BBE SONIC STOMPについて調べたこと

<注意>
当記事に記載している内容およびそれによって生じた不具合について、私は一切の責任を負いません。それでもよければご覧ください。

はじめにBBEがあります。
BBEとは何かについては下記を参照してください。
http://www.bbesound.com/licensing/new-era.htm
日本語で読みたい人は次のリンク先を見るのもいいでしょう、というかこちらのほうがより詳細です。http://blog.ippinkan.com/archives/20010729121207 (2009年までBBE Sound, Inc.は日本に事務所があり、その時期にリリースされてた資料の抜粋のようです)
要してしまうと、BBEプロセスの背景には「スピーカーから出力される音は高域の位相が遅れるから、位相を調整して原音に近づけよう」という思想があります。技術的には「帯域分割した後にフィルタで低域(150Hz以下)を約2.5msec、中域(150Hz~2.5kHz)を約0.5msecを遅らせる」という方式で達成させているようです。
この思想に関しては少し引っかかる部分(録音物は製作者がスピーカーやヘッドホンで聞いて調整した上でリリースされているので、それを更にユーザーが調整するのは製作者の意図から外れるのでは?とかそういった類のもの……)もありますが、低~中域を遅らせることでアタックが見えるようになるという考え方は理に適っていると思いました。また、そのためにフィルタによる群遅延を利用するというのも面白いです。

このBBEプロセスですが、Sonic maxmizerと呼ばれている音響製品群に搭載されています。そしてこれらの現行品には、新日本無線から供給されているICであるNJM2150ないしはNJM2153というICが搭載されているようです。2つのデータシートの現在のリンクを下記に貼ります。
NJM2150:https://www.njr.co.jp/products/semicon/PDF/NJM2150_J.pdf
NJM2153:https://www.njr.co.jp/products/semicon/PDF/NJM2153_J.pdf

この内のNJM2150についてインターネットで調べると、こちらはSonic stompという主にエレキギター・ベース向けでの使用が想定されている機種に搭載されているようです。この機種には、PROCESSとLO CONTOURの2つのコントロールがあります。今は亡きBBE Sound, Inc.の日本語サイト(http://bbesound.jp/)の該当製品のページをインターネットアーカイブで見ると、「PROCESS:高域の位相修正量を調整、LO CONTOUR:低域の位相修正量を調整」とありました。しかしながら、NJM2150のデータシートを見ると、低域と高域のブースト量は2段階の切り替え式と書いてあります。また、位相修正量でなくブースト量と明記してあります。この2点の疑問を解決するために、Sonic stomp実機を購入して回路起こし・シミュレーションをすることにしました。

回路図とシミュレーション結果

Sonic stompの回路起こしを行い、その回路を元にLTspiceにてシミュレーションを行いました。まず回路図を載せます。下記の図1がそれです。

図1 回路図

※この回路には嘘があります。まずD1は1N4007で、またオペアンプはTL072を使用していました。また、緑点線部NJM2150について、内部の定数はわからなかったのでシミュレーションでそれっぽくなるようにしています。具体的にはU2の増幅回路でフラット狙い時に0dB近傍になるようにしている感じです。また、シミュレーション時にはD1はショートしてます。これがあるとシミュレーションにえらく時間が掛かったので……

回路としては、まずエレキギター・ベースの信号を受けるために高入力インピーダンスのバッファで受けてNJM2150で構成されているステートバリアブルフィルタに入力、フィルタから出力されるHPF・BPF・LPFを加算回路で受けて出力という構成です。

加算はNJM2150外部の加算回路にて行われており、NJM2150内蔵の加算回路は使っていません。そのため、低・高域のブーストは2段階の切り替えでなく、可変抵抗(回路図中のVR1:50kΩB、VR2:50kΩB)による連続調整が可能となっています。これによりまず第一の疑問が解消されました。

次に第二の疑問であるコントロールできるのはブースト量と位相修正量のどちらなのかについてです。VR1・2を変化させた際のゲインフラット狙いおよびゲイン最大変化時のゲイン特性と群遅延のシミュレーション結果が下記の通りです。

図2:ゲインフラット狙い

図3:最大変化時

実線がゲイン特性、点線が群遅延です。図2と図3で比べてみると、ゲイン特性も群遅延も変動していることがわかります。なのでこれは個人的な意見ですが、見た感じゲイン特性のほうが有意な気がします。また、図2のゲインフラット狙い時でも位相としてはBBEプロセスの振る舞いをしているってところが、この回路のミソなのではと思います。
ていうか全然関係ないですけど、この周波数特性なら普通にギターアンプのトーン回路として使えそうですよね……

まとめ

・BBE SONIC STOMPはNJM2150を使用しているが、内部の加算回路は使用していない
・2つのコントロールで変化させるパラメータは、ゲインと位相だとゲインの影響が強い
・ゲインがフラット狙いの場合でも群遅延が発生するので、BBEとしての効果がある

ついでにその他の雑多なメモ書きを置いておきます。
・フラット時のゲイン特性について変化させたい場合は、低域はC2、高域はC7を変えること
・NJM2150はステレオ動作可能なのにこの回路では片chしか使ってないので少しもったいない
・NJM2150内蔵のゲイン切り替えについてのピンはGNDに全部落としてある
・NJM2150内部の定数はテキトーなので、もし自作するなら図1の回路図よりインターネットで検索して出てくる回路図の方が確実です。あれらは普通のオペアンプ・定数の部品を使うことを想定してあるので……

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