レベル上げなんてかったるい! 第1話 

あらすじ 275文字

ここは、ヤカンドレルと言う異世界。
女神さまたちが異世界人を転生させて魔王を倒して生き残るというゲームが流行っておりました。
そんな世界に連れてこられた優子は、大のロープレ嫌い!
レベル上げなんてかったるい!
ロープレのコツコツしたレベル上げなんてすっ飛ばし一発逆転で世界最強のドラゴンに戦いを挑むのであります。

優子はスマホをタップする。
ネットで注文した道具をママチャリで配達する担当女神のプアール。

そんな道具を使ってドラゴンとバトル
まぁ、当然、勝てる訳はありません!
だって、レベル1ですもん。
だがしかし、なぜかドラゴンはパンツ一丁の変態勇者にチェンジした!

補足

主人公 木間暮優子
異世界にとばっちりで転生させられた女子高生。というのも、その異世界では担当女神と一緒に生き残る「女神と転生」というゲームが開催されていたのだが、どうやらそれに参加していた兄の杉太と担当女神のリチルのせいで間違って飛ばされたようなのだ。
だが、お気楽な優子は、家に帰るために必死に頑張る、いや、適当に頑張る。というか、めんどくさいのでレベル上げは秒で終わらせてサッサと帰りたい! という感じで今日ものんきに生きていた。

担当女神 プアール
貧乏な貧乏な女神様。超絶ブラック企業通信販売のメガゾンで働く以前は、リチルと一緒に路上生活をしていたというどうしようもない女の子。だが、その出自はなんと最上級神ゼウィッスの108番目の娘であったのだ。そんなプアールは今日も今日とてママチャリで5秒以内に即配達!

変態勇者ヤドン
ヤカンドレル最強のドラゴン、ヤカンドレルゴールデンドラゴンが変身した姿。ブリーフパンツの心地よさに魂を奪われ優子とともに行動をすることに。マジックで勇者と書かれたプレートメイル。だけどなぜか下半身はパンツ一丁。そんな姿で今日も今日とて性剣セ〇クス・カリバーを両手に持って縦横無尽に破壊しつくします。って、お前が一番、魔王じゃい!

魔女ムンネディカ
地域の少年少女たちを集め相撲クラブを作っていた面倒見のいいお姉さん。だが、その実は世界に名をとどろかせる極悪魔女であった。しかも、今年35歳を迎える独身の身。当然、結婚という言葉にはめざとい。しかし、魔女として名をはせるムンネディカよりも強い男などいやしない。そんな時、目の前に俺様きどりの変態勇者が現れたのだ。もう~ドラゴンの子供だって産んじゃいます♡

純真無垢な少女アイちゃん
お母さんのお使いで隣町まで出かけていたアイちゃんだったが、プアールが爆走させるママチャリにはねられて絶命する。
その事実をひた隠しにしようとする優子とプアールによって蘇生薬を飲まされるのだが……なぜか、ゾンビになっちゃった……
これはまずい!ということで、アイちゃんのお母さんのもとへ連れて行ってなかったことにしよう画策するのだが……実は、アイちゃん、お母さんからも保険金をかけられて殺されそうになっていたのだった。
ウガァァァァァァぁ!

本文 9,988文字


「いつもご利用ありがとうございます。コチラに受け取りのサインをお願いいたしまぁ~す」

 白地に青ラインの制服を身にまとう女性配達員がはつらつな声を上げると、一枚の受取書を差し出した。

 しかし、その突き出す手の……なんと汚いことだろうか。

 その細い指先のいたるところに黒ずんだシミが沈着し傷だらけでボロボロ。
 この手に比べると畑仕事をしているばあちゃんの方がよっぽどきれいなぐらいだ。
 例えるならば、ホームレスのような手? 
 この女、もしかしてよほどの苦労人なのだろうか?
 それとも単にスキンケアをしていないズボラちゃんなのだろうか?

