、お互い様」と納得されたかもしれませんが、今はそういう時代ではありません。結婚しない人、子供を持たない選択、単にモテない人、多様性の時代です。自分自身、子供がいることで職場の皆様に助けられている点も多いので何とも言えませんが、勤務管理においては不平等感が無いように配慮していただきたく思います。レイモン堂は草。

ちなみに皆さんお気づきでしょうが、「100日後」って大晦日なんですよね。もしこの主人公が非モテ非リア充陰キャじゃなく、結婚相手を連れて年末年始に実家に帰っていれば。。。。

56日目

これも非技師の方には伝わりずらいあるあるネタですね。「シュワ~」(10日目)と併せて読みたい作品です。

イトゥーシーならぬ胃透視(バリウム検査)とは、レントゲンに良く写る液体=バリウムを飲み込み、胃の形を様々な方向から写真を撮ることで病気を見つける検査です。

この検査、バリウムをいっぱい飲んで胃をパンパンに満たしているのではなく、「シュワ~」の発泡剤=空気で胃を膨らませで、そこに少量のバリウムを飲み込み、身体を回転させることで胃の表面にバリウムを薄~く塗り延ばしています。イメージはクレープを焼く時に生地を延ばす感じです。あまりにバリウムが濃く塗ってあると、X線が全く透過しなくなりその部分は真っ白になってしまいます。ベッドの上でゴロゴロと「あっち向いて」と指示されるのはこのためで、病気を見逃さないようにするために非常に重要なことです

胃と言う臓器はその先は十二指腸に連続しています。胃の内側全体にバリウムをまんべんなく塗り広げることが重要ですが、この際に左回りで回ると胃や腸の解剖上、バリウムが十二指腸に流れていきやすく、画像評価が困難になってしまいます(らしいです。というのはやったことが無いのでわからない)。

しかし日ごろ患者さんを相手にしていて思うのが、いざ検査室と言う知らない場所に来ると「右向いて」「左向いて」と言っても逆に動いてしまう方、透視検査に限らず結構居ます。「左右盲」というのもあるそうですが、単に緊張して混乱してるのもあります。しかし言葉を変えて「こっち」「あっち」と言っても伝わりませんし、技師は画像取得のために撮影室の外でマイクで指示を出すため、ジェスチャーで伝えることもままなりません。詰んだ

ちなみに「バリウムと胃カメラどっちがいいの?」みたいな話はネットで結構見ますし、あるいみ宗教的なもの(バリウム検査は利権だ怒!みたいなヤツ)も見聞きしますが、「スキルス性胃がん」(胃がんのなかでも悪性度の高い部類)の発見については、胃カメラ検査よりも有効な場合があります。絶食・発泡剤・バリウム・ローリングの4重苦ではありますが、ぜひ技師と患者さんの連係プレーで画像の質を高めるために、ご協力をお願いします。

57日目

せっかく物語のキーパーソン登場回なのに、「医療業界で一番有名なビブス」のせいで意識がそっちに持ってかれた神回です。

看護師さん、勤務のユニフォームから着替えたら印象が違ってギャップにドキッとする。という経験はあるあるですね。勤務中は長い髪はまとめることが規則になっていることも多いので、もしかしてこのようにインナーカラー入れてる看護師さんも居たりするのでしょうか。

58日目

ビブスネタ引っ張りすぎぃぃぃ!!!(2コマ目)

こんな感じで話題のネタをどんどん作中にブっ込んで来るのが作者さんのユーモアですよね。でも病棟ポータブル回ってるときに「話しかけてもえぇねんで」のビブスを来た看護師さんが居てくれたら我々はどんなに助かることか。。。。(参考:4日目

59日目

「クリスマスイブに正拳突き」と言うネタは「性の6時間を正すために6時間正拳突きをしようと思う」という2ちゃんねるスレッドが発祥です。

もう10年以上前のネタなんですね。懐かしい。隣で「みえん」と言ってるCD焼きおじさんとかシフト関係あるのか?

1コマ目の擬音に隠されている「コレサワ」ってアーティスト、ここで検索して初めて知ったのですがとてもいい感じですね。今までの作者さんの推し(電波系アイドル)とは路線が異なります。

60日目

フラグ回。ラジエーションハウスのクエンチ回を彷彿とさせますね。

安全管理ーMRI編ー 事故を起こさないために|MRIfan.net

MRIはその強い磁場を発生させるために「超電導状態」を維持するため、液体ヘリウムで冷却しています。この液体ヘリウムが何らかの理由で機械から漏れてしまい、常温に温められ気化することを「クエンチ」と言います。

万が一検査中にクエンチが起きてしまうと、検査室中にヘリウムガスが充満し相対的に酸素濃度が低下します。MRI操作室では検査室内の酸素濃度がモニタリングできるようになっています。何らかの理由でクエンチが発生してしまった場合には速やかに検査を中止し、患者を検査室外に退避させる必要があります。

また患者の生命に関わる重大な吸着事故が発生した場合、緊急に磁場を落とすためにはこの「クエンチ」を技師の手で発動させるということがあります(避けたいことです)。

このとき、検査室中に気化したガスの気圧によりドアが開かないというケースが考えられます(海に落ちた自動車のドアが開かず逃げれないのと同様)。通常は排気孔から圧が逃がされる仕様になっているはずですが、検査室のドアが押し戸か引き戸かによって状況は変わってきます。

「検査室の窓を割って圧を逃がし、患者を救出」というのは教科書や漫画の世界でしか見聞きしませんが、放射線技師は万が一の危険性、常に最悪のケースを想定してこういった訓練も受けています。ちなみに窓を割ると内圧によってガラスが飛散するとか、でも飛散防止のメッシュ仕様になっているから大丈夫だとか言われますが、実際はやったことがないので不明です。


今回は非技師の方向けに解説しがいがあるネタが多めでした。私たち診療放射線技師について、医療職種同士の相互理解が進むことが、結果として患者さんにより良い医療を提供できることにつながります。今後もまだまだ小ネタ解説、頑張っていきますのでよろしくお願いいたします。

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