チェリまほ THE MOVIE 感想

*以下はネタバレを含みますので、ご注意ください。


昨日映画館に足を運び、チェリまほ THE MOVIEを視聴していきました。全く予習なく観たのですが、設定が付き合った後だからか安達の成長具合に驚きつつ、もはや二人の人生を歩んでましたね。物語をがらっと変える要素や新たな恋敵をだすわけでもなく、30分ドラマの世界観を保ちながら少し人生のほろ苦さも交えたストーリーで、きれいに映画の尺にまとめています。あの世界観に巨大スクリーンで没入できるだけでありがたい気持ちになりました。

シナリオの説明は長くなるので置いておいて、特に個人的に印象的だったシーンを感想として書きたいと思います。


1. 大量のお土産を持つ安達にかける言葉

安達が8か月の長崎勤務を終えて豊川東京本社に戻る際、お土産を大量に買って持って帰ろうとし、それに対し長崎の同僚が「大切な人がたくさんいるんですね。」と言うシーンです。この場面は日常の会話なら、「お土産大量に買いましたね!」と咄嗟に言うのでしょうが、この捉え方にチェリまほの世界観が凝縮されているなと感じ、心が温かくなりました。僕も今後このフレーズを使ってみたいと思いました笑

またその後、東京の本社にてお土産を配って六角と藤崎さんと話すシーンも、その人なりの幸せの形、ありたい姿は本人が決めるものというメッセージがあり、何気ないオフィスシーンながらも心にくるものがありました。他人の生き方に人が口出すのは野暮ですね。


2. 安達家訪問 - 将棋のコミュニケーション - 

安達の父は恐らく本音では初対面の黒沢とちゃんと会話してみたいけれど、まだ照れや緊張があり将棋を指すことをもちかけます。整った和室をバックに将棋を指す黒沢の所作がとても麗しさに目を惹かれる一方、将棋を通してもそれとなく伝わる父の緊張。黒沢と真っ向から話すには緊張するため、何かツールがないと会話が持たないと伝わってきます。

将棋を指すにつれて、安達の父はあなたはウェルカムですよと示すべく「自分の意志で選択した決断は尊い」などと伝えていきます。男性はこう、女性はこうと枠にはめるのは好きではないですが、男性は概してストレートに思いをぶつけるのが苦手であり(私もどちらかと言えばそうです)、この気持ちやコミュニケーション方法は分かるなと思わせた秀逸な場面だと思いました。将棋を通して距離を縮めることにリアリティを感じさせ、交際のお墨付きをもらう好きなシーンでした。

他方で、黒沢父は安達を最初から受け止めているというか、動じていないように見え、きっと様々な社会人人生を歩んできたのだなと想像させるような描写でこれもまた印象的でした。


映画終盤は結婚式で親、友達、同僚から祝福されながら物語にピリオドを打ちつつ、二人の日常に戻ります。その日常とは何気ない日々で手をつないで歩く描写です。結婚をした二人が手を取り合って未来をつくっていくと同時に、同性愛がごく普通にそこにあるという世界を描いています(セリフから覚悟を決めてそうでもない現実を生きていくという風にも捉えられたような気もしましたが…)。ドラマ版含めて本作は派手な演出がなく、日常の延長線上を丁寧かつ丹念に描いてきたからこそ際立つエンディングだと思いました。結婚は実は安達の空想かもしれないという余地を残しながら描いているあたり、この日常がことさら際立っていました(仮に結婚が空想だとしても、エンディングソングの「心音」が二人の今後の意志をまっすぐに感じさせる歌で、日常を生きながら確かな未来をともに創っていくんだろうなと想像させてくれます。)。

現実世界にはまだまだ偏見や差別はあります。心を開いたばかりに自分が傷つくときもあるでしょう。鎖の強度は弱いところで決まると言われますが、社会も同一でして、マイノリティが住みやすい社会は誰にとっても息苦しさのない社会です。入口はどうであれチェリまほの映画やドラマをみた後、誰かに対して優しい気持ちになったり、ふと立ち止まって相手の気持ちを想像したりと、そういう力がある作品だと思います。劇中ドッと感情を揺さぶる作品は多くありますが、こういう染み入るように心に灯りを灯し、視界を広くしてくれる作品はなかなかないと思います。映画化をしてくれたことに感謝しつつ、この作品のように今よりももっと優しい社会に近づきますようにと願いながら映画館を後にした素敵な週末になりました。

安達、黒沢、末永くお幸せに。

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