過去の自分に鉄槌を下してみる
当時東大の3年生だった俺は、外資系の投資銀行とコンサルティングファームから内定をもらい、辞退して起業した。平たくいうと、ちょーいい切符を手放してしまった。そんなどうしようもなくアホな自分に怒りの鉄槌を下すべく、当時を振り返りたい。今これを読んでいる未来ある諸君は、ぜひこれを他山の石として、同じ過ちを繰り返さないようにしていただきたい。心して読むように!!!
まず、俺は祖父が実業家だったり小学生の時にジョブズに憧れたりして、ずっと起業への憧れがあった。しかし鼻をほじったりバンドに明け暮れたりしている間に大学も3年生となっていまい、①グローバルに通用するキャリアを築く、②トップクラスの企業群の経営の実情を知る、という二軸から、5~6社の外資系企業に絞って就活を始めた。そしてなんだかんだオファーをもらった。
一方、起業への憧れは萎えず、いろいろ調べたり考えたりしているうちに良さげなアイデアと出会った。しかも、すごく良いエンジェル投資家に出資を提案してもらえるという状況になった。
こうして、俺は就職するか起業するかという分岐点に立った。いや、分岐点とはいうが、普通に考えたら就職した方が良い。就職してからでも起業はできるし、いきなり年収1300万だし。お金だけじゃない。合コンでもモテモテらしいじゃん。あのサトミ=イシハラだって夢じゃないんだぞ!?
そこで、俺は色んな人に話を聞きに行くことにした。
その過程でもらった言葉は、今なお行動の指針となっている。これからも立ち返るであろう普遍的な言葉だった。それを共有したいと思う。
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①冨山さん(IGPI創業者)
俺の親戚に元興銀の人がいる。でも今は興銀なんて誰も知らない。かつて東芝は理系学生にとても人気があった。でも今はああなっている。20年前、JALの株が紙屑になると思っていた人はいなかった。当時俺が子供ながらに感じていたこと、それはまさに「過去の議論は有効性を失っている」ということだった。
②南場さん(DeNA創業者)
図らずとも冨山さんと同じことを言っている。それは「自分の頭で考えろ」ということ。
③内定先(コンサルティングファーム)の偉い人
この言葉を受けて、当時の俺は「じゃあ今やった方がいいな」と思った。超絶ド級のアホである。この後自分で経営し、その真意を悟ることとなる。「感覚で経営をやっちゃいかん」はまさに金言であった。おそらく「ウチを経た方が勝率が上がる」というのも正しい。基本的にこの方は正しい。正しすぎて、別の道を選びたくなったのかもしれない。
④内定先(投資銀行)の偉い人
俺がいなくてもバンカーは足りているが、俺がいなかったら存在しない事業があるかもしれない。自分のモチベーションの源泉が本当はどこにあるのか、自分をごまかさずに考えるとどうなるだろうか。親身な言葉をくださったことに心から感謝している。
⑤友人の高校時代の恩師
俺はこの先生となんの面識もないが、友人が教えてくれたこの言葉をずっと大切にしている。何もやっていないのに、先が見えた気になっていやしないか。冒険してみなければ、自分が何者かすらわからない。
⑥大学のちょっと変わった友人
これは進路相談ではなく、何気ない普通の会話の中で言われた。そのとき、この言葉に喜んでいる自分ってなんなんだろうか、と自問し始めた。なんにせよ、こんなにありがたい言葉をくれる友人は何様ではなく仏様である。
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特に判断に影響したのはこの六人の言葉だが、他にも色んな人を回って、結局4ヶ月ほど悩んだ。そして、起業する方を選んだ。最後は直感だった。
真剣に考えた結果、なんとなくそっち(就職)じゃないような気がした。あまり賢い選択ではないな…と思いつつ、やらずにはいられなかった。あと、「もし自分の可能性を信じるなら、なぜやらないのか?」というリトル俺の問いに答えられないと思った。ちなみに腕時計は両腕につけていない。
やらずにはいられなかった…ってなんだそれ!って感じだが、それがリアルな感覚なんだから仕方がない。ただセリフが犯罪者っぽいな。一応シャバの話なんだけど。
さて、そんなわけで俺はイーストブルーのルフィよろしく出航したわけだが、その後わりと苦労して事業は早々に失敗する。ワンピースでいうと百計のクロにぶちのめされた。アーロンですらない。序盤のメガネ。まあとにかく失敗した。過去の自分に鉄槌を下すなんてほざいているのはそういうわけである。
ただ薄々みなさんも気付いている通り、俺は過去の自分に鉄槌を下すつもりは全くない。なぜか。それは自分の頭で考えて、自分で決断したからだ。自分で決断すれば、後悔はしない。そして失敗はしたが、むしろ早いうちに失敗できてよかったと思っている。起業してから本当にたくさんのことを学んだ。この経験を活かせば、次はクロコダイルぐらいまでいけると思っている。空間的にも時間的にも大きなスケールで考えれば、これぐらいのつまずき、なんということはない。いつかラフテルに到達すればそれでいい。
これを読んでいる未来ある諸君も、まさに俺を参考として、愛すべきアホとなり、ガンガン出航してほしい。海に出れば失敗するリスクがあるのは当然のことだ。コロンブスがすごいのはそこに何があるか誰もわからない時にアメリカを目指したからだし、ルフィはワンピースがあるかどうかわからないのに出航した。そもそも、人生は最適解に向けて最短ルートを設定できるような出来合いのゲームではない(ですよね先生)。
