エピソード0 Lv1のモンスターしかテイムできないと言う理由で追放されたが、どうやら俺はモンスターを進化させることができるようでスライムが幼女になっちゃた、でも、俺のパンツを下げるのやめてくれ!第一話

「アリエーヌ姫様! お下がりください!」
 俺は必死に走りながら、目の前をかけていく自称女聖騎士の背中に向かって叫んだ。
 しかし、アリエーヌ姫様と呼ばれた女は立ち止まらない。
 それどころか、ちらりと俺のほうを振り向くと捨て台詞を吐きやがった。

「うるさい! 【マジュインジャー】! 黙ってワラワの後ろをついて参れ!」
「誰がマジュインジャーなんですか! 俺には【マーカス=マッケンテンナ】という名前がありますから!」
 まぁ、このマーカス=マッケンテンナという名前も訳あって名乗らされている別人の名前だ。
 本当の名前は、【ヒイロ=プーア】。
 だが、だれも俺の本当の名前など知らない。

 まぁ、それはどうでもいい。
 というか、今は、それどころではないのだ。

 アリエーヌが走る先には、この世界の悪の根源である魔王【ドゥームズデイエヴァ 】が立ちふさがっているのだ。
 始まりの王にして最後の王。
 身の丈、四階建てぐらいあろうかという大きな黒い影。
 手があるところからは無数の触手がウネ狂っている。
 怒りに満ち満ちた赤い目が、さきほどから俺たちを睨みつけていた。
 奴の胸についた大きな二つの光球がだんだんと輝きを増しているのが、妙に気になる。
 ……というか、この状況、マジでヤバいって!
 このデカ物は、俺たちの住んでいるキサラ王国軍の騎士たちが、その総力をもってしても倒すことができなかった魔王だぞ!
 アリエーヌ! お前! 勝てるとでも思っているのか?
 いやそれより、マジで生きて帰れると思っているのか?
 ありえへん! ありえんやろ! マジで! ありえぬっ!

「だから、アリエーヌ! ちょっと待てぇ! 大体、お前! まだ騎士養成学校の学生だろうが!」
 もう、俺は『姫様』すらつける余裕がなくなっていた。
 というのも、このアリエーヌ、キサラ王国の第七王女【アリエーヌ=ヘンダーゾン】様なのだ。
 いわゆる、お姫様ってやつ。
 本来、第七王女というものは、教養でもつけて他国との政略結婚にでも使われるのだろうが、こいつは……ダメだ。
 というのも、アホなのだ。
 見かねた国王が、その権力を使って名門である王立騎士養成学校にねじ込んだ。
 せめて、騎士という肩書でもつけさせようと思ったのだろうか?
 それとも一から教育をし直そうとでも思ったのであろうか?
 大方、モンスターにでもプチっと潰されたいいなぁとでも思っていたのでないだろうか。
 だって、そう思いたくなるぐらいにアホなのだ。

 まぁ、見た目はいいよ。すごくいい。
 おそらく、騎士養成学校で断トツ1番になるぐらいに可愛いと思う。
 すらっとした身長に白い肌。
 長いまつげに切れ長の金色の瞳が美しい。
 そして、ヘンダーゾン家は王の血筋でもあり、名門騎士のお家柄だ。
 当然、ほかの男兄弟たちは、騎士養成学校で優秀な成績を修め騎士となり国軍を率いている。
 これだけ見ると、本当にお姫様なんだなと思う。

 だけど、中身がすごい残念……
 例えば、この前の数学の授業の時なんて黒板の前で、チョークを口に当て、真剣に悩んでいた。
 彼女の長い銀髪が10分ぐらいずーっと傾いたまま動かない。
 その姿があまりにも真剣なものなんで、さすがの教師も恐れ多くて手助けすることができなかった。
 どうやら、黒板に書かれた問題が解けないようなのだ。
 そんなに難しい問題なのかって……いやそんなことはないよ。
 だって、問題は姫様に忖度して『7×6=』なのだ。
 一応言っておくが、この姫様、俺と同じ15歳だ。
 掛け算の九九などとうに終わっていていいお年頃。
 だけど、解けないのよ。
 本人曰く。
 計算なんて婆やがやってくれるからしたことなかったのよね! だそうだ。

 実技に至っては絶望的。
 魔法は、長々と連なる詠唱をつまってしまい、まったく発動しない。
 要は記憶力がないのだ、記憶力が。
 仕方ないので、教師が幼稚園児用の魔法を教える。
「炎よ出でよ!」
 指先から小さな炎が出た。
 それで、きゃっきゃっと喜んでいる。
 可愛い……
 教師も仕方ないから、進級試験にサインする。
 はい! 合格!
 何に使うねん! こんなもの!