「遅いわよ! 5秒以内に即配達でしょうが!」
 そんな受取書の上に別の女のスラリとした手がのびる。
 こちらは先ほどの女と違ってスベスベだ。肌の張り艶ともに申し分ない。
 女は赤い光に照らし出される受取書に慌ててサインをし始めた。

 赤い光は壁にかかる松明の炎。
 それ以外に明かりとなるものは何もない。
 そう、ココは深い深い洞窟の奥なのだ。
 しかもその最下層の大空洞。

 だが、最近は便利になったものだ。
 こんな洞窟の奥まで通販の配達が来てくれるとは、流通の皆さんの日頃の苦労が忍ばれる。
 しかし、そもそもこんなところで配達を頼むヤツがいる事自体が驚きである。

 だが、本当に汚い字である。
 受取書に書かれたその字はミミズがのたうち回ったようで何を書いたのか全く見当がつかない。
 うーん。なになに、木間暮優子きまぐれゆうこ
 そうか! この女の名前は木間暮優子と言うのか!
 象形文字のような汚い文字とは裏腹に、それを書いた優子の顔立ちは、瑞々しくとても美しい。
 長い黒髪は艶がある。どうやらよく手入れがされているようだ。
 そのスラリとした細身の身長は約160cmと言ったところだろうか。
 身につける白地の半袖のセーラー服に赤いリボンがよく映えている。
 ということは、この娘、おそらく女子高生なのだろう。

「そう言われても、こんな場所分かるわけないじゃないですか……」
 優子がサインをしている間に、優子とさほど年格好が変わらぬこの女性配達員は自分がのってきたママチャリの荷台から荷物を下ろし始めていた。
 大きな箱状のものを両手に抱えると気合を入れる。
 おそらくとても重たいのだろう。抱える体がフラフラと揺れると青い髪のポニテールもまた右に左にと揺れていた。
 優子の前にドサっと置かれた箱。
 地面がその重みでボコッとめり込んだのは、きっと気のせい。

「梱包していませんがよろしかったですか? 当社ではプレゼント包装も承っております」
「梱包なんて不要よ!」
 梱包すらされていないその無粋なただの箱は鼠色のにぶい金属光を反射していた。

 優子はサインをした受取書を女性配達員に力強く押し付けると、地面に置かれた箱を力いっぱい肩に担ぎあげようとした。

 しかし、重い!

 その金属の箱は、その見てくれどおりとにかく重かった。
 しかし、あの女性配達員は苦もなく運んでいたというのに……

 うんがぁぁぁ!
 気合一発!

 優子は両足をがに股に大きく開くと、その箱を担いだ体を支えた。
 既に、顔がトイレに座り肛門に詰まった便秘の固い栓をひねりだすかのような憤怒の表情に変わっていた。

 一方、女性配達員は受取書を確認すると笑顔で頭を下げていた。
「ご利用ありがとうございます。スイッチは横にあります。後はいつも通りオートですのでご安心ください」

 それを聞いた優子は、担いだ箱の横にある起動スイッチを急いで入れた。

 瞬間、高い起動音がなり響く。
 そして、トリガーを引く優子は絶叫したのだ。

「13連装ドリルミサイル(オリハルコン純度99.7%、数量限定品)発射ぁぁぁぁあ!」

 ドドドドドドーン!

 怒号のような発射音と共に13本の白煙が箱からまっすぐに飛び出した。
 ドリルミサイルは高速回転を伴いながら目の前にそびえたつ優子の四倍ほどもあろうかという大きな金色のドラゴンへと飛んでいく。

 そう、優子は今ドラゴンとの戦闘中であったのだ。
 そりゃぁ焦るはずだわ! 納得。納得。
 って、普通バトル中に買い物するか?

 金色の二枚の羽をもつドラゴンは太い二つの足で仁王立つ。
 頭に生える立派な双角が王者の風格を現わしていた。
 そう、これこそドラゴンの中のドラゴン!
 まあ、いわゆるキング・オブ・ドラゴンである。

 なぜ、そんな凄いドラゴンと女子高生の優子が戦っているかだって?
 まぁ……それぞれにいろいろと思惑があるんですよ……たぶん。

 ギャアぁぁぁぁ
 洞窟の中にドラゴンの周囲のすべてを揺らすかのような悲鳴が響き渡る。
 ドリルミサイルが次々とドラゴンの体にヒットすると、その回転によって金色の鱗を穿っていたのだ。
 鋼鉄よりも硬いと言われるドラゴンの鱗!
 それなのにドリルミサイルが嫌がらせのようにウリウリと少しずつめり込んでくるのである。
 そりゃぁ痛いだろう。

 しかも、このドリルミサイルはオリハルコン製。
 オリハルコンといえばココ異世界ではもっとも硬い金属だ。
 当然、それ相応にお値段もする!
 そんなオリハルコンをミサイルとして惜しげもなく13個もぶちこんだのだ。
 この優子という女は一体何者なのだろうか?

