単巻マンガのススメ (case of pennzou)

はじめに

この記事では単巻マンガで自分が好きなものを挙げています。これは以下のnoteに触発され発生したものです。レギュレーションの確認などのためにご一読頂けると助かります。

(次はあなたの番ですなんて言われてしまいますとそりゃ書きますよそりゃ…ストロボライト……確かに宙を仰いじゃいますね…青山景先生……)

なお上記noteはイトイ圭先生のツイート由来で知りました。

『花と頬』、2019年発刊の私的大注目作でした。とてもとても好きな作品の一つです。

話を戻します。レギュレーションは上記noteの通りで、明記されていませんが短編集は外しているようなのでそれにも則っています。また、個人的な縛りとしてオリジナルのフォーマットで全1巻のものとしました。なので文庫フォーマットで全1巻であるもの、例えば『トーマの心臓』とかが該当しないことになります。

次章以降に作品を羅列していきますが、先に自分がどういう嗜好なのかを明かしていた方がフェアだと思いましたので、参考までに書いておきます。

HN:ぺんぞう
関心領域:少女マンガの比重が大きい。その中でも集英社寄りらしい(そう言われたことがある)。
現在連載中で注目しているマンガ:『違国日記』/ヤマシタトモコ
近況:TONO先生の『カルバニア物語』をはじめて読んだんですが、めちゃ面白くてブッとばされました。あと『松苗あけみの少女まんが道』に感謝してます。

上記を見てこれはピンとこなそうだな…と感じた人は回れ右でお願い申し上げます。


※※便宜上ナンバリングをしましたが順不同です※※

1.『not simple』/オノナツメ

知り合ったばかりの女の恋人の身代わりとして殺されたイアン。彼の歩んだとんでもなくツキのない人生と、その人生を見つめ続けた物書き・ジムの物語。

いきなりオリジナルのフォーマットが1巻以上ありそうだったやつ(当初の単行本を刊行した会社(ぺんぎん書房)が1巻相当までで解散しちゃった)なんですが、自分にとってこのマンガはエポックで、というのもこの作品を読んでマンガというメディアの力を思い知り、以降からマンガを熱心に読むようになりまして。なので自分にとっては単巻のマンガを考えたときにまず外せない一作です。
オノ・ナツメ先生だと『LA QUINTA CAMERA ~5番目の部屋~』もいい単巻マンガです。『ACCA 13区監察課』の外伝扱いですが『ポーラとミシェル』は全編書き下ろしでオノ先生の才気と熱量がスパークした快作でした。単独の作品としても面白いかと。


2.『金の国 水の国』/岩本ナオ

敵対するA国とB国。友好のためにA国は一番美しい娘を、B国は一番賢い青年を送りあう縁組を行うが、両国はそれぞれ犬と猫を送ってしまう。両国間の衝突を避けるため、犬を送られたA国の姫・サーラは偶然出会ったB国の建築設計技師・ナランバヤルと夫妻を演じることにする。

単行本発売年のいくつかの賞レースに名を連ねたのでご存知の方も多いはず。人を想う優しい気持ちと国を巻き込んだダイナミズムが生む、重厚かつ心地よいストーリーが魅力です。
岩本ナオ先生には『Yesterday,Yes a day』という滋味深い単巻マンガもあり、こちらもフェイバリットの一作です。


3.『asエリス』/くらもちふさこ

高校生・鈴子(リン)は自身の多分彼氏?である藤吉と憧れているえり先輩の彼氏・仁多がハピランドというインターネットコミュニティを楽しんでいることを知る。現実とハピランドの世界を過ごすうちにリンは仁多が少しずつ気になりはじめる。

くらもちふさこ先生の描くポップでキャッチーな感じと凝った実験的な感じ、その両方のバランスがちょうどいい塩梅だと思う作品。その上でラストで示される射程も暖かくて見事にキマってるという……本作はくらもち先生作品の中ではあまり注目されてないような気がするんですが、それが不思議です。
くらもち先生の単巻マンガだと『おばけたんご』は革新的なコマ割りなど本当にかっこいいマンガだと思います。


4.『銀のロマンティック…わはは』/川原泉

(オリジナルのフォーマットは絶版なので収録されている文庫を紹介します)

バレエダンサーの父を持つ由良と脚を痛め引退した元スピードスケーターの影浦は、フィギュアスケートのコーチに見い出されペアを組むことになる。コーチとの練習や由良の父による修行を行い、二人は関東大会に出場する。

トボけた雰囲気を纏いながらも一生懸命に取り組む人々、現実のタフさ・切なさとその反転としての憧憬。これこそまさに川原マンガらしさだと思います。
本作が収録されている文庫『甲子園の空に笑え!』のタイトル作はオリジナルのフォーマットでは単巻マンガでした。これも大好きな作品です。広岡監督、好きです。(突然の告白)