 剣技……剣技はねぇ……
 まず、練習用の鉄の剣が重たくて持ち上げられないのよ。
 スプーンより重たいものは持ったことがないんだってさ。
 仕方ないから、王国中の道具職人かき集めて、貴重なミスリルふんだんに使ってさ、それでも、まだ重いから、魔法を道具に刻みこむ。
 ハイ完成!
 鳥の羽よりも軽いレイピアができましたとさ。
 そのレイピアで剣技の練習するわけですよ。
 でもね……そんな姫様にガチで打ち込める奴なんて、いやしないですよ。
 姫様がレイピアの先でちょこんとつつくと、わざとらしく皆、倒れるの……
「や……やられたぁ……」
 その横で、姫様、きゃっきゃっと喜んでいる。
 可愛い……
 まじ可愛い……
 はい! 合格!
 教師も進級試験にサインするしかないよね、人生かかってるんだから。

 まぁね、ここまでだったら可愛げがあるのよ。
 守ってあげたいって思えるもんね……
 問題は、性格。
 これが、悪魔的。
 アホのくせに、どんだけ上から目線やねん!
 完全に俺様!
 自己中の塊。
 まぁ、だれも止められないから仕方ない。

 調子に乗ったアリエーヌ姫様、何をトチ狂ったのか知らないが魔王を討伐するためのパーティ結成するんだってよ。
 名前は【チョコットクルクルクルセイダーズ】!
 廊下の壁に、参加者募集のチラシを自らが黙々と貼っている。
 慣れないせいか、もたもたする姿が意外に可愛い。
 なにがクルクルクルセイダーズだ!
 お前の頭がクルクルパーだ!
 チョコットどころか、かなりのクルクルパーだよ!
 バカじゃないか!
 だれがそんなパーティに参加するんだよ!
 って思ったら、もうすでに列をなして並んでやがる。
 どいつもこいつも、姫様にそんなにごまをすりたいのか、率先して参加希望を出しやがる。
 お前ら……プライドはないのかよ。
 まぁ、よく考えたらこれ、姫様の冒険ごっこだもんな。
 危険なんかあるわけがないか。
 それどころか姫様と近づけば、将来、学校を卒業した後の士官にも有利だし。
 でも、それを見たアリエーヌ姫様からの仰天のお言葉。
「愚か者ども! お前たちごときがワラワのパーティに参加できるとでも思っておるのか!」
 だってさ! だったら、募集なんてすんなよ!
 それで決まったパーティメンバーが、俺を含めて四人。

 別に俺は参加したかったわけじゃないんだよ。
 成績優秀ということで、国王から無理やり命じられて、お目付け役として入れられただけだから。
 国王の命令だからアリエーヌ姫様も渋々従うしかなかったらしい。
 問題は、のこりの三人。
 これまた……どうして、この三人。

 学校におけるアリエーヌの総合成績は、下から数えて4番目。
 さすがに進級はさせてもらえるものの、通常の成績評価までは無理だった。
 まぁ、仕方ない。
 試験はみな平等にしないとね。
 ならば、評価点として下駄を履かせたいのだが、普通の下駄では間に合わない。
 天狗が履く一本歯下駄でもまだ足りない。
 これは無理だって!
 まぁ、留年はしてないんだからいいよねってことで、とりあえず通常試験は見ないふり。
 かといって、そんな姫様をバカにできるやつなどいやしない。
 だから、姫様自身も、あまり気にはなされてはいないご様子で。
 よかったよかった。

