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うつわペルシュの、つくり手を訪ねて【藤村佳澄】

カップの底がぷっくりと盛り上がり、まるでフランス菓子のカヌレのよう。
「カヌレ茶器」と名付けられたそのカップは、陶芸家・藤村佳澄さんの代名詞ともいえる作品です。
サラリとした白マットの釉薬に包まれた、繊細で愛らしいフォルム。
驚くことに、一つひとつ手作業でつくられているといいます。
ユニークで、多くの女性の心をつかむこの作品は、どのように生まれたのでしょうか。
佳澄さんが作陶を行う、岐阜県多治見市の工房を訪ねました。

取材・文:中西沙織  撮影:こんどうみか (ほとりworks


毎日に寄り添う「器」というモノづくりに惹かれて

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カヌレ茶器シリーズ。カップは、日本茶や紅茶など普段使いにちょうどよいサイズ。茶たくは、小皿としても活躍してくれます。右奥のポットは、取っ手が真鍮のタイプもあり、活動初期から作り続けている形


岐阜県多治見市は、「美濃焼」で知られる、日本屈指の焼き物の産地。古くから陶器商人で栄えた、商家や蔵が立ち並ぶ町の一角に、藤村佳澄さんの工房があります。これまで何人もの陶芸家が住み継いできた建物で、8年ほど前からここで暮らし、作陶に取り組んでいます。

ペルシュ:
「もともとデザインを学ばれていたと聞きましたが、陶芸でやっていこうと思ったのはなぜですか?」

佳澄さん:
「昔から、絵を描いたりモノをつくったりするのが好きでした。出身が広島県で、大学では美術を専攻し、子ども向けのおもちゃやキャラクターグッズのデザインを勉強していました。陶芸をやりたいと思ったのは、大学3~4年の進路を考えるあたり。地元の尾道市に、カフェ&ギャラリー併設の雑貨屋さんがあり、作家さんの個展が開催されていたんです。それを見たとき、会社に属さず、こんな風に個人で生きていく方法もあるんだなと」

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佳澄さん:
「子ども向けのものって、限られた期間しか使わなかったりしますよね。それが、器だったら、その人の毎日に寄り添うことができる。そういうモノをつくるの、いいなあって。ちなみに、多治見という町を知ったのは、大学時代、陶芸部の部長だった友人から誘われて、旅行で来たのがきっかけです」


代表作「カヌレ茶器」が生まれるまで


大学卒業後、本格的に陶芸を学ぶため、岐阜県にある「多治見市陶磁器意匠研究所」に入所。2011年に、作家としてデビューします。

ペルシュ:
「佳澄さんの代表作と言えば『カヌレ茶器』ですが、この作品はどういう経緯から生まれたんですか?」

佳澄さん:
「これが、結構エモーショナルな話なんですよ…! 20代の頃は陶芸一本では全然食べていけなくて。今のように定番品はなく、すべて一点モノのような感じでした。あるとき、実験のつもりで作っていたら、お花みたいな器ができて。それを裏にひっくり返してみたら、カヌレみたいだな、かわいいなって。それが現在の『カヌレ茶器』の原型です。当時、中国茶教室に通っていて、お茶を飲むために使う小ぶりのカップ(茶杯)という発想もありました」

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工房での作陶の様子も見せていただきました! お話しするときのふんわりした印象が、ろくろに向かうと一転して陶芸家の顔に

ペルシュ:
「私も、初めて見た瞬間から“かわいい!”って。お店に置いたら、きっとお客様が喜びそう!と直感しました」

佳澄さん:
「ただ、できたはいいけれど、最初はどう売ったらいいかもわからなくて。もう無理だと思って、実は一度、企業の就職試験を受けたんです。試用期間として3か月働いたんですが、その間、陶芸したいという思いはどんどん高まるばかりでした。結局、本採用には至らず、これはもう神様が『陶芸をやりなさい』と言ってるんだ!と。その直後に、横浜で、全国の若手陶芸家が作品を展示販売する『陶ISM』という一大イベントがあって、そこでカヌレに賭けてみようって。“つくりたい!”という思いが、一気に爆発したような感じでした

イベントで『カヌレ茶器』を発表したのは、2018年のこと。当時から、スイーツ界ではフランス菓子のカヌレがブームになっていたこともあり、佳澄さんの器は瞬く間に注目を集めました。

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まるで彫刻作品のような、制作途中のカヌレ茶器。手作業で制作しているため、一点一点表情が異なる


『カヌレ茶器』の一番の魅力は、おしりがぷっくりとふくらんだような、なんとも愛らしいフォルム。佳澄さんならではの、繊細な手仕事によるもので、型などは一切使っていないというから驚きです!