5.『アリスにお願い』/岩館真理子

両親と死別し親戚の元に身を寄せていた美名子。親戚には同い年の江利子がいて、彼女たちはアリスをリーダー格としたグループで遊んでいた。ある日、彼女たちが普段から使っていた秘密の小屋で、江利子が土砂崩れに巻き込まれ死んでしまう。小屋の扉には鍵がかかっていたらしい。

ああ、この純粋さとそれゆえの残酷さたるや……(実際的ではないのですが)少女という概念を考える時にいつも思い浮かべる一作です。
岩館先生は『五番街を歩こう』とかもいいですよね。


6.『ロンリープラネット』/売野機子

常盤一郎はイケメンである。しかし語る言葉を持っていない。彼は不慮の出来事から人気占い師の姉・トキワ未来のフリをして占い店を営業することになる。

売野先生は近年に『ルポルタージュ』『ルポルタージュ-追悼記事-』という恋愛について真正面から向き合ったド名作をリリースされましたが、ルポルに流れていた水脈を辿るとここに辿り着くでしょう。どうにもならない愛や恋がある。それは本人にもわかっている。そういう者への圧倒的な肯定がある気がします。また本作には短編「その子ください」も収録されており、こちらも名エピソードです。


7.『瞳子』/吉野朔実

大学を卒業してもなお働くでもなく実家にいる瞳子。彼女の家族や友人などの交流を通じて、瞳子は自己や他者の輪郭を少しずつわかっていく。

大きなストーリーがあるわけではないのでレギュレーション違反では?とちょっと悩んだのですが、大好きな作品なので挙げました。セリフとして語られている考え方がめちゃくちゃよいです。あと装丁がマジで最高の本なので、古本屋で見かけるたびに買いそうになってしまうという奇病にかかっています。多分手元に3冊ぐらいある。助けてください。
吉野先生の単巻マンガというと、一般的には『記憶の技法』になるでしょうか。これも面白いです。ぶ~け時代は短編か数巻の連載がメインで単巻マンガをあんまり描かれてないんですよね。


8.『雑草たちよ 大志を抱け』/池辺葵

(フィーヤンっていうか祥伝社さんって自社の書籍紹介ページを持ってないんですか??見つからなくて……) 

地方の街の女子高生・がんちゃんと彼女の同級生たちの群像劇。各々が抱える小さく、でも大きな悩みを柔らかなまなざしと筆致で描く。

これも短編連作の趣が強いのですが大好きなので紹介します。魔法の言葉。エピローグが最高。同年に『ねぇ、ママ』というこれまたいい単巻短編集を発刊した池辺葵先生にいつもいつもありがとうございますと言いたいです。


9.『ビーンク&ロサ』/模造クリスタル

廃棄物のキャンピングカーに住む不安がちな少年・ビーンクと少女・ロサ。…とここまで書いてこれあらすじ説明できねぇぇえ……と頭を抱えました。
いくつかサブタイトルを記すのでどういう話か想像してください。
「肉の描き方」「バトルマンガの描き方」「車の魅力」「ゴッホの墓」

異なる立場のままならなさ・諦観・説明できないさびしさ、そういったものを求める人はしっくりくるのではと思います。そういったラインと並行してマンガ創作論のような概念が描かれるのが本作の特長です。「マンガはつまり…漠然とした概念も表現できるメディアなんだ」(p255)とか、自分はこれ以上にマンガの特性を表した言葉を持ち合わせていません。
最近のもぞクリ先生、『スペクトラルウィザード』『スペクトラルウィザード 最強の魔法をめぐる冒険』がめちゃくちゃよくてですね……


おわりに

こういうのをやると自分の視界がクリアになる感覚があります。棚卸し的というか。それは「人に紹介する」というこの企画の本来の目的以上に自分には大事なことでした。そういう意味で楽しかったです。

それはそれとして「こういうの好きなんだ、これとか好きっしょ??」みたいなレコメンは聞いてみたい気もしました。そういうのをコメントに書いてくださると喜びます。
ただ、コメントは匿名性が失われて少し嫌というの気持ちもめちゃくちゃわかります。というわけでマシュマロを開設したんでこちらに投じてくださっても嬉しいです。ていうか公序良俗の範囲内であればなんでも投じてくださってOKです。


勿論、この企画主旨に賛同してnoteなりなんなりで発表するのもいいと思います。人が何が好きで何が嫌いかを客観的に見るの、結局のところ面白いことが多いですよ。



以下は自省をやりますので見たくない人は回れ右でお願い申し上げます。



・作家買いばっかやってることが如実に出てて笑った。自分にとっての新規性、ここ数年全くないんじゃないか????
・twitterで信頼のフォロワーさんが自己紹介で「サブカルの中のメジャーが好き」と言ってらして、そういう気持ちになるのすごくわかる~~と思いました。マンガディグをマジでやってる人たちはマジですごい。
・書いた時ほとんどなかったけどあらすじ書くのめちゃムズだわ。あらすじまとめ力強強の人マジですごい。

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