 そんなアリエーヌ姫様の成績の後ろには3人を残すのみ。
 アリエーヌのやつ、よほど自分よりも賢いやつをパーティに入れたくなかったのだろう。

 このアリエーヌよりもアホな連中が、今、俺の横を走っているこのバカ3人組なのだ。

「よし、オレも突っ込むよ!」
 手に持つ聖剣を上段に構え、アリエーヌ後を追うこの女、名前を【グラマディ=ボインジェンヌ】という。
 女戦士というだけあって、血の気は多い。
 戦いとなると、後先考えずに突っ込んでいくタイプだ。
 だが、見た目は高身長のグラマラスな女性。
 長い金色の髪が、きらびやかに映える。
 とても俺たちと同じ15歳には見えない大人びた表情。
 ドレスでも着て静かに立っていれば、言い寄ってくる貴族の男などいくらで湧いてきそうである。
 だが、そんな彼女の口癖は『攻撃は最大の防御なり! 責めて責めて責め落とす! だから俺は騎乗位が好きなのさ!』だそうだ。
 敵を見つけたら、とにかく叩くという脳筋バカ。
 おそらく防御という単語は、奴の辞書には載っていないのだろう。
 それを体で表すかのように身に着ける鎧はビキニアーマー、ただそれだけ。
 そのビキニアーマーも胸につく巨乳を覆いきれないのか、少々盛り上がりはみ出している。
 こんな肌の露出の多い鎧で、身を守れると本当に思っているのだろうか!
 というか、その装備でこれから魔王【ドゥームズデイエヴァ 】と戦うつもりなのか?
 バカなのか!
 でもたしかに、こいつの持っている武器はすごいんだよ、武器はね。
 この王国の三大貴族であるボインジェンヌ家に代々伝わる聖剣パイズリアー。
 一振りで二山をも消し飛ばすといわれる聖剣だ。
 その聖剣を勝手に持ち出して、事あるごとに振り回しているのだ。
 コイツ、この剣の価値分かっているのかね。
 おそらく、下手な国だと、まるまる一国買えるぞ……マジで。
 だけどね……こいつもまったく使えねぇ……
 武器を使うには、それ相応のレベル、スキル、熟練度というものがいるのは常識だよな。
 だけど、こいつには何にもねぇ……
 レベルも熟練度も足りないから、その聖剣使いこなせてないんだよ。
 ただ、聖剣を振り回しとるだけ……もう、50ゼニーで売っている普通の鉄の剣のほうが強いぐらい。
 聖剣パイズリアーが泣いとるわ……
 一応、彼女の名誉のために言っておくが、おそらく処女だ。
 口ではああ言っているが、まだ男に体を任せたことはないと思われる。
 だが、酒を飲むとアリエーヌの乳をもむ変態へと変ることは間違いない。
 学生が飲酒⁉
 まぁ、不良であることは否定しないが、あいつの言うことを真に受けてはいけない。
 アルコールといっても、度数0.001%未満のカクテル風ジュースだ。
 コイツはアサリの酒蒸しを食っても酔える凄いやつなのである。

 そのグラマディの後ろを懸命についてくるのが【キャンディ=ワインハンバーガー】。
 女司祭である。
 一応、このパーティ【チョコットクルクルクルセイダーズ】の回復役を担っている。
 だが、回復系とは名ばかりで、奴が魔法を唱えると、なぜかみんなマヒってしまう。
 ならばといって、回復薬を調合すると、ケルベロスでも腹を下しそうなダークマターが出来上がる。
 もう、回復系ってなに? って疑問符がついてしまう。
 だが、奴曰く、自分は、この【チョコットクルクルクルセイダーズ】の癒しキャラだそうである。
 確かにその見た目、そういえなくもない。
 その小さき体は、とても15歳には見えない。
 どちらかというと、初等部3年生の女の子。
 まだ、胸すら膨らみ始めていない。
 緑の髪をツインテールにまとめあげ、いつも、何かをほおばっている。
『食べないと大きくなれないやろ』というのが言い分だ。
 こう見えても、このガキも、家柄はいいのだ。
 三大貴族であるワインハンバーガー家の次女である。
 ワインハンバーガー家は、デブの家系だ。
 その中でひときわ小さな体のキャンディは異色の存在だった。
 それを気にしてなのか、いつも何かを食っている。
 その食う量はすさまじい。
 もうキサラ王国にある大食い店は、すべて出入り禁止となっている。
「ウチ……おなか減ったわぁ……はよ、あの魔王やっつけて帰ろうや……」
 お前、今でもスルメかじっとるだろうが!
 というか、お前、子供のお使いみたいにあの魔王【ドゥームズデイエヴァ 】を倒せるとでも思っているのか!
 馬ぁ鹿か!
 本当にバカなのか!