 ドゴン! ドゴン! ドゴン!
 鈍い爆発音がドラゴンの体内から聞こえてきた。
 それと共に体にあいた13個の穴から大量の血が噴き出したではないか。
 どうやら体の中へと潜り込んだミサイルが爆発を起こしたようである。
 力なく崩れゆくドラゴンの体からは13本もの血柱が立っていた。

 息も絶え絶えのドラゴンは地に頭をつけ力ない瞳で優子をにらみ上げる。
「小娘……お前は一体何者だというのだ!」
「私は優子! ただの女子高生! 通販が大好きな普通の女子高生よ! 覚えておきなさい!」
 肩に担いでいたミサイルランチャーをドスンという音ともに地面に落とした優子が、腰に手をやり偉そうにドラゴンを見下していた。
 もうその偉そうな態度といったら我が子ならば尻を叩きたいぐらいに憎たらしい。

「女子高生とな! なんと勇者よりも上位の職業があったいうのか……」
 ちなみに、この女子高生の前でみっともなく這えずっているこのドラゴンは、魔王軍幹部を制した勇者をかつて指先一つで蹴散らしたという、結構強い(自称)ドラゴンなのである。

 このヤカンドレルという世界はかつて一人の魔王と八人の魔王幹部によって征服されていた。
 そこにさっそうと現れた勇者様ご一行が、なんのかんのとしているうちに魔王軍幹部八人を撃退したのである。
 そして魔王といえば、その間にとんずらこいて現在行方不明。
 そのかいあって、このヤカンドレルは平和になりました。めでたし、めでたし。
 って、まぁここは、いわゆるゲーム世界のような異世界なのである。

 しかし、ドラゴンと言えば、このヤカンドレルにおいて食物連鎖の頂点に立つ種族。
 しかも、金色のドラゴンはこの中でも上位に位置していると思われた。
 だって、金色って……なんか高価そうなイメージがするじゃん!

「しかし、なぜ我を……」
「アンタこの世界で一番強いんでしょ。さっさと死んで私の経験値になりなさい!」
 そういう優子は足のかかとでドラゴンの眉間を何度もケツっていた。
 ガツガツという音のたびに金色のドラゴンは嫌がるかのようにまぶたを閉じる。

 しかし、ドラゴンは納得できなかった。
 この世界最強と言われる自分がレベル上げの敵役?
 いやいや普通ならば、自分のような存在は何らかのクエストのクリア条件ではないだろうか。
 まぁ百歩譲ってクエストでなくともドラゴンが持つレアアイテムなんかが目的のはずだろうが。
 それが……
 それが……単にレベル上げ?
 なんか安く見られたようで無性に腹が立つ!
「小娘! レベル上げのために我を狙ったというのか?」

 だが、すでに勝負がついたと思っている優子はドラゴンに背を向けながら地面に置いたスクールバックを開いていた。
 そのスクールバックはネイビー色のマチが広くたっぷり収納できそうな感じ、いわゆるちょっとダサいスクールバックといったところ。
 そんなバックの中から手鏡を取り出すと、なぜか髪の乱れを気にしはじめたのだ。
「レベル1だとなにかと不自由なのよ……あぁ、また枝毛になってる。もうイヤ!」

「ちょっと待って! お前! レベル1! レベル1といったのか!」
「お前じゃないわよ! 私には、ちゃんと木間暮優子きまぐれゆうこって名前があるんです!」
「名前などどうでもいい。レベル1なのか! 本当にレベル1なのか!」
「名前がどうでもいいって、それ、失礼じゃないですか。えぇ、確かに私はレベル1ですよ。スミマセンね、レベル1で!」

