吉野朔実先生の投稿作品について

前置

吉野朔実先生の投稿作品について調べたいと思ったので調べました。それはなぜ?わかりません、でもなんか調べなきゃいけない気がしたんです。

まず調査期間と対象を決めるために、デビュー前について語っていらっしゃるインタビューを探しました。結果、『ぶ~け1980年1月号』(集英社)の吉野先生デビュー時の記事、『まんが専門誌ぱふ 1982年1月号』(雑草社)の「雑誌の表情Part1「ぶ~け」」特集の2件が見つかりました。(他に投稿時代の情報が記載されているインタビューがあったら教えてください!)

― まんがを描きはじめたのはいつ頃ですか?
吉野 (前略) ペンを持って持って描きだしたのは、高校2年の時、1年に1作程度でした。真剣に描きだしたのは、ここ半年54年の6月頃からです。
(『ぶ~け1980年1月号』、集英社、1980年、p308)
― デビュー以前の作品は何作位ありますか?
吉野 「花とゆめ」投稿していた時のがけっこう多くて「別コミ」も入れて七、八本かな。
(中略)
― 本気でまんが家になりたいと思ったのはいつ頃でしょうか?
吉野 投稿しはじめた時だから、高校二年生位の時。
― その投稿は、はじめから「ぶーけ」だったんですか?
吉野 いえ、一番最初に出したのは「別冊少女コミック」で、その後「花とゆめ」に何度か出しました。
(『まんが専門誌ぱふ 1982年1月号』、雑草社、1982年、p91)

吉野先生が雑誌への投稿を始めたのは高校2年生ぐらいの時とのことです。吉野先生の生年月日は1959年2月19日ですので、高校2年生となるのは1975年4月からです。ただ、ぱふのインタビューでは「ぐらい」とおっしゃっていますので少しバッファをもたせ、調査時期のスタートは1975年1月からとしました。また調査時期のエンドですが、こちらはデビュー作『ウツよりソウがよろしいの!』が掲載された『ぶ~け』1980年1月号にあわせて1979年12月としました。
続いて調査対象ですが、前述の発言の通り『別冊少女コミック』、『花とゆめ』、『ぶ~け』の3誌としました。
この期間・対象の各誌の投稿コーナーで「吉野朔実」というペンネームが受賞されていたり、掲載されているかを調べていきました。

調査結果

結論から言うと下記の通りでした。

『別冊少女コミック』・・なし
『花とゆめ』・・2件
『ぶ~け』・・2件


まず、別冊少女コミックから。こちらでは一点も見つけることが出来ませんでした。別冊少女コミックの投稿コーナーは「別冊少女コミック新人賞(1977年4月まで)」と「まんが学園」の2つがあるのですが、どちらも投稿者全員のペンネームが記載されない(○○賞とかにならないと載らない)形式でしたので、投稿したが賞には至らなかったということだと考えられます。当時の別冊少女コミックは吉野先生が敬愛していた萩尾望都先生や大島弓子先生が執筆されており、まずこの雑誌に吉野先生が投稿したのはわかる気がします。

次に花とゆめです。こちらは2件ありました。

「愛玩の日々」(『花とゆめ 1978年11月20日号』、白泉社、1978年、p248)


「化学と雨のプロローグ」(『花とゆめ 1979年6月20日号』、白泉社、1979年、p350)

絵柄を見ると既に初期の吉野先生の感じが出てるように思えます。講評もその後の作を知っているとどこか面白く思えるところもあるんじゃないでしょうか。

最後にぶ~けです。こちらも2件です。

「なんてせつない黄昏時」(『ぶ~け 1979年10月号』、集英社、1979年、p320)


「ふりしきる夢」(『ぶ~け 1979年12月号』、集英社、1979年、p352)

前述した『ぶ~け』でのインタビュー通り、「化学と雨のプロローグ」以降はかなり短いスパンで投稿を重ねており、プロになるぞという意志が明確に感じられます。その上、ぶ~けは創刊が78年9月と比較的新しい雑誌であり、ぶ~け編集部としても看板になるようなぶ~け生え抜き作家を育てたい意志があったようです。
この「ふりしきる夢」が掲載された次号の『ぶ~け1980年1月号』にて、吉野先生はデビューしました。

余談

調査方法について「吉野朔実」という名前が掲載されているかで調べたと書きました。さて、ご存知かもしれませんが「吉野朔実」というのは「吉野」も「朔実」もペンネームです。下記は『グレープフルーツ 第21号』(新書館)の引用です。

― 「吉野朔実」というお名前は本名なんでしょうか。
吉野 ペンネームです。本名はちょっと変わっていて、本名が載ると友達にわかっちゃうでしょう、それでペンネームを考えたんです。すごく桜が好きだったので、桜の名所の「吉野」。「朔」は桜が咲くのさくで文字は萩原朔太郎の朔です。「朔実」を「朔美」と書く方も多いんですけど、「実」の字のほうが好きなんです。
(『グレープフルーツ 第21号』、新書館、1985年、p169)

なんでこんなことを書くのかというと、調べてる中で「○○(わりあい変わった名字です)朔実」さんという方が掲載されていたんですよね…変わった名前、それに間違えられやすい朔実の『実』までカブることってあるんでしょうか……
絵柄も初期吉野作品から遠く思えてイマイチ確証がないので明記は避けますが、もし興味があれば調べるなりなんなりしてみると楽しいと思います。

最後に戒めの言葉を引用しておわりです。

「彼女の情報(データ)をどんなに集めてもそれは彼女にならないんだからね」
「それはどこまでいっても所詮ハルタの中のこと」
「現実の彼女はいつもハルタの外にいるんだからね」
(吉野朔実『恋愛的瞬間』1巻、小学館、2002年、p30)

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