君が会社を立ち上げたら、もしかしたら世界が変わるかもしれない。君の作ったロケット航空会社が東京とローマを4時間で結び、国際カップルが激増するかもしれない。君の作った建設会社が災害に苦しむ街をあっという間に立て直し、その街で育ったエースが3試合連続で完全試合をするかもしれない。君の作った製薬会社が難病を治し、ついでにハゲの薬を開発するかもしれない。そして孫さんにも髪が生えるかもしれない!これもうワンピースよりミラクルじゃないか。そろそろ日本からそういう会社が生まれたっていい。日本人はキャッチアップが得意で新しいものは生み出せないとか、そういうシャバ僧はもうやめようや。君ならできる。安藤百福はカップヌードル作ったし大谷だってホームラン王とったんだから。
話を戻すと、どういう道を選ぶのかってことに正解・不正解はない。コンサルや投資銀行にいった友達も充実した日々を送っている。俺が路頭に迷ったらしばらく養ってくれるらしい(絶対約束だからね!?)。まあ結局、自分がどんな人間でありたいか、ということだと思う。その人がどんな人間か、というのは、その人が何を捨てたかによってハッキリする。何かを捨てないと何かに賭けることはできない。
もちろん物事の因果関係はそれほど単純ではないから、賭けた結果がどうなるかはわからない。成功には運、タイミング、数多の事象が絡む。でも、自分の生き様、スタイル、振る舞いは自分で決めることができる。世界を変えるような会社ができるかどうか、それはわからないけど、そこに挑戦する生き様だけは誰にも奪えない。そういうわけで俺は、一旦このスタイルでやっていこうと思っている。
そしてまだ迷ってる君へ。
別にどんな選択をしたっていい。
ただ最後にこの曲をプレゼントしたい。
きっと助けになってくれると思う。
追伸:先月投資銀行の友達と合コンに行き、全員轟沈した。
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番外編
元日から能登で大地震が起こった。今、復興のために必死に働いている人達がいる。その多くは現場にいる。電線を直す人たち、物資を運ぶ人たち、病院や駅やお店や、あと俺の想像がつかないほど色んなところにいる。この人たちの給料はそんなに高くない。でも、この人たちは替えが効かない。
ドイツのメルケルっていうオバハンは、こういう人たちのことを「エッセンシャルワーカー」と名付けた。このオバハンはワードセンスに長けていて、噂によると首相もやっていたらしい。"Essential(エッセンシャル)"は「替えが効かない」って意味だ。「替えが効かない人」だから「エッセンシャルワーカー」。わかりやすい。
東京本社のオフィスでふんぞりかえってるコンサルタントが一人消えても誰も困らない。でもこういう人たちが一人消えたら?明日から困る人がたくさんいる。困るどころか、生命を維持できなくなる人もいる。
ところが、さっき言った通り、この人たちの給料は高くない。確かに、この人たちはデジタル化が進むグローバル経済の中で競争力が高いわけじゃない。同じ労働をできる人は世界中にたくさんいるから。だから、この人たちの所得を倍増します!といっても、日本が鎖国でもしない限り、それはできない。鎖国をしてもむずかしいかもしれない。
一方、投資家や起業家といった資本家は、広がる世界経済とデジタル化の波に乗ってどんどん富がふくらんでいく。だから、苦しい生活を送る人たちの持つ憎悪や妬み、いわゆる"ルサンチマン"もふくらんでいく。歴史を振り返ると、その先には暴力による平準化しかない。つまり戦争か革命だ。おおげさに聞こえるかもしれないけれど、ここ10年の間にイギリスやアメリカで起こったことは、その兆候だと思う。
したがって、今俺達は大きな課題に直面していると言える。第一に、人類を前進させるイノベーションを起こしつつ、その帰結として生まれつつある格差の拡大にどう対処するか。第二に、大幅な所得の向上が見込めないエッセンシャルワーカーの人々がどれだけ豊かに、誇りを持って暮らせる社会を作るか。第三に、日本に限って言えば、資本主義のゲームに負けず、世界中の人々の生活に貢献できる革新的な企業をどう生み出すか。
はて、どうしたもんか…。俺にはまだわからない。多分、誰もわかってない。ただ、この課題から目を逸らして、既存のピラミッドを一目散に駆け上がることだけは間違いだとわかる。俺達にはまだ時間があるから、色んなことを自分の目で見て、現場に足を運んで、ゆっくりと自分の頭で考えていこう。
これを読んでいる君は、もうとっくに起業する覚悟を固めていると思うんだけど(そんな必要は全くない)、もしうまくいったらエリートってやつの仲間入りなわけだ。そうなった時は、一緒にその力をみんなのために使ってみようぜ。どうなるかはわからんけど、きっとうまくいくよ。
就職か起業か悩んでいた頃、日記にこんなことが書かれていた。なんでこんなことを書いたのかもわからないし、眠かったのか日本語がおかしいけど、そのまま載せる。
その心意気に恥じないような、かっこいいおじさんになりたいと思う。
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