原料には磁器を使用しており、陶器に比べて粒子が細かく、繊細な細工に向いているそう。ろくろで器の形を作った後、溝をつけ、カッターナイフやカンナで削り出していきます。最後は、水を含ませたスポンジで、なめらかに整えたら形が完成。その後、素焼き、釉薬掛けを経て本焼きを行います。


花のようなフォルムを包む、優しく無垢な白マットの釉薬

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使わないときは、伏せて飾ればオブジェのよう。軽くて丈夫な磁器製のため、日常使いしやすい

ペルシュ:
「このフォルムに、白マットの釉薬がとてもよく合っていますよね。釉薬って、その作家さんの世界観が表れると思うんです。一口に“白”といってもいろいろありますが、佳澄さんのは、まさに、この形にしてこの色!という感じ。混じりけがない際立った白だけど、冷たくもないような」

佳澄さん:
「白マットの釉薬は、やさしいイメージになるよう、自分でブレンドしています。お菓子のカヌレに見立てて、最初は茶色の釉薬をかけていたんですが、お茶のイベントで茶器を出すことになり、お茶の色がきれいに映えるようにと、白が生まれて。そこから白が定番色になりました。ただ、白だけだと、ともするとプロダクト(工業製品)に間違われてしまうことも多く、反対色のブロンズも作って、2色で展開しています。質感のあるブロンズは、プロダクトとはまた違った雰囲気があって、互いが引き立て合うような組み合わせになっています」


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サラリとした白とは対照的な、釉薬に金属成分を含んだブロンズの器たち。縁を装飾したレリーフ皿も代表作の一つで、西洋画の額縁や、鏡の縁取りなどからインスピレーションを得たそう


さまざまな紆余曲折を乗り越え、現在の作風にたどり着いた佳澄さん。作品づくりには、どのような思いで臨んでいるのでしょうか。

佳澄さん:
「器なので、料理を引き立たせることはもちろんですが、それ以前に“かわいい!”といった、ファーストインプレッションも大事だと思っていて。この器があるから、こんな料理をつくってみようとか。器の大きさがこうだから、こんな感じに盛ってみようとか。そんな風に楽しんでもらえたら」

ペルシュ:
「まさに、暮らしの潤いですよね。『カヌレ茶器』を買った日には、お友達呼んで、家を片付けて、花を飾って…なんてしたくなっちゃう!」


陶芸家・藤村佳澄さんの世界に触れて

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心躍るようなときめきを、暮らしの中にそっと運んでくれる器たち。
繊細でありながら、芯の強さがあって。澄んでいるのに、なんともチャーミング。
お話を伺うにつれ、佳澄さん自身の印象と重なりました。

「お客さんに直接反応をもらえるのが、一番の制作の糧になる」と話してくれた佳澄さん。2022年11月には、ペルシュで藤村佳澄さんの個展が開催される予定です。作家さん在廊日には、店頭でお話しを伺えるのが楽しみですね!

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藤村佳澄さん(左)と、ペルシュの杉山佳子さんによる、撮影中のお茶目なワンシーン。二人が手にしているのは、酒器として販売していた『カヌレ茶器』の初期作品。


※内容は2022年3月時点の情報です。撮影時のみマスクを外しています

【つくり手Profile】
藤村佳澄さん
広島県呉市生まれ。尾道市立大学美術学科を卒業後、岐阜県の「多治見市陶磁器意匠研究所」にて陶芸を学ぶ。多治見市内の古民家を工房兼住まいとし、作陶活動を続けている。
Instagram @kasumi_fujimura

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