 手鏡をスクールバックに戻した優子が目の前の空間でサッと手を振ると薄青い光を放った板がどこからともなく現れた。
 そして、優子は面倒くさそうそうにその板をドラゴンに見せるのだ。
「ほら見なさい。レベル1でしょ!」

 氏名 木間暮優子
 年齢 17歳
 職業 女子高生
 レベル 1

 体力 50
 力 10
 魔力 1
 知力 1
 素早 5
 耐久 5
 器用 5
 運  7
 固有スキル 貧乏性:いらないもの引き受けます♡
 死亡回数 5

 右手装備 スマホ(ネット接続付き)
 左手装備 スクールバック(いっぱい入るよ)
 頭装備  セーラー服リボン(赤色)
 上半身装備 セーラー服(半袖)
 下半身装備 紺のミニスカート(校則違反)
 靴装備 スニーカー(通学用)

 攻撃力 5
 守備力 5

 所持金 999,989,613,861,954
 パーティ なし

 優子のステータスを見た金色のドラゴンは絶句した。
「我は本当にレベル1に負けたのか……」

 悔しがるドラゴンを小馬鹿にするかのように優子はフッと鼻で笑うと青い光の板の上で手を振った。
 するとまた何もない空間に戻っていたのである。
「分かったのなら早く死になさい。早くレベルアップしたいのよ。レベル1だと何もできやしない……本当に面倒。こんなロープレのレベルアップ作業を好んでやっているやつって絶対にマゾか引きこもりに違いないわ!」

 しかし、金色のドラゴンは最強だった自分がレベル1ごときの小娘に倒されたことが納得いかなかったのだろう。
 先ほどから強く食いしばった歯がギリギリと音を立てていた。

「ワレは黄金の竜! ヤカンドレル=ゴールデン=ドラゴンの名にかけて、こんなことで死ぬわけにはいかぬぅぅ!」

 突如、ドラゴンの体の下に光の魔法陣が浮かび上がった。
 このドラゴンは魔法も使えるというのであろうか。
 オイオイ、普通、ドラゴンといえばブレス攻撃だろうが。
 魔法も使えるって反則だろう!
 しかし、まぁ最強のドラゴン様だからそれもありか。
 魔法陣の白き光は半球状に大きく広がっていくとドラゴンを包み込んだ。

「ちょっと、なに! あんた! まさか回復するつもり!」
 ――まずい! 回復はまずいわ!
 レベル1の優子にとって唯一の勝機は初手の一撃のみであった。
 だからこそ、この一撃で必ず仕留めると奮発して高価なオリハルコン性のドリルミサイルを買ったのである。
 ココで回復をされたなら、もはやレベル1の優子には為すすべが残されていない。
 ならば回復する前に全力を持って潰すのみ!

 優子は急いでカバンのなかに手を突っ込むとスマホを一つ取り出した。

 必死にスワイプする。

 スマホに映る掲示板にスレッドを立ち上げる。
『大至急! 殺される! ドラゴンを倒す方法教えて』
 そんなスレッドに次々と返信が。

『1get!』
 ――1getなんていらないから!

『ドラゴンwww』
 ――笑ってないで早く教えなさいよ! コチとら1日5分しかネットに接続できないんだから!

『燃えよドラゴン!』
 ――くだらん……

『食われろ!』
 ――お前が食われろ!

『トカゲと言えば毒殺でしょ!』
 ――毒殺か!
『↑ネズミかよ!』

 残りネット接続時間1分!
 優子は急いで、通販サイトMegazon(メガゾン)のページを開いた。

『ドラゴン 毒殺』
 すかさず打ち込むと画面に検索結果がずらすらと表示されていく。

 そんな優子の目が一つの商品にとまった。

『どんなドラゴン級の強敵もあっという間にいちころよ。殺傷力96.8%(当社比)』
 ――これだ!

 急いでタップ。

『これを購入した人は、これも同時購入されています』
 ――どれどれ。

『高性能ガスマスク フィルター式』
 ――これはいる!
 こちらもあわせてご購入♪

『こちらも一緒にいかがですか? 取替え用フィルター5枚セット、今だけ限定セール品』
 ――いるかぁ!

 優子は次々とタップする。
 目にもとまらぬ速さでタップする。
 女子高生のスマホ能力は本当に高いとオジサンたちは目を丸くすることだろう。

 ――購入完了!
 残りネット接続時間0分!
 接続限界……
 スマホの画面がブラックアウトした。

 次の瞬間、洞窟の奥深くの入り口からけたたましい音が、すごいスピードで近づいてきたではないか。

「ハァハァはぁ……おまたせしました! megazonでーす。コチラニ受け取りのサインをお願いいたします」
 先ほどの女性配達員がママチャリに乗って現れたのだ。

 優子は先ほど同様サインをすると勝手にママチャリの前カゴに入ったガスマスクをさっと頭からかぶった。
 少々ぶかい。
 ――男用だったのか……
 しかし、そんなことにかまっている余裕は今はない!

 左手で顔に強く押し付ける。
 これなら何とかなりそうだ。

 そして、カゴの中に残った毒ガススプレーを手に取ると急いでドラゴンのもとへと駆け戻ったのである。

「それじゃ、またよろしくお願いしますね」
 またもや女性配達員は激しい土埃を立てながら自転車を爆走させて帰っていった。

 一方、ドラゴンの顔の前でうんこ座りをした優子はゴツゴツした鼻にめがけてスプレーを噴霧した。

 しかし、ドラゴンの鼻から吹き出される鼻息は想像以上に強かった。
 それもそのはず、鼻の孔でさえ卵一個分ほどの大きさがあるのだ。
 噴き出される鼻息で毒の霧が押し返されると、優子の視界が白く煙って見えなくなった。
 あってよかったガスマスク!
 いやいや、これでは意味がない。

 気を取り戻した優子はスプレーのノズルをドラゴンの鼻の中に突っ込んだ。
 そして、ありったけの力を込めてノズルを押し続ける。

 ぷしゅーーーーーーーーーー……プス
 遂にスプレーは、すかしっぺのような音を立てて沈黙した。

 へーくしょン!
 ドラゴンの鼻からクシャミと共に鼻水が飛び出した。

 ピシャリ!
 ガスマスクをかぶった優子の顔面にへばりつく鼻水。
 垂れおちる鼻水と共にスプレー缶も落ちていく。
 力ない優子の瞳に足元に転がるスプレー缶の文字が写った。
『ゴキブリ専用。それ以外には使用しないでください』

 ――ははは
 ドラゴンの吹き出す鼻息でスプレー缶が乾いた音を立てながら転がっていった。

 ――負けた……
 体の力が抜けた優子は膝まづいた。
 鼻水が垂れ落ちるガスマスクを力なく外しうつむいた。

 ――また、死ぬのか……今度はもう生き返ることができないっていうのに……
 優子の目から自然と涙がこぼれ落ちていく。

 今回は、優子が経験した中で最速のゲームオーバーになりそうであった。
 そう、既に、優子は過去5回ゲームオーバーになっている。

 1回目は、意気揚々と冒険に出かけた森の中で、かわいいスライムが体にぺたりと引っ付いた。
 服を溶かされあらわな姿で窒息死。
 だって、スライムが顔から離れなかったんだもん!

 2回目は少々注意した。
 優子はレベルを10まで上げて洞窟へ赴く。
 しかし、ゴブリンに凌辱されて、またしても花を散らす。

 3回目は考えた。
 ソロプレーは無理だと思い、レベル30でパーティを組んだ。
 しかし、盗賊に襲われて仲間たちは優子を置いて皆逃げた。
 優子は盗賊に陵辱されて、また死んだ。

 4回目、それでも優子はあきらめない!
 レベル50となった優子たちパーティは、ついに魔王を討伐した。
 しかし、恩賞の分け前目当てで僧侶に後ろから刺されて殺された。
 ついでに身ぐるみはがされ真っ裸。

 5回目、もう仲間なんて信じない!
 レベル90となった優子は、ソロで魔王を滅ぼした。
 しかし、それで終わりではなかった。
 ついに現れる真の敵。
 巨大な山脈のような機構式兵器の鬼蜘蛛!
 その体のいたるところから射出される熱線と圧倒的な火力。
 それによって世界は完全に滅びた。

 6回目の今回、レベル上げを簡単に済まそうと思ったのが悪かったのか。
 目の前のドラゴンに、またも凌辱されて殺されてしまう。
「おうちに帰りたい……」
 自分の肩を抱く優子は震えながら小さく呟いた。

 そんな優子を冷めた目で見つめていたドラゴンを包む白い光が、魔法陣の中心に向かって収束し始めた。
 それに伴い、ドラゴンの体自体も同様に白く発光しまとまり小さくなっていく。
 そして、その光がスッと上空へ伸びていったかと思うと細くなって消えていた。

 魔法陣の中心には一人の中学生ぐらいの少年が立っていた。
 それも真っ裸で。

 少年は優子に声をかける。
「おい!」

 はっと顔をあげる優子。
 ――まさか! この少年が先ほどのドラゴンなの!
 そんな目は恐怖で染まる。

 しかし、すでに無気力な優子はスッとその場に立ち上がると、おもむろにセーラー服のリボンを外しはじめた。
 少年は怪訝そうな顔で尋ねる。
「何をしている?」
 優子はセーラー服のシャツを脱ぎながら、
「どうせ……私を凌辱するのでしょ。ひと思いとは言わない……でも、抵抗しないから痛くはしないで……私……これで本当に死んじゃうんだから」
 セーラー服のシャツを地面に落とすと今度はスカートのフックに手をかけた。

「お前は馬鹿か! お前など抱いても気持ちいいわけなかろうが!」
「なんですって!」
 瞬時に優子の目が怒りに震えた。

 これでも自分は女子高生。
 しかも、見た目は上の下ぐらいは控えめにいっても満たしている自負はある。
 いや、もしかしたら上の中……より、もうちょっと上かな。

 そんな私を抱く価値がない!
 この少年の目は節穴か!
 いや……よく考えろ。
 おそらくこの少年は女に興味がないのではなかろうか。
 そうだ、男にしか興味がないのだ。
 だから私の価値が分からないに違いない。

「そうね……私が美しいから。興味をそそらないだけよね……」
「アホか! お前みたいな貧乳のお子様に手を出したら逮捕ものだろうが!」

 この少年を誰が逮捕するというのであろうか。
 かつての勇者すら倒せなかった金色のドラゴンである。
 一体、誰が逮捕できようか、いや、誰もできないであろう。

「お子様ですって! これでも私は17歳! 聖羅女子高2年生帰宅部おとめ座のA型よ!」

 聞かれてないって……そこまでは……
 そらみろ……ドラゴンだった少年は、意味が分からず固まっておるわ。

「まぁ、いい。俺は自分と同じくらいの年齢の女性が好みだからな……」
「えっ! 女が好みなの? てっきり男だと思ってた」
「誰が男に興味があるのだ。男同士だと種の保存が叶うまいが!」
「一体、あんた、年いくつ?」

 先ほどまで泣いていたはずの優子は、急に強気に出始めた。
 なぜなら目の前にいる少年は明らかに中坊であった。
 ――こんなガキ! お姉さんがほっぺたつまんでヒーヒー言わせたるわ!
 おバカな優子は目の前の少年が金色のドラゴンであったことをすでに忘れているようである。

 だが、そんな少年は律儀にも両の手を指折り数えて何やら計算していた。
「俺か? そうだな、正確には覚えてないが900歳ぐらいかな……」
 うーん、十本の指でどうやったら900と言う数字が計算できたのであろうか?
 数学が得意でない優子は頭を悩ませた。

「えっ! あんた900歳!」
 中坊のガキだとたかをくくっていたが、まさか900歳のおじいとは思ってもみなかった。
 と言うことは、このガキ、900歳のババアが好みと言うことに……
 なるほど、そりゃぁ、ピチピチの女子高生は無理だわ……

「ごめんね。カサカサな肌が好みだったのね……トカゲだけに……」
「だれがトカゲだ! お前、アホだろ」
「何があほよ! ババ専に言われたくないわよ!」
「誰がババ専じゃ! ドラゴンは余裕で1000年以上生きれるわい!」

 優子はハッと気づいた。
 今の今までなぜ忘れていたのか自分でもわからないが思い出した。
 目の前にいるこのババ専の中坊のガキは、あの金色のドラゴンである事を。

 力なくその場にヘタレ込む優子。
 そんな肩から力なくブラの肩ひもが落ちていく。
「あぁ……私、やっぱり殺されるのね……」

 優子は涙をためた目で天を仰ぐ。
「あぁ、私は……あのキラキラと輝く星になってしまうのね……」
 いや……ここは洞窟の中だし。
 おそらく、天井で光っているのはコウモリの目だし……
 というか、あんた、死んでも、またレベル1になって生きかえるじゃん!
 って、今もレベル1か……

 うん? もしかして違うの? 本当に死んじゃうの?

 魔法陣から出て優子に近づく少年は言った。
「お前を殺しはしない……と言うより、今はお前のせいで、この体を維持するだけで精いっぱいだ」

 !?
 咄嗟に優子は少年の体を仰ぎ見た。
 その瞬間、もうすでに優子の目の前にまで来ていた少年の股間にある小さなオクラが、その鼻先にそっと触れた。
 きやぁぁぁぁぁっぁ!

 優子は鼻先を押さえてのけぞった。
 過去の世界で凌辱され続けていたはずなのに、少年のオクラをまじまじと見たのは初めてであったのだろう。

 一応、これでも女子高生。
 処女である。

 なに?
 凌辱されているから処女じゃないだろうって?
 生きかえるたびに体は再生されるんです。
 残るは痛々しい記憶のみ。
 それもおバカな優子によってに変換された都合のいい記憶。
 でなければ、とっくに精神が壊れているわい!

「なんで裸なのよ!」
「何を言っているのだ、俺は最初から裸だが」

 手で目を隠す優子は残った手でスクールバックの中をごそごそとあさりだした。
 そして、何かを取り出すと少年に突き出したのだ。

「これでも着てなさいよ」
「これなんだ?」
 突き出されたヒラヒラとしたものを少年は顔の前で広げマジマジと眺めていた。

「服よ! 服! あんた服も知らないの?」
「俺、ずっと裸だったからな……悪いか」
「その人間の恰好で、裸だったら不審者よ。少年と言えども不審者よ!」
「そうか……だったら、こんなものよりもっと格好いいものはないか。
 そうだな、勇者みたいな!」
 すでに少年の目はキラキラ。

 って、お前……先っきまで死にそうじゃなかったのか?
 しかも、目の前の小娘はお前を殺そうとしていたのだぞ……
 しかし、少年は初めて身に着ける服なるものに興味が移っていたのだ。

「ちょっとアンタ、言えばいいってものじゃないのよ。身に着けるには相応のレベルってのが必要なんだから。一体レベルはいくつよ!」
 優子はスクールバックの中をごそごそと探しながら確認した。

「大体のものなら大丈夫だと思うぞ。だって俺、レベル99だから」
「はい?」

「だから俺、レベル、カンストしてるから」
「はい?」

「あぁ、めんどくさいなぁ」
 少年は、先ほどの優子がしたのと同じように目の前の空間で手を振った。
 すると、またも青い光を発した板状のステータスが現れたのだ。

 氏名 ヤカンドレル=ゴールデン=ドラゴン
 年齢 902歳
 職業 ドラゴンの王
 レベル 99(負傷中)

 体力 999,999→120
 力 999→100
 魔力 999→100
 知力 299→30
 素早 200→30
 耐久 555→30
 器用 899→30
 運  5→3
 固有スキル 
 死亡回数 0

 右手装備 なし
 左手装備 なし
 頭装備  なし
 上半身装備 なし
 下半身装備 なし
 靴装備 なし

 攻撃力 999→100
 守備力 999→100

 所持金 102,999,892
 パーティ なし

 少年のステータスを覗き見る優子。
 目が点になっている。

「なっ! レベル99だろ」
 そいうと、得意げに少年はステータスをしまった。

 驚く優子は必死になって口をパクパクと動かした。
 そして、何とか言葉を絞り出す。

「あんた……本当にヤカンドレル=ゴールデン=ドラゴンって言うんだ……」

 少年は固まった。
 レベルに驚いたのではなく名前ですか……というか、先ほど名のったのに、あなた、全く信じていなかったのですか。

 いやいや、それ以外にも驚くところあるだろ!

 一応、俺、ドラゴンの王様だぞ……


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