 そして、俺の逆サイドをちょこちょこと走っている女。
 この女は【グラス=エアハート】
 三大貴族エアハート家の3女である。
 職業は賢者。
 一応、このパーティ【チョコットクルクルクルセイダーズ】では、まともに魔法攻撃ができる使えるやつである。
 ただね……
 この娘、コミュ障なんですよ。
 話しかけても、何も答えない。
 それどころか、いつも何かブツブツとつぶやいている。
 というか、走っている今でも青色のショートの髪を揺らしながら何かをつぶやいておりますわ。
「なぁグラス……走りながらつぶやくと舌かむぞ!」
 ちょっと心配になった俺は、おせっかいとは思いながらも忠告した。
 というのも、こいつの炎撃魔法ぐらいしか、攻撃手段がないのである。
 今、こいつに舌でもかまれたら、その詠唱すらおぼつかなくなるのだ。
 だが、やはり、思った通り返事は返ってこない。
 まぁ、いつものことだ。
「マジュインジャー! だから、それはまずいって何度言ったらわかるのじゃ!」
 先を走るアリエーヌが、振り向きながら叫んだ。
 そうだった……忘れていた。
 俺の問いかけに抗うかのようにグラスのつぶやきが大きくなった。
「327375064260624299412032……僕の邪魔をするなぁぁぁあ!」
 アリエーヌをはじめ他2人の表情が急に引きつった。
 さも、俺が爆弾のスイッチを押したかのように、急いで距離をとって離れていく。
 今、グラスが唱えているのは魔法ではない。
 ただの円周率。
 この円周率を日がな一日、ずーっとつぶやいているのだ。
 この娘、内気で小心者。
 だから、だれともお話しできないものだから、独り言で円周率を唱えているんだとか。
 本当かどうかは知らない。
 だって、それを教えてくれたのはアリエーヌだから。
 ただ、問題は、この円周率の詠唱なのだ……
 この詠唱を邪魔しようものなら、この娘……いきなり大豹変。
「奈落の底で遊惰ゆうだせし
 悠久ゆうきゅう有閑ゆうかんの時を嗟嘆さたんする
 燎原りょうげん業火に身を焦がす
 鬱勃うつぼつの炎龍
 我が盟約に従い、現出せよ
 たぎれ! たぎれ! 煮え滾たぎれ!
 地獄の深淵より湧きいでし灼熱の業火
 この世の生なるものを焼き尽くせ!
 これこそが! 炎系究極魔法!
 ヘルフレェェーィム」
 轟音とともに火柱が立った。
 もうね、手当たり次第に炎撃魔法をぶちかます。
 もう、だれも止めることができません。
 彼女の魔力が尽きるまでこれが永遠とつづきます……
 終わった……
 もう、なにもかも終わった……
 終わった後は火の海の地獄。
 何も残らない、焼け跡。
 まるで、戦争でも起こったかのような惨状なのだ。
 ただね、魔王はもう少し向こう側なのだよ……
 どうして、あと少し、魔王の元まで待てなかったのかな……この娘。
 ここで魔法切れ起こしたら、これから先、どうやって戦うのよ、俺ら……
 爆心地の中心で口から煙を吐きながら俺は思った。
 コイツも、やっぱり使えねぇ……

 最後に残るメンバーはこの俺!
 今までのメンバーを見ていたら、きっとお前も使えない奴だろうだって?
 バカにしてもらっては困る。
 俺は、これでも、騎士養成学校ではトップの成績を修めているのだ。
 まあ、勉強そのものは嫌いではなかったので苦ではない。
 問題は、実技だ。
 騎士たるもの武術をもって尊しとする。
 だが、俺の体はひょろひょろのガリだ。
 身長も、同年代の男たちと比べると一番小さい。
 いつも並ぶときには、一番前に並ばされる。
 まぁ、男には成長期というものがある。
 俺には、その時期がまだ来ていないだけなんだろうから、焦る必要はない。
 だが、魔法には、そんな体形は関係ないから超うれしい。
 ただ、魔法使い系ではない俺には、使える魔法が限られてくるのが残念だ。
 回復魔法ぐらい使えれば問題はないだろう。
 なにせこの【チョコットクルクルクルセイダーズ】には、俺意外に回復系がいないのだから。
 そして、剣技はもっとすごいぞ。
 これでも、王国軍の騎士団長を練習試合でぶっ倒したことがある腕前だ。
 見直したか?
 実はこれには少々カラクリがあるんだけど。
 というのも、おれの職業は【魔獣使い】だ。
 剣士などではない。
 驚いたか?
 魔獣使いというのは、この世にあふれる魔物、いわゆるモンスターをテイムして使役することができる職業だ。
 モンスターというのは、魔王の使いのため嫌われる存在である。
 それを使う魔獣使いもまた、好かれる職業ではない。
 そして、モンスターもまた、動物とは違い人間に簡単に懐くようなことはしないのだ。
 そこで、魔獣使いは自らの能力を使って、強制的にモンスターを自分の支配下に置くのである。
 使役するのはモンスター。
 その命の替えはいくらでもある。
 だから、魔獣使いが使役するモンスターは、闘いの前面に押し出されるか、壁役として使われることが多かった。
 まぁ、使い捨ての道具みたいなものである。
 だがどうしても使役するモンスターの力量によって、その魔獣使いの働きいかんが決まってくるのは仕方ない。
 強いモンスターを使役すればするほど役に立つ。
 逆に、弱いモンスターだけだと、正直、全く使い物にならなかった。
 そして、一番の欠点、モンスターが入れ替わると魔獣使いの強さも変わる
 そのため、安定して戦闘に参加させることが困難な職業であった。
 なら、俺がテイムできるモンスターが強いのだろうって。
 残念ながら、俺の能力ではレベルの高いモンスターをテイムできなかった。
 だが、逆に、LV1のモンスターなら、どんな奴でもテイムできた。
 しかし、LV1といえば生まれたてのモンスターである。
 なら、ケルベロスのように強いモンスターの赤子を見つけてテイムすればいいじゃないかと思うだろう。
 だが、強いモンスターというのは、生まれたときから、レベルがそこそこあるのである。
 残念!
 だが仕方ない。これも運命